第15話 か弱い女子などおらん

 痺れを切らして、ついに母親が話しを始めた。

「粒斗、あなた新しいPC買ったのね」

「うん、バイトを続けて買ったんだ……やっとね」

「あなたが学校にも行かずに、バイトに精だして、新しいPCを買った事も問題なのだけど。それより……」


 なんだ、なにが起こる? 得体のしれない不安、八つ当たり気味に母親に言った。

「なんだよ? 自分の金で買ったから……いいじゃないか!」

 母は真顔で俺を見て言った。

「その生意気な考えの息子は後で潰す……としてね」


 (!)俺に彼女が出来ないのは、母と妹のせいじゃないかと思う。


 断言しておく! 可愛いとか、か弱い女の子なんて、世界には存在しない。


 見た目に騙されてはいけない、女は男より遙かに強い。

 目の前に立派な見本が二人も揃っているではないか。

 無用なダメージは受けたくないので、下手に出る事にした。


「それで御用件は?……母様、優紀様」

 非常に調子に乗りやすく、高圧的な相手には、とても弱い俺。母と妹を「様」づけで丁寧に聞き直す。


「うむ」

 母親の了承に平服する。


「はっ! 有り難き幸せ。なんなりとお申し付けください」

「粒斗あなた、PCを優紀にあげた?」

「いや、一時的に貸したんだ。前から欲しがっていたから……それが?」


 兄妹で闇取引が有ったとは言えない。

 金利付きの借金のカタに、渡したなんて言えるわけない。


「そう……実はね、今朝、優紀の部屋を掃除していたら」


 優紀が自分の部屋に母親を入れた? 何のために?

 普段は絶対に人を部屋に入れたりしないのに……妹は良い子を装う為に鍵は設置していないが、巧妙に部屋に入られないように結界を敷いている。


 つまり親には優等生を演じ、俺には脅迫を行っている。

(おかしい……何かあるな)

 何か無性に胸騒ぎがしてきた。

 災いが俺に降りかかろうとしている気配がする。

 証拠に妹は、母に気づかれない位置から、薄ら笑いを浮かべている。


「……でね、掃除機が優紀の机に当たった時に、PCの画面が点いてね」

「ふむ、PCがスリープ状態だったんだろう?」

「それはどうでもいいけど……問題は写った画面の内容なの」

「もしかして……エロサイトでも写っていた? ハハ」


 胸騒ぎが俺の言葉を軽く虚ろにするのか、わざとらしい笑いが出た。

 俺の心には不安が入道雲のようにモクモクと発生していた。

 (もしかして、俺のお気に入りサイトが残っていた?)


「アニメの動画だったんだけどね」

「そうか~~! でも、アニメを見るのが問題なのか?」

「そうね、私もたまに見るけど……内容がちょっとね」


 内容だって? 優紀はもしかして、妹萌えのアニメを見てたのか? 妹よ、リアルはラノベとは違うのだよ……観念したまえ。これでおまえの優等生のシールが剥げる……クク。


 悪い魔法使いの表情になった俺は、薄笑いを浮かべ勝利を確信した。

 だが次の瞬間、一気に奈落に落とされる事になる。

「おにいちゃん優しくして。そんなタイトルでね」

 母が題名を言うと、妹が即座に補足を入れる。

「兄と妹もよね」

「え? そ、それは……」

 慌てる俺に構わず、次のタイトルが読み上げられる。

「お母さん大好き!」

 妹が即座に補足。

「母と息子ものね」


「も、もしかしてそれは……」

 (優紀の奴、策を盛りやがったな)

 妹の顔を見ると、すげー楽しそう。

 俺は出来るだけ、冷静なふりをする事にした。


「えーと、たまには好奇心で、そんなのを見る時だってあるさ。中学生だってストレスは溜まるだろう?」

 妹の強烈な睨みを感じながらも、兄らしい優しい言葉を使う。

「中学生? 優紀の事を言っているの?」

「そうそう、好奇心だよ」

「お兄ちゃんだと、言っていたわよ」

「え? 俺が何を?」

「お兄ちゃんから、もらったPCに入っていたって……動画がっつりと1テラバイト」


 そんな馬鹿な……最高機密、パンドラの箱が開けられた?


「お兄ちゃん……」

 妹が俺に駆け寄り、急に抱きついてきた。

 俺がびっくりしていると、涙をこぼしながら泣き声をあげる。


「お兄ちゃんごめんね。内緒だって言われていたのに……お兄ちゃんに。つい好奇心で……お兄ちゃんの言う事を守らなくてごめんね」

(優紀、なんかおまえの話は、お兄ちゃんの部分だけが、妙に強調されていないか?)


 だいたいなんで俺のせい? 状況が把握出来ない俺に抱きついた優紀が母親には見えない角度で、俺だけに聞こえる声で耳元で囁いた。


「もし、また昨日のようにあたしを探ったりしたら……殺すからね」

 優紀は俺の足を踏みながら、再び繰り返す。

「あたしをなめたらどうなるか……身体とその軽い頭にたたき込め。いいな!?」


 俺の胸元で泣き続ける優紀。形式的には、スケベで変態なお兄ちゃんとの約束を、違えてしまった可愛い妹が、泣きながら謝っている姿。


 だが実際には、妹には脅迫されている哀れな兄。

 恐怖から青ざめた俺の顔色と手の震えが、さらにリアルな感じを醸し出している。


(どうする? スケベで変態な兄に落ちるか?)

 チラッと母親の様子を見てみる。

 ゴゴゴゴ……母は身体から戦いの強烈なオーラを燃やしていた。怒り全開状態である。その戦闘力は俺のスカウターでは、既に計測は不可能。


(うぁああ、こっちはかなりまずそうだ)


「粒斗、どっちなの? あなたと優紀、本当の事を言ってるのは?」

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