第11話 SMもの。特に緊縛

僕のいる衛星も揺れが激しさを増す。

昨日より今日、そして明日へとこの地球の崩壊は避けられない。

偶然、そんな言葉では済ませない。

多くの実験と悪意がこの世界を人間が住みやすく変えてきた。

僕もその片棒を担ぐ。


世間様では天才科学者と呼ばれている「世界を変える」との評価がつくくるらいに。百年も前に哲学、科学小説では謳われたもの。

それのを実現して見せてやったわけだ。


まさに狂気の天才の僕。素晴らしい。当然、内面的には嫌味だが。


地球の諸問題、飢えや貧困の全てが、無尽蔵の力によりすべて解消される。

素晴らしい新世紀が始まる。


誰もがそう思った。


 世界中の大国は自らがリーダシップを取るために僕の研究の実験を開始した。



「粒人、入るよ!」

 脚で蹴られた扉が、ガバッと一気に開いた。寝ていた俺が飛び起きる。

「おい、そんな米国の連続ドラマな入り方は止めろよ!」

 毎日、バイオレンスに一気に開けられる、俺の部屋の扉は近いうちに破壊されそうだ。そんな心配は妹の優紀に伝わるはずもなく。


「また寝てたの粒人。もう私のPCは出来てんの?」

 寝ぼけながら夢の内容を思い出す俺が呟く。

「……もう少しで地球滅亡の原因が分かるところだったのに」

 優紀の目つきが悪くなった。

「わけ分らない事を言ってないで、ちゃんとやってよね!」


 この生意気な妹の態度に、カッと来た俺は答える。

「そこで待ってろ! 今から設定するからよ!」

 妹は俺との「契約」を果たすため現れたのだ。妹に渡す為に必要なソフトをインストール中だった。

 結局言われたままに、働き始めた俺はPCの組み立てが完成した。

「ああ、もう~~早くしてよ! この! や・く・た・だ・ず!」

 やくただず……半人前・無能・役に立たない・取り柄のない・のろま・どんくさいなどの意味。ついに、兄とか粒人ではなく、ダメな奴の総称で呼ばれながら。


「お前に渡す前に、データをきれいに、分けておいた方がいいだろう?」

「いいよ、そんなの適当で残っていてもいい……あんたのは容赦なく消すから」

「おおい! おまえ、それが兄ちゃんの大事なファイルだったら、どうするんだ?一言くらい俺に言ってから消せよ」

「なんで? そのパソコンはもう、あたしの物なのよ!」


 確かに妹から借りたお金で新型PCは完成して、目的のFFベンチマークは満足が得られるスコアが出た。画面のハードコピーも取ったのでSNSで自慢するだけなのだが……。


 大事なファイルを消されるのは困る。だがそれより、俺のお気に入りブックマークなどから、導かれるラビリンスが危険すぎる。妹に見られたら、大惨事が起こってしまう、見つけた妹はニッコリ笑い、家族の食卓で話題にするだろう。


「お母さん、お父さん、お兄ちゃんがね、エロいサイトとか見てた~! 困ったね~!」


 両親に無邪気に言いつけるだろう。それに妹の部屋で母親から発見される可能性もある。

 父親は妹の部屋に入って、PCを開く事などあり得ないが、何にでも興味を示す母は、非常に危険な存在。ちゃんとクリーンアップ&ロックしておかないと……と、ここで俺の様子を見てイライラし始めた優紀。


「まだなの? あんたがさっき、待ってろって言ってから、すでに二十分は経ってるよ」

「あ、そうか。ちょっと考え事をしてた」

「女の子を待たせといて、エロな妄想を膨らませているわけ?」

「なんでもエロだと決めつけるな!」

「なにその偉そうな態度! あんたがそういう態度をとるなら、あたしにも考えがあるわ」


 脅迫モードに移行した妹。最近すぐにキレるな。

「考えって……いったい」

「情報公開します!」

「へ?なにの?」

「あんたの趣味や日常の習性について」

「たとえばどんなの?」

「土曜日深夜は、勉強と称して動画のダウンロードを行っているとか」

「ま、まて!」

「ネットゲームで女の子だと思って口説いたら、ネカマだったとか」

「なんで知っている!?」

「お宝本は懐かしのSMもの。特に緊縛ものが大好きとか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る