第10話 命かける事になる
俺の勉強机の椅子に座り、白く長い脚を軽く組んだ妹が、感心なさげに答える。
「とにかく! これを受けと取って。そして新しいPCを組み立てて私によこせ!」
既に恐喝モードへと移行した優紀に、恐る恐る確認を続ける。
「おまえ本気か? 朝まで一人でいやらしい事をしている兄……いや、それはお前達の誤解だが……やはりそうか、おまえがいつも言う“粒斗、死んでしまえ”の決めセリフは、本当は兄に対する愛情表現だったんだな」
俺の感激には反応無し、あご先で「封筒を早く開けろ」と催促する我が妹。
普段なら、そんな生意気な態度に怒りを覚える。さっきも「粒斗」と呼び捨てだったし。だが今日の俺は笑顔のままだ、いや涙さえ浮かんでくる。
「俺は妹に愛されていた!」近所に叫びたいくらいだった。
茶色い封筒を開けると、中には10万円が入っていた。
「……おまえ、こんなに出して大丈夫か?」
「あん? 大丈夫よ。正月は粒斗より早く起きて、親戚と近所を廻って、あんたの分まで、お年玉をもらって貯めていたからね」
偉そうなしゃべりに、とんでもない過去の行為を聞かされても、俺は笑顔のままだった。
「そうか、そんなにしてまで、がめつく貯めた大事なお金を……俺なんかにくれるのか」
感激して号泣している俺に、優紀があごの先で「ちゃんと見ろ」と催促する。
「うん? なんか、もう一枚入っているな」
封筒から抜き出して広げると、それはこんな感じ。
“借用書 次空優紀様
私、次空粒斗は貴方様から10万円をお借りしました。つきましては元金+金利10%を毎月二十日にお支払いたします。
また、お礼として新PCはいつでも優紀様にお貸しします。なお、支払いが滞った場合は、即座に私のPCをお譲りします”
「借用書? 金利を払えだって……兄妹で? ありえねーだろ!」
机の上でスッと向きを変えて、俺に顔を近づけた優紀。
スカート短すぎ! 白い太股が目につく。ドキリとして目をそらすが、どうしても視線がそっちの方へ。バカな妹だぞ!?妄想する相手が違うだろう。
優紀のピンク色の唇を開いた。
「あん? また文句? わたしは別にいいわよ? でもリベンジするんじゃなかったっけ? ベンチマークとやらに」
「いや、それはそうだが……妹に借金してまでって……しかも金利高いし……なあ」
「バカね! それくらい自分を追い詰めないと、ダメダメ人間のあんたが、速やかにPCを強化、仇討ちを実行なんて、出来るわけない!」
煮え切らない俺に対して、優紀は細くて白い人差し指を自分のピンクの唇に立てた。
「静かにして。わたしの指先をよく見て。余計な事は考えない」
俺の目の前に人差し指を近づけた妹。
「すぐに優柔不断な態度が出る。ハッキリと自分の意志を示せない。文句だけはたくさんあるけど、どうするか? どうすればいいか? そんなのまったく考えていない。だからいつも計画は失速してしまう。今回はどうしても新しいPCが必要なの。だから……少しだけ外してあげる」
頭がスッキリするっていうか解放感が俺を捕えていた。
俺の様子を見て満足そうに優紀はニコリと笑った。
「分かったみたいね。じゃあ、そろそろ行くね!」
机から腰を上げて、手を振りながら扉へ向かう妹。
たしかに優紀の言うことも一理ある。そうだ! やはり男として、長男としてやるときはやるべきだ。
「よし! がんばるぞ!」
カチャ、扉が開いて優紀が顔を出した。
「そうそう、忘れてた。一応、あんたの名前の横に印を押しておいてね」
バタン、扉が閉まった。
印だって? どれどれ……
「優紀! この印には“血判”押せと書いてあるぞ!」
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