第9話 ハイエンドPCvsリアル俺の妹

 ドンドンドン、俺の部屋の扉を叩く音。


「ただいま留守にしています、御用の方は来週にでもいらしゃってくださいまし」

 俺の丁寧な制止にもかかわらずに、乱暴に妹が部屋に入ってきた。

 妹の服の趣味は基本的にガーリー系でお気に入りのブランドもいくつかあり、今日はキャミソールに大きめのパーカーをはおって、アンダーはパイル地のミニのパンツ。


「おいおい、いきなり入って来て俺が恥ずかしい行為をしていたら、おまえどうするんだ!」

 俺の前に立つ妹の優紀はまことに不機嫌そうだが、ゆるゆる低めに結ったツインテール。ようするに現代風おさげで髪の色はライトブラウン。瞳は黒目が大きく愛らしい。

 しかし! 妹萌え系のアニメや小説が流行ってはいるが、それを面白いと感じるのはリアル妹がいない奴らだと思う。俺の妹、次空優紀(じくう・ゆうき)受験を気にしなくていい付属の私立中学の三年生。


「この世界でわたしに敵う者はいない」とマジで思っているふしがある。


 兄から見ると「冷静で生意気、ついでに執念深い」扱いづらい事この上ない。

 学校や近所では妹は良い子と評価され『お兄ちゃん思い』などと、俺には想像も出来ない単語が、いつの間にか使われていたりする。


 家庭内では父親と母に「無能なお兄ちゃんに部屋などいらないわ」を主張している。どうやら妹は俺の部屋を奪い取り、二階のフロアーマスターを狙っている模様だ。無能な兄は掃除機と一緒に。三畳の物置部屋へ移民が確実視されている。


 優紀は俺のプライベートなど、まったく意に介さないで部屋に入り指を指す。


「これ頂戴!」

「これ? って……」


 妹が指したのは現在絶賛組み立て中の新PC。

 スコア20000点越を目指している。


「優紀、いきなりこれ頂戴って……おまえは〇ルヒかよ!?」

 ラノベで自由奔放、言語道断の行動を行う古典的ヒロインと同じ言動に、俺は大事なPCを後ろに隠す。


 妹は理由は不明だが、俺の高性能のグラボつきのPCを狙っていた。


「いいじゃない! そんなダメなパソコン要らないでしょう?」

「なんでおまえが、ダメとか決めるんだよ! だが確かに……今は少々遅いが」

「はい、これ!」


 俺の言葉を遮っていきなり、妹の優紀が差し出したもの。


「……うん? なんだよこの封筒は?」

「カンパしてあげる」

「ええ? おまえがか?」

「うん、あんた新しい部品欲しいじゃないの?」


 まて、こんな事がリアルで起こるはずは……その可能性は0%より低いはず。


「まて、ちょっと確認するぞ!」

 優紀が「何が問題なの?」と俺を見ている。


「おまえは、俺がベンチマークに、リベンジを果たす為の新たな戦いに、資金を投入する気なのか? もしかしたら、勝てない戦いになるかもしれないぞ。それほどにベンチ壁は厚く険しい……」


「なに言っているのか、さっぱり分からない。でも粒斗は新しいPC組み立てたいでしょ?」

「まあ……そうだが……俺のプライドを取り戻す為には、20000を越えてこそ勝利となる!」


 はぁ~~大きなため息をついた優紀は、俺の机の角に腰を掛けた。


「だから、それはどうでもいいの。私は高速な演算能力が欲しいの。あんたの勝負はどーでもいい」

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