第8話 真っ白に燃え尽きる

 家に帰った俺は、勉強などするわけもなく、ゲームや動画を見て時間を有意義に使っていた。

 他人から見れば、無駄な時間に見えるだろう。

 親父と同様で価値が分からない者には宝箱だって、古びた汚れた物入れにしか見えないからね。


「粒斗~ご飯よ」母の声だ。


 カタルシスな美少女ビデオを見終わり丁度いいタイミング。

 一階に降りて夕飯をたらふく食べた。

 今日のおかずは醤油味ベースの和風ハンバーグ。母親は料理の腕だけは確かだ。


「一つでも実があれば、それだけで救われるな……モグモグ」

 直接母親には言えない言葉を思いながら夕飯を食べ終わる。


「ごちそうさま」部屋に戻ってベッドに寝転ぶと、たらふく食った俺は完全に機能停止……再起動したのは、零時を過ぎていた。


「親父達は寝たかな……じゃあ、そろそろ活動を開始するか」

 俺は深夜に起きてする事。それは新しいPCの組み立て。

「これでやっと……リベンジが出来る」


 凝り性の俺はPCの基盤からCPU、グラボを個別に買っていた。目指すは神PC。赤いフルサイズケースがすげーイカス。


 で、それで何をするかと聞かれれば、ベンチマークだ。

 テスト用のアプリでPCの性能を図って、SNSで自慢する事。


 中学校時代に部活も勉強もせずに、懸命にバイト(ダメだ)

 親の財布からばれない程度に、お金をちょろまかし(もうダメダメだ)

 お使いも進んで自分から行き、妹から金で雇われ、兄の威厳も捨てて(サイテーダナ)


 やっと組上げた俺の神PCなのなのだ。すっごい性能はずだ。

 さっそく、有名なベンチマークアプリをダウンロードして起動。


「むむ……これは何かの間違いだ、誰かの陰謀だ!」

 表示された値は3000点……20000越えスコアを目指していたのに、俺の人生そのものが、否定された感じがした。このままでは終われない、今日は朝までトライアンドゴーだ!



「おーい、起きないと学校に遅れるぞ! バカ粒斗!」


 優紀が足で俺の部屋の扉を、蹴飛ばして開けた。


 そこには徹夜でベンチ測定をやり続けた、漢が燃え尽きていた。

 ベンチマーク徹夜はさすがに初めてだった……カーテンを閉め切った漆黒の空間に、優紀が開けた扉から直線に伸びる光の道。


 その光は真っ直ぐに伸びて俺を照らした。

 逆光の中で天使のように、輝く優紀を眩しそうに見る俺。

 真っ白に燃え尽きた俺を、しばらく見つめて妹は突然、悲鳴に似た声を上げた。


「粒斗……おまえ何をしてるの!? 朝までずっと、それをやってたの!?」


(そうだ、朝までベンチマーク……兄ちゃんは負けたのだ……)

 黙って頷く俺をすごい形相で睨んだ優紀。


「変態、粒斗なんか死んでしまえ!」


 バタン、大きな音をたて優紀は扉を閉じて光の道を閉ざすと、再び闇に落ちた俺の部屋に、PCのディスプレイの僅かな光だけが輝く。


 そこにはあまりのショックで、トイレに行ったままでジッパーを全開の俺と、朝方見たエロ画像が、フルスクリーンモードで広がっていた。


「ベンチの平均2100って……落ちてるじゃん。一回で止めとけば良かった……」


 遠くで優紀の声が聞こえる。

「お母さん! 粒斗がエロサイトを見て、いやらしい事している!」

「え? 何のこと?」


 驚いた母親が聞き返している。

「げっそりするまで、いやらしい事してた。ぜんぜん寝ていないみたい」

「その行為を、優紀は見せられたの?」


 妹の泣き声が聞こえる……100%嘘泣きだが、今の俺にはどうでも良かった。

 家族の評価よりベンチの結果。


「神は俺を評価してくれない……こんなにがんばっているのに」


 複数の階段を上ってくる足音が聞こえる。

「粒斗! おまえ妹に向かって」


 親父も参加して、我が家の三国同盟が成立したようだ。

 三人は妹にお猿行為を見せる、変態兄の部屋を目指している。

 ドスン、部屋の扉が乱暴に開けられ、再び光の道が俺を照らす。

 振り返ると三人の残酷な天使が俺を睨んでいた。

 うなだれた俺は、隈が出来た目で虚ろに三人を見る。


「粒斗! いったいどうゆうつもり?」

 三人の残酷な天使のお言葉を聞きながら、俺は何度も呟いていた。


「……萌えたよ、真っ白に萌えつきた……」

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