第6話 完璧な幼なじみ

「粒斗? ちょっと聞いてる?」


 放課後の高校からの帰り道。ぼーとしている俺。いつものように、自然に当たり前のように横を歩く少女は少し変わった色の髪色と瞳を持つ。


「あ、ごめんなんか浮かんだ。空飛んでた」

 少女は透明感がありながら少し低めのトーンの心地良い声で、でも意志の強さを感じさせる、ハッキリとした口調で話し始めた。


「あら、最近多いね。白日夢ってやつかな。もしや家でなんかあったかな?」


 まったく咲恋にはかなわない。この笑顔と洞察力……そしてどこか神秘的……は言い過ぎだろうか。雨音子咲恋あまねこ・さくら。誕生日は三月十五日。

 うお座で血液型はB。幼なじみで同じ高校に通う同級生。


 とても不思議な事に「何故か俺と仲が良かった」


 咲恋の成績なら進学校へも、苦労しないで入れたはず。

 俺と同じ都立高校入ったのは「俺と一緒にいたかったからか?」時折、自惚れてみたりしている。


 咲恋の髪の色は、遊びに行くときも、ウィッグがいらないようなクリムゾン。今時、なんだが、髪は女の命とずっとロングを貫く。

 性格はとても真面目だが、行動力もあるため人に頼られる。

 現在学校の帰り中である俺と、どう考えても釣り合いがとれない、自分でもそう思う。そして他人からはもっとそうだろう。


 夕日に映える赤毛と光が透き通るルビーの瞳。そんな幼なじみに一瞬見とれた俺に咲恋が気がつく。


「……何を見ている? 粒斗」


「あ、いや、よく考えると、おまえ……結構いけてるな」

「わたし? なにがいけてるの?」

「容姿と成績の良さ、あげくに人間としても立派。おまえって完璧だ…それにひきかえ俺なんて、ずっと前から終わってるな」

「粒斗にはそう見える? 実は欠陥だらけよ、わたしなんか。何一つ自分で決められない。いえ、受け入れることしか出来ない、そんなつまらない女なの」

「受け入れるって何を? …おまえはいつも自発的に動くだろう?」


 咲恋の白いブラウスのわざと、ボタンをひとつ多めにはずし襟元には、シルバーの小さなペンダントを見える様につけていた。


「俺のクラスでも咲恋に惚れている野郎は多いぞ」

 ルビー色の瞳はゆっくりと首を振る。

「好きでもない人に、いくら好きと言われても、そんなの困るだけだよ……そんな事より」


 ピンクの唇が開いた。

「わかり合えないなら、なおさら、まともな言い訳を考えた方がいいと思うけど?」

「親父の事? そんな事言われてもなあ~~! その時は何の準備もしてなかったし」

「準備って何の準備かな?」

「俺アドリブに弱いから……ほらアスリートも言うじゃない?事前のイメージトレーニング大事だって……」


 あきれ顔の咲恋。

「なんか違うような気がする……やっぱり何にも考えていないぽい」

「バカとはなんだ! 生まれつきアドリブに弱い芸人の苦悩なんか、おまえに分かってたまるか!」


「バカとは言ってないけど……でも若手芸人の話より粒斗の方が面白い気がする」

「それはありがとう……って! 俺だって出来ればおまえみたいに、可愛くて頭が良くて、口から生まれてきたかった」


「途中から、あたしへの褒め言葉じゃなくない?」

 俺を見返した二重でハッキリしたラインの瞳。

「そうかな? 全力で雨音子咲恋を俺は褒めているのだが?」

「わたしの事はいいから、お父さんとは和解した方がいいと思うよ」

「俺が何を言っても全部が屁理屈。どうせ俺は橋の下から拾われてきたんだ」

「そこで、幼稚園児みたいな事を言わないの」


 駄々っ子の幼児に思案する紅い髪の少女。


「だって! しょうがないだろう? 俺は嘘つく事は多いけど、その行為自体は苦手なんだからさ」

「あらら、ここで開き直ります?……嘘をつく必要は無いと思うの」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「ちゃんと、説明しなさい。なぜ粒斗が行為に及んだか、相手に分かる言葉を使い認識を共有する……て、聞いてる粒斗!?」


「あーあー、金持ちの家に生まれたかった~~それも三代目がいい。世襲だな。毎日好きなことやって、新しいPCも毎月買って、彼女も雇って」

「彼女も金でつくる気? まあ、その辺は自分を解っているとも言えますね」

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