第2話 平凡な俺の日常に危機

ファンタジーの読み物やOVA鑑賞に耐えられるような、もの凄い経験はいらん。

異世界でハーレムもいらん! 


でもさ……少しくらい何かがあってもいいだろう? 俺の日常。

高校にも入れた……ばっちり第二志望だ。

近所に可愛い幼なじみが住んでいる仲がいい……原因が不明。

勉強出来ない……てっぱん。

友達も結構いる……悩みなんて相談出来ない。

親の期待もある……たぶんある筈だ。


お亡くなりになったばかりの人の心電図のような平坦そのものの生活。


 世界を救いたいわけじゃないさ…でも近所の幼なじみの危機くらいは一回くらい救ってみたいよな。勿論下心は有りで……はぁ。

 その後のロマンス……はぁあ。無理だろうなあ……はぁあ。


 このままだとオレの高校生活は何もないままである。

 そういえば中学も何も無かったぞ、このまま死ぬまで何にも無しかよ?

 俺は俺次空粒斗(じくう・りゅうと)

 春に高校二年生になった。


 自分の部屋のドアを開けて廊下に出るといつもでかい親父の声が、今日は一段とでかい。怒気を交えて、俺を呼ぶ親父の声が一階から聞こえた。

「粒斗、ちょっとこっちへ来い!」

「はーい、今行く」

 いつになく緊迫した親父の声だった。

(……何が見つかった?)


 学校に行ってない事か? 部屋のエロい品か? それか? もしかしてあれか? それともこれか?「やばいこと」に身覚えが有りすぎる俺は、この時点では何がやばいのか、まったく確定出来てない。

 アドリブに弱い俺は何本かのシナリオを頭に描き、緊張しながら親父が居る一階の居間への二階の階段を降り始めた。


 そわそわと挙動不審のまま、居間にいる親父の前に座る。

 親父がかなり怒っているのは一目で解った。

「親父……用件は何?」

 恐る恐る聞くと、真向かいに座る親父は机の上に二枚の紙を置いた。

「……これは?」


 親父は腕を組んだまま目線で見てみろと俺に促す。

 俺は親父の無言の圧力に押され、すみやかに置かれた二枚の紙を手に取って確認する。そんな俺に親父は聞いた。

「なんだと思う?」

「なんかの領収書だね」

 高校生の俺は貰わないものだし、興味もない。


「そうだ粒斗。領収書だ! おまえはこれに身に覚えがあるはずだ!」

「何のこと? 俺には覚えがなんてあるはずが無い……あ!」

 明細を手に取り詳しく内容を見た俺の血の気が引いた。

「これは……」

「明細書は翌月に、遅れて発行されるのは知っているか?」

「そんな常識的な事は知っているさ」


 ……しまっもう少しだけ記憶力があればこの事態は回避出来た。だが俺は自分に都合の悪いことは速やかに速攻で忘れる。


「おまえの携帯の明細書だ。金額の欄を見てみろ!」

「一、十、百、千、万、十万……ええ! 十二万?」

 大げさに驚く俺を見ながら親父が正確な値を叩き出す。

「十二万六千八百円だ! 使った本人がわざとらしい」

 俺がスマホのゲームに課金したガチャ代、確かに使いすぎた感はあったが。

「え~っとですね、これは……何かの間違い。12万ってさあ」

 何とか誤魔化そうとする俺を逃さないように、すぐに親父からの追い打ちが来た。


「この請求先……オバゲーていう会社はなんだ? 粒斗」

 これはもう誤魔化せそうもない……ここは正直に「桜の木を切った人」を見習おう。つまり素直に謝り、低姿勢で事に当たるのだ。「桜を切った人」は、低姿勢ではなかったと思うがその辺は俺ならではのアイデンティティ。


「ゲームだよ。流行のソーシャルゲームってやつ。親父は知らないか」

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