「狂っている人」と書いて「オレ」と読む

こうえつ

第1話 狂った世界の結末

僕が感じている「この」感覚は他人には伝える事が出来ない。

これから話す事は嘘ではない、でも、昼ランチを済ましたあなたは言うだろう。

「あなたは狂っていると」……穏やかな日差しの中で。


地球が氷のように粉々に砕け散っていく。


 その反動はブラックパワーに守られた、衛星軌道にある、この施設まで届かないが破壊は月まで及ぶだろう。


「世界が終わる」その時にその場所にいた事はそれは些細な事だ。

「狂っている」自分の物理的な姿と内包される精神。

 心と言われるあやふやで唯一無二なものが感じていた。

 

 それは恐怖でも絶望でもない「責任」だった。

 この時を迎えたのは全て僕のせいだから。

 地球を粉々に砕く……前兆があったとき、僕が訴えた。

 可哀そうにと僕を見ていた人々「狂った人」との声。


 だが現実は「狂った人」の言葉通り、僕の予想どおりだった。


 それを分かってもらう為にビジョンを残している。

 恐怖を伝えるには偽のCGの方が派手で良いだろう。

 でも現実の終わりは思ったよりも静かで、下手な映画のような演出のようだ。

「なぜ滅ぶ世界を記録しているかって?」

 それは……微かな希望を託したいからだ。


 デスループする時間に。


 僕はまたも同じ言葉を口にする「最後の微かな期待」

 僕の地球の衛星軌道に乗る研究所が大きく揺れた。



 ……俺を揺さぶる巨大な力。もうこの研究所も持たないか……。


 「おーい、起きろーバカ!」

 (バカだと? 俺は世界一のジーニアスな奴だぞ!)

  起き上がった俺を覗き込む女。

「やっと起きたの? 粒斗!」

 さっきまでの地球の崩壊のシーン、それより思いっきり見覚えがある妹。


「何をする! 俺の頭は世界を救う貴重なもので……世界の破滅をな」

「あんたは朝から……バカ全開? 狂っている? 刺激を与えるわ!」


 上空から妹の肘が俺の頭を直撃。


「痛て~~てめえ優紀、兄にむかって何をする!」

 妹は次の必殺技の準備を完了していた。

「ちょ、ちょっと待った! さっき言ったようにだな、俺の頭脳は世界のために必要なんだ……うぁああああ!」


 話の途中ではあるが……妹の必殺技が頭上から放たれ、頭が真っ白になって意識が飛んだ。



「あれ?」

 しばらく気絶していた俺が目を覚ますと、俺の顔を妹の優紀が睨んでいた。

「お母さんが何度も呼んいてたよ……粒斗、降りてきなさいって……知ってるかな? 次空粒斗があんたの名前なのは?」

「自分の名前くらい知っているさ!」

 俺の反論など絶対無視の妹がぼやき続ける。


「まったく粒斗の部屋なんか入りたくも無いのにさ……ドアを開けたら『僕の頭脳が世界を救う』とか。まあ、妄想も寝ぼけるのも、あんたの勝手だけどね」

「えーと……俺が世界を救う? それじゃまるで厨二病じゃ……俺は高校生だぜ」


 妹は腕組みして俺を上から見下す。

「高校生になってもあんたのバカは治らないの? 夢の内容はどうでもいいし興味もない、まったく聞きたくも無いの。いい!? あたしの要望は一つ。早く降りてきて頂戴!」


「うんーん」中二ぽい夢を見たか。どうやら俺は学校から帰ってきてデストピアなDVDを見ながら寝たらしい。

 PCが立ち上がっていて、布団の横にはDVDの空のパッケージが置いてある。内容は最近流行っている美少女のカタストロフィーもの。


 このDVDの影響であんな夢見たのか俺は。

 自己納得した俺は『ジーニアスな僕』から『最低の高校生の俺』に戻っていた。

 まだ部屋に居た優紀が妄想中の俺をジロリと見た。


「とにかく早く降りてよ。お父さんの機嫌チョー悪いよ。なんかやったでしょう?」

 妹の三発目の肘打に怯えながら防御態勢をとり、兄らしく言ってみる


「な、なんだよ。そんなに毎日毎日、事件を起こせるネタはないはず……はずだ!」

 曖昧な断言をして続ける。

「それと兄が寝ていたら、妹としてやり方があるだろう? いきなり俺の頭を粉砕するってダメだろ!?」

 俺のダメ出しを聞いて妹の瞳がキラリと光った。

「あーめんどくさ! もう一撃喰らいたいの? じゃあ今度は全力で逝きますか!」


「うぁああ~~。冗談です冗談……あれ? 無しなの」

 俺の期待(?)には答えずに妹は振り返りドアへ向った。


「軽薄でおばかでエッチな高校生……次空粒斗。ジーニアスなあんたより、確かにあたしを安心させる……でもね少しだけ懐かしかったよ。狂っているあなたが」


「あ? 懐かしい? ジーニアスな俺か? 狂っているのはそうかもだが、全部が夢の話だぞ妄想」


 閉まりかけのドアに向って投げた俺の言葉は消え、妹は無言で扉を閉めた。

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