第2話 Bと赤いスーパーなチャット

ユキノさんがB tuberであることを知ったその日、社長からLINEが来た。

「音喜多ユキノ、びっくりしたでしょう?」

「一応彼女がB tuberってことは僕と稲葉くんと玉木くんだけの内緒だよ笑」

玉木先輩はユキノさんの超有能前任マネのことだ。びっくりもなにもこんなことは初めてだよ。でも意外と気持ち悪さとか痛いとかそう言った感情は持たなかった。『音喜多ユキノ』というキャラクターを(検閲済み)歳にも関わらず操る彼女の実力、演技力に圧倒されたのだ。だって中身おばあちゃんだなんて思ってもいなかったほどだもん…

「これがトップVtuberかぁ…」

感傷に浸るその言葉は寒い夜空へと白い息と共に思わず吐き出された。



バーチャル、というかY○uTuberとして生計を立てるものには休みはほぼない。動画のネタ作り、撮影、編集。これだけで1日の殆どが潰れる。ある日もまたユキノさんを訪ねると孫のユズハちゃんが家の前を掃除していた。

ユズハ「あ!稲葉さんこんばんは。おばあちゃんなら今ライブ配信中です。」

悠馬「こんばんは、じゃあちょっとお邪魔するね」

ユズハちゃんも確かにユキノさんの孫なんだなと感じさせるようなテンション、喋り方だった。

配信の邪魔をしないように静かに豪邸へと入っていく。配信をしているのは防音室だ。ユキノさんはもともと音楽関係の人で家を建てる際に作ったらしい(ユズハ談)。

入っていく訳にはいかないので自分のスマホで見るか。

配信にはハイパーチャットというお金を払ってコメントを目立たせる機能がある。払う金額によってさらに色が変わる。

視聴者A「最近彼女が冷たくて困っています」

視聴者B「大根をたくさん貰ったので使い切りたい」

ユキノ「彼女が冷たいのかぁ、それなら…

「大根なら今の季節ならおでんとかどうかな!?あとは…

ユキノさんの配信はさながらお悩み相談所のようである。V(バーチャル)の世界からB(ババア)の知恵袋で瞬く間に解決していくその姿が『前世はカウンセラー』『絶対解決するマン』『人生の教科書』と呼ばれる所以である。

視聴者C「自分から好きになったのって君が初めてなんだよね…って言ってください!』

真っ赤な色がついたそのコメントは他のものとは一段と格別な気がした。

ユキノ「自分から好きになったのって君が初めてなんだよね…」

この世の中には知らなくていいこともある。まさか中身が(見せられないよ)歳とは誰も思いもしないだろう。

結局、その日は自分もときめく言葉が欲しくなった視聴者によるハイパーチャット合戦が繰り広げられ、一晩で100万円を稼いでしまった。これが後にバーチャル史に残る『音喜多ユキノ冬の100万のトキメキ事件』である。

防音室から出てきたユキノさんは人にトキメキを与えすぎたせいかとても疲れて見えた。

悠馬「お疲れ様です…大変でしたね」

ユキノ「自分から好きになったのって君が初めてなんだよね…………」

そう言ってソファに沈んで眠ってしまった。

なぜが激しく乱れる自らの鼓動に動揺が隠せなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

B(BA)tuber ユキノちゃん! どむどむ @ikyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ