B(BA)tuber ユキノちゃん!

どむどむ

第1話 BとV

---あの時、あの誘いを断っておけばこんなこと知らずに済んだのに なんて気持ちになるのは、この眼前に広がる光景を見れば誰にとっても当然だろう。


社長「稲葉くん、私は君の力をかなり評価していてね、我が社とっておきの子を任せてもいいと思ってるんだ」

悠馬「え!?"とっておきの子"って一部界隈では『前世はカウンセラー』と呼ばれる音喜多ユキノですか!!?」

社長「さすがだよ稲葉くん。正解だ!早速来週から是非マネージャーを頼めるかい?」

悠馬「もちろんです社長!!!ありがとうございます!!!」

バーチャルなY○uTuberと契約を結び、マネジメントをする会社に勤めている僕、稲葉悠馬は下手したら30代前半にも見えかねない敏腕社長を背に嬉々として社長室を飛び出した。音喜多ユキノは界隈では一二を争うVtuberでCMに出演したりもしている。そのうえ声がかわいい。しかし、現実は非情なものであるので良くも悪くも素顔がイメージと違うのはこの仕事をするうえで覚悟が必要で、Vの1ファンでもある僕にとっては初めて対面するときが1番悩ましいものなのだ。




1週間たった水曜、ついにユキノちゃんの自宅、もとい収録現場に向かっている。前任との引き継ぎに支障がでて予定より2日遅れのスタートだ。前任は超有能な女性マネで、産休により僕と代わった形である。正直言って上手くできるかどうか不安でしかない。その彼女から「手土産には必ずおはぎを持っていくように!」と念押しされたがチョイスが渋すぎないか、ユキノちゃん。しばらく歩くといかにもお金を持ってますと言わんばかりの大きな家が見えて来た。相手は超大御所だ。震える指でインターホンを押す。

???「は〜い」

悠馬「株式会社WiTUBEの稲葉と申します。音喜多様のご自宅で間違いないでしょうか。」

???「あ!!新しいマネさんですね!少々お待ちください!」

ユキノちゃんは素でもバーチャル時と同じハイテンションだった。高鳴る鼓動を感じながら待つこと数分、孫がいそうな年代の女性が扉をあけて何も言わず微笑みながら手招きをした。ユキノちゃんのおばあちゃんかな。お宅にお邪魔すると高校生くらいの女の子が出迎えてくれて、お茶とお菓子を出してくれた。この子がユキノちゃんだよね。

ユキノ?「それでは稲葉さん、改めてよろしくお願いします!」

さっきはインターホン越しだったのであまりわからなかったが、ユキノちゃんはどうやらバーチャルとは声を使い分けているみたいだ。こんなことは日常茶飯事で全く珍しいことでも悪いことでもない。

悠馬「それではまず引き継ぎに関わることから……

僕が色々と説明をし、JKとおばあちゃんは隣り合い、共にうなづいていた。

悠馬「では早速次回分の収録をはじめましょうか!」

ユキノ「はい!おねがいします!」

その声がJKからではなくおばあちゃんから発せられたものであることに気づいたのは数秒たってからだった。

悠馬「ええええええええ!?そっち!???」

ユキノ「そっちってなによ!失礼だなぁ〜」

悠馬「すっすみません!じ、じゃあそちらのお嬢さんは…?」

ユキノ「孫のユズハです。かわいいでしょう?」

ユズハちゃんは照れながら後頭部に手をやっている。

どれだけユキノちゃんがイメージと違っていても動じないつもりでいたが、これは変化球すぎる。前任があれだけ手土産におはぎを連呼していた理由がわかった。


それから間もなく撮影が始まった。ユキノちゃんがユキノ"さん"だったのを知ってから、書類に生年月日等が書かれていたのを見つけた。いつも生配信で楽しみにしていた「あ!またバカって言ったでしょ!バカって言った方がバカなんだよバーカバーカ!」が○○歳から発せられていた言葉とは知りたくなかった。

ユキノ「今回はここまで!最後まで見てくれたあなたに幸せの雪が降り積もりますように」

とは言え、彼女のプロ意識には目を奪われるものがあった。


ユキノさんが編集した動画を問題がないか一通りチェックし、僕の初日のマネージャー仕事は終わった。

悠馬「ユキノさんお疲れ様でした」

ユキノ「悠馬さんもお疲れ様でした〜。あ、そうそう。悠馬さんの前任の方とこの音喜多ユキノプロジェクトのことなんて言ってたか知ってますか?」

悠馬「聞いたことないですね」



ユキノ「B(BA) tuberです」

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