第4話 些細で当たり前の...

アルド「リル...やっぱりショックだったんだな」

サイラス「流石に自分が人間じゃないと知ったときのショックは大きいでござろう。それに...」


アルド「あぁ。リルは人一倍家族に憧れをもっていたからな。本当の父親に会えなかっただけじゃなく、家族すらいないなんて聞かされたら誰だって逃げたくなるよな」


サイラス「すまぬ、拙者がジャスパーの口を割らせなければこんなことには...」


アルド「サイラスは悪くないよ。悪いのはジャスパーだ。そういえば...」

気絶させたジャスパーの方を見る。そこにはジャスパーの姿はなかった。


アルド「サイラス!ジャスパーがいないぞ!」


サイラス「なんと!あやつこの混乱に乗じて逃げたでござる」


もしかして...嫌な想像がアルドの頭をよぎる。


アルド「アイツ、リルの跡を追ったんじゃないか。だとしたら大変だ」


アルド「リルを早く探さないと!」


サイラス「と言っても手がかりもないとなれば、どこから探せば良いのやら。アルド、リル殿が行きそうな場所について知らぬでござるか?」


アルド「リルが行きそうな場所か...思いつくには思いつくんだけど...」


幾度となく時空を飛び交ってきたリルの行く場所を予想するのは容易ではない。アルドは頭に『ある場所』が浮かんでいたが、それが正解かどうかは自信がなかった。


アルド「悩んでいても仕方ない!いくぞ!サイラス」


アルドとサイラスはリルを探し、各時代を走り回ることになった。



一方、その頃 BC2万年 パルシファル宮殿。

パルシファル宮殿内を歩くリル。

そんなリルに一人の女性が話しかけた。


女性「あれ?リルくん?どうしたの?」

彼女は以前、リルが彼女の父に代わって手紙を交換していた女性だ。ゴーストライターをしていたことを打ち明けて以降、リルと彼女は会ってはいなかった。



リル「あ、お姉さん...」


女性「どうしたの?元気がないみたいだけど」


リルは思わず泣き出しそうになってしまう。泣き出すことはできない。そう、自分はアンドロイドだから。


リル「お姉さんは...」


女性「ん?」


リル「お姉さんはもし...自分の家族に血の繋がりがなかったどうしますか?自分がもし全く違う人の子供だったりしたら...」


う〜ん、と考え込む女性。リルの鬼気迫る質問に何かを察したのかこう答えた。


女性「あのね、血の繋がりだったり、自分が思っていた立ち位置と違うってそんなに重要なことなのかな」


リル「え?」


女性「お父さんとはちゃんと血の繋がりがあったから、リルくんが何に悩んでいるのかは分からないけど...お父さんと離れてからも私は沢山の人にお世話になったよ?」


リル「お姉さん...」


女性「その事実を知ったとしても、自分がしてきたこと、生きてきたことは何一つ変わらないわ。それに私はリルくんには感謝しているわ。お父さんの想いを、最期をちゃんと伝えてくれたんだもの」


お姉さんの言いたいことも分かる。分かるからこそ涙を流すことができない自分が嫌で嫌でたまらないリル。


女性「リルくん、何かに悩んでるならちゃんと周りを見て。リルくんが思っている以上にリルくんは一人じゃないんだから」


女性「困ったときは頼ればいいの。まだ子供なんだから。この前の剣士さんやカエルさんだってきっと頼りになるわ。優しい人達だもの」


リル「... そうだ。ボク、心配してくれているアルドさん達を置いて逃げてきちゃったんだ」


あらあら、と女性は困った顔をする。でも...


女性「あらあら、困ったわねえ。でも、もう心配はいらないみたいよ?」


リルが振り向くとアルド、サイラスの両名がいた。

必死にリルのことを捜索していたのだろう。息を切らしているアルドとサイラス。


アルド「ぜぇぜぇ... 捜したぞ。リル」

サイラス「いきなりいなくなるなんて水臭いでござるよ。リル殿」


リルが近づいてきてアルドとサイラスに飛び込む。

リル「ごめんなさい... ボク... ボク」


もう心配ないみたいね、と女性はリルの元から立ち去っていった。


アルド「捜したぞ!リル!サイラスの言う通りだ。困ったことがあるなら俺達が相談にのるから。もう逃げ出すんじゃないぞ」


リル「はい、すみません」

束の間の穏やかな空気が3人に流れる。


突然、サイラスが刀を構える。

サイラス「アルド...!」

アルド「あぁ、分かってるサイラス。リル、俺達から離れるんじゃないぞ」

リル「...はい!」


サイラスが刀を構えた理由。それは以前感じた殺気。


パルシファル宮殿内を無数のカードが飛び回り始めた。カードはある一箇所を渦のようにグルグルと回り始めた。次第に渦の中心は人の形を成し、その中からいなくなっていたジャスパーが現れた。


アルド「...ジャスパー!」


ジャスパー「これはこれは、皆さんお揃いで」

飄々とした様子で現れたジャスパーはリルのことを指さし、こう告げた。

ジャスパー「次こそはそのペンダント貰うぞ。出来損ないのアンドロイドくん?」


その一言に激昂したサイラスが叫ぶ。


サイラス「...貴様ッ!これ以上リル殿を侮辱することは許さんでござるッ!」


アルドがサイラスに加勢しようと駆け寄ったとき、サイラスは手を伸ばし、アルドを静止させる。


サイラス「アルドッ!助太刀無用でござる。この下衆は拙者一人で充分でござるッ!」


ほう、とサイラスを見るジャスパー。

ジャスパー「カエル風情が言ってくれるじゃないか。そこまで言うなら一人でかかってくるがいい!」


サイラスとジャスパーの一騎打ちが始まる。


突如周囲の空間全体に斬撃が走る。


アルド「これは...あの時と同じ...!」


『煌斬陣』が展開されていた。


アルド「気をつけろ!サイラス、ヤツは...」

アルドの言葉をサイラスが遮る。


サイラス「助太刀無用と言ったはずでござる!

ほう... 『煌斬陣』とは余裕でござるな。ジャスパー。わざわざ拙者に有利な状況を作るとは」


ジャスパーは以前のアルドと同じようにサイラスを罠に嵌めようとしている。


サイラス「有利な状況なら攻めるしかないでござるッ!覚悟ッ!」


かかった!!ジャスパーから笑みが溢れる。

サイラスの左右にカードが飛び、魔力が集まる。


ジャスパー「アポーズ...」


サイラス「斬属性の魔法でござろう?芸がないでござる」


サイラスの太刀は斬属性魔法を放とうとするジャスパーのカードを切り捨てた。


ジャスパー「なっ...! 気づいていたのか!?」


サイラス「拙者は最初から何かあると思ってたでござる。でなきゃアルドがお主みたいなヤツにやられるわけないでござるよ」


水飛沫がサイラスの刀から上がり、ジャスパーに一太刀食らわしたのであった。サイラスの斬撃により、ジャスパーの耳飾りが砕け散り、中から大きく、長い耳が露わになる。


エルフだ... ジャスパーの手数の多さ、多種多様な魔法とゾーンはエルフの長い寿命を以って成立していたのだ。


ジャスパー「...ぐッ..」

その場に崩れ落ちそうになるジャスパー。しかし最後の力を振り絞って『烈火陣』を展開する。


ジャスパー「このカエル風情が... 黒焔の中、必中の業火に焼かれて死ね!『フレア』!!」


どうやらジャスパーも本気のようだ。なりふりは構っていられなくなり、サイラスめがけて最大の魔力をぶつける。


サイラス「ほう... 避けられぬなら受けてたつでござるよ。『円空自在流・蒼破』!!!」


サイラスの太刀から激流が生まれ、フレアを受け止めようとする。しかし、フレアの火の勢いは止まることを知らず、太刀ごとサイラスを呑み込もうとしていた。


サイラス「ぐぅ....」

火焔の中、肌が焼かれ、体力が奪われていく感覚に落ちる。


アルド「サイラスッ!がんばれ!」

リル「サイラスさん... サイラスさん頑張って!!」


ジャスパー「くっく... 無駄だこの業火の中生き延びたヤツは一人も居らん。さぁ、消えろ!」


獄炎の中、リルの声が聞こえたサイラス。彼のためにも負けることはできない。ジャスパーはリルの、あんな小さな子の存在そのものを否定したのだから。


すかさずサイラスは仲間のアルドでさえ見せたこともない構えを取る。


サイラス「秘技... 『カエル落とし』...」


『カエル落とし』と呼ばれたその技が放たれた瞬間、フレアは両断され、ジャスパーまで斬撃が届く。その斬撃は目で捉えられないくらい疾く凄まじいものであり、ジャスパーは斬られたことすら気づかなかった。

突如、ジャスパーに痛みが走り、彼に死の音が聴こえる。


ジャスパー「ばかなッ!ばかなッ!ばかな!こんなカエル風情に!この私が!ジャスパーが敗れるというのか...!!」


ジャスパーが受けたダメージは大きく、散り散りにジャスパーの身体が消えていく。


ジャスパーがこの場から完全に消えた後、辺りに歓声が響く。

アルド「やったな!サイラス!」

リル「サイラスさん!凄い!やったね!」


リルの笑顔が見れて満足そうなサイラス。

リル「当然でござる。リル殿もお怪我はござらんか?」


リルが首を縦に振る。

リル「うん!大丈夫!サイラスさんのおかげで傷ひとつないよ!」


サイラス「それはよかったでござる。拙者も頑張った甲斐があったでござるな」

サイラスの肌は焼けておりジャスパーが最後に放った魔法がどれだけ凄まじいものだったのか想像するのは容易かった。


サイラスがパルシファル宮殿の医務室で治療をし、もうすっかり夜になってしまっていた。


アルドとサイラス、そしてリルがパルシファル宮殿の廊下を歩いていたときのことである。

しばらく歩いて、リルが恥ずかしそうにサイラスとアルドに話しかける。


リル「サイラスさん!アルドさん!今日は本当にありがとうございました」


サイラス「お礼なんて要らないでござるよ。リル殿」


リル「いえ、いくらお礼を言っても足りません。あの、もしよかったら...」


リルは恥ずかしさからか次の言葉が出てこない。アルドとサイラスは首を傾げる。


リル「あの...もしよければなんですけど... ボクと友達になってください!」


きょとんとした様子のアルドとサイラス。

アルド「えっと...既に友達だと思ってたのは俺だけかな?」

サイラス「拙者もでござる」


「え?」といった具合にこっちも呆気に取られた顔をするリル。

リル「そうなんですか?」


アルド「当然だろ?リルはもう俺達の仲間だ。困ったらいつでも呼んでくれ。助けに行くからな」


サイラス「拙者も助太刀に参るでござるよ」


リル「アルドさん、サイラスさん。本当に2人が一緒で良かったです...ありがとうございました!」

あまりの嬉しさにアルドとサイラスに飛びつくのであった。


メッセンジャー。彼らが人と関わるのはあくまで仕事であり、そこに意味はない。しかし、本当にそうなのだろうか? 少なくともリルはアルドやサイラスといった存在に救われただろう。どんな存在であろうと独りでは生きてはいけない。


そんな些細で当たり前の事を今日も彼は人々に伝え、想いを届けに奔走するのだろう。


「お届けものでーす!!」


      第四話 「些細で当たり前の...」 完

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