二十二話 発露する力3

 カワジの背中が角を曲がり見えなくなるのを確認してから、ヒウチは空を見上げて叫んだ。


「ソウヤ! いるんだろう?」


「うん」

 椎名がぽかんとしていると、ヒウチの視線の先……何もなかった空中からソウヤがあっさり姿を見せた。

「さすがだね。このを見破るなんて」

「君が本気を出せば、私の目をごまかすことなど造作もないだろう……いや今それはいい。ソウヤ、ひとつ確認したい。さきほどシーナが出した盾は、ヤタカガミで間違いないのか」

「もちろんだよ」

 ヒウチの問いかけに、ソウヤは即答して二人の方へゆっくりと近づいてくる。何度か一緒に空を駆けた経験から、ソウヤは空を飛んでいるのではなく透明な盾で足場をつくっているのだと理解しているが、そのなめらかな動きは無重力下を何の抵抗もなしに進んでいるように見えた。

「シーナ。きれいなだったよ。父さんよりもきれいかもしれない」

「あ、ありがとう……」

 真正面でにっこりと微笑まれて、椎名は若干目線をそらしながらぎこちなくお礼をいった。


「で、僕に何をしてほしいの」

 身体をを椎名に向けたまま目線をあげたソウヤに、ヒウチは軽く瞠目どうもくした。

「話が早いな」

守護者しゅごしゃが僕を呼ぶ用なんて、何か面倒なことを頼みたいだけに決まってるから」

「そう思わせているなら申し訳ない。だが今回はそうだな。ソウヤ、私とシーナはこれから北方王朝に向かう。要件は先ほどの盾の発動と今後のシーナの処遇について、王のご意向を伺うためだ。そのことを、王に伝えてもらえないか」

「えっ?」

 思いがけない話に声を上げたのは、椎名だ。ヤタカガミの発動から北方王朝に行く話がどうもつながらない。


「シーナ。ヤタカガミは、北方王朝の象徴とされる盾だ。ゆえに、盾の仕組みや八咫ノ道鏡やたのどうきょうを使う条件付きで人間盾者に伝承させている理由も王朝しか知らない。シーナの盾が持つ意味や影響は、王朝に聞くしかないんだ」

「まあそうだね。僕は知らないけど、父さんなら知ってるかもしれない。ていうか今から行くなら、ふたりくらい僕の力でこのまま連れていけるけど」

「中央府の守護者が規則破りをするわけにはいかないだろう」

「真面目だね」

「規則で縛られると同時に、規則で守られている立場だからな。ただの自己保身だ」

「ヒウチのそういうところ、嫌いじゃないよ」

 ソウヤはにっと笑うと、再び空に飛び上がった。


「じゃ、先に行ってるね。シーナ、待ってるよ」

「あっ、」

 椎名が呼び止める間もなく、ソウヤはあっという間に姿を消した。

「今度こそ、私に見えない盾を使ったらしいな……相変わらず、あざとい奴だ」

 ヒウチはぼそりと呟いてから、シーナに向き直った。

「いろいろと勝手に決めてすまない」

「い、いいえ。わたしはまだこの世界のルールがよくわかってないので。ヒウチさんが必要だと判断されたのなら、そうすべきなんだと思います」

 椎名はまだ頭の整理がついていなかったが、一応そう答えた。それに、北方王朝ソウヤの実家に行くのは少し楽しみでもあった。鏡界の人々が敬い、盾のルーツとされる王朝がどんなところで、何があるのか。見てみたい気持ちが強い。

「シーナは大人だな」

「え? そんなことないと思いますよ?」

 ヒウチはかぶりを振ったが、深堀りすることでもないと思ったのかすぐに話題を変えた。


「そうと決まれば、支度をする必要がある。いったん中央府に戻ろう。私はシウラに連絡を取る。シーナは……そうだな。まず身体をしっかり休めたほうがいい。ソウヤの力を借りなければ、北方王朝まではかなり時間がかかる。休めるときに休んでおく必要がある」

「わかりました」

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