いつものげつようび

「ただいま」

「おかえり」

「寒かったよぉ、こたつついてる?」

「ついてないのに俺入ってたらびっくりでしょうが。はよ入れ」

「おぅおぅ、気が利くねぇ弟くんは」


するする、と姉がこたつに足を滑り込ませる。


「……ねこ」

「ねこだ」

「ねこだぞ」

「そうだね、ねこだね」

「ふふふ、ねこだぞー、がおー」

「がおー」

「ぎゃー」


居間に、ぐぅたらとした声がわいわいする。


「おなかすいた」

「なんかくえ」

「何か食べたいものある?」

「自分で選んではよ買ってこい」

「えー」


ぐーっと腹の鳴る音が響く。


「おはよう」

「夜だぞ」

「弟くんや、メシはまだかのぅ」

「俺が作るの待ってないではよ買ってこい」

「えー、めんどくさい」

「そういうこと言ってるからいつも腹減らしたまま寝てるんでしょうが」

「ごめんよぉ……」

「謝られてもな……」


うぇーん、と姉の嘘泣きが始まる。


「というわけで今日はゲームをしようと思うんだよ、弟くん」

「メシは?」

「さっきたべた」

「ならなんで腹減ってんのさ」

「さぁ……口癖……」

「こわ……」


ぴこーん、とゲームの起動音が鳴る。


「何やんの、今日は」

「えっ、昨日と一緒だけど」

「だろうね。俺も見てていい?」

「いつも見てるでしょ」

「そうだけども」


てーてれってー、てっててー。


「姉、そういえば大学どうだったの。うちは遠隔だからいいけど」

「んー? ごはん食べて寝て帰ってきたよ」

「授業受けろよ……」

「ねむかったんだよ……」

「ちゃんと夜寝ないからだろ……」

「夜は用事があるから……」

「昼の授業も用事だろ……」

「弟くんがいじめるよぉ……」

「いじめてねぇよ、自業自得だよ」


弟くんが、飲み物を冷蔵庫から取ってくる。


「……ふぅ。あったけぇ」

「こたつだからね」

「そりゃそうだ」

「こたつはすごいんだぞ弟くん。すごい」

「情報がなにもないが」

「具体的にはこう……すごいんだよ」

「トートロジーか?」

「語彙が死んでる」

「……月曜日だからな、まあうん」


つかれたー、と姉がコントローラーをこたつの上に置く。


「どうして毎日が日曜日じゃないんだろうねぇ」

「そりゃ毎日日曜日だったら曜日なんていらないからな」

「でも毎日日曜日だったら毎日がお休みだよ?」

「毎日お休みだったら困るから曜日があるんだよ」

「そっかー、弟くんはかしこいなぁ」

「ハードルが低い」


もぞもぞ、と弟がこたつに全身を潜り込ませる。


「弟くんや」

「……なんだよ」

「呼んだだけだよ」

「…………それに俺はどう反応すればいいんだよ」

「さぁ……」

「せめてどう反応してほしいかくらい考えとけよ……」

「だって呼びたかったから呼んだだけだし……」

「……そっかぁ」


弟が溜息を吐く。


「……俺部屋行って寝ていい?」

「えっ」

「えっ、じゃないんだけど」

「まだ10時だよ……?」

「朝早かったから眠いんだよ、俺」

「えー、もうちょっといちゃだめ?」

「いやまあ、いいけどさ。部屋のエアコンだけ付けてきていい?」

「……よかろう、行ってこい」

「なんで偉そうなんだよ」


弟が、部屋に行って戻ってくる。


「ちゃんと戻ってくるんだ」

「戻ってこいっつったの姉でしょうが」

「えっ、そのまま寝るとおもってたから……」

「じゃあ寝ていい?」

「だめ」

「ほらそう言うじゃん。ついでにほんとに寝たら部屋乗り込んでくるじゃん」

「だって暇だし……」

「いやまあ、わかるけども」


姉が、またゲームのコントローラーを握りなおす。


「ひまだよー」

「ゲームやりながら発する言葉じゃないぞそれ」

「……そうだね、なんで暇って言ったんだろうね私」

「知らんがな」

「なんでだと思う?」

「俺に聞かんでくれ……」

「なんか知ってるかなって……」

「知るわけねえだろ……」


弟が、スマホを弄り出す。


「あ、そういえばイベントやってたんだっけ。回らなきゃ」

「そうだぞ、今ちゃんとやらないと損だぞ」

「弟くんはまじめだなぁ。えらいぞ」

「そんなところで褒められても困るが」

「えらいぞー」

「やめろ、撫でるな、やめろ」


ずるずる、と弟が姉の逆側に場所を移す。


「とおいよー」

「遠くしたんだよ」

「なんでだよぉー」

「お前が撫でるからだよ!!」

「どうしてなでちゃだめなんだよぉー」

「……はぁ」


弟が、また溜息を吐いた。


「うぇー、つかれた」

「ゲームしかやってないだろ」

「それでも疲れるんだよ」

「そうだけども」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………姉?」

「………………」

「姉-、起きてるかー」

「……うぇ、うん、おきてる、おきてた」

「眠いならちゃんと部屋入って寝ろよ」

「え、めんどくさい……」

「めんどくさいじゃないが」

「だってー」


むすー、と姉がぷんすこする。


「……じゃあ俺先寝るから。ちゃんと部屋入って寝ろよ」

「えー、寝ちゃうの?」

「さっき朝早かったっつったろ」

「そうだけど」

「んじゃ寝る、おやすみ」

「おやすみ……じゃあ私も寝るかぁ」


弟と姉が、部屋を出る。

部屋の電気がぱちりと消える。

これが私の、いつものげつようび。






お題:【家族】

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