第四回 鵺
サイコパス、という言葉を初めて聞いたのはいつだったか。中学時代に見たテレビのワイドショーだったかとは思うのだが、如何せん記憶が薄い。
この言葉が有名になったのはアニメのタイトルになってからだと自分は考えているのだが、周りはどう思っているのか。意見を聞こうにも自分には友人と呼べる者があまりにも少なすぎる。
ともあれ自分はこの言葉にときめきと畏怖を感じている。精神的にトチ狂いつつも、しかし見た目はまともそうに見える人間って中々魅力的だと思うのだ。
自分がメイキングしたキャラでサイコパスと呼べる狂人といえば、鵺という少女だ。実際には性別不詳でどちらの姿もとれるが、ここはあえて彼女と呼ばせてもらおうと思う。
彼女をメイキングしたのは2015年頃。この頃自分はかつて愛したなろうやムーンライトノベルズが異世界転生や異世界転移、悪役令嬢物といったファンタジージャンルに支配されつつある現状に嘆いていた。
というのも、自分はあまりファンタジーが得意ではない。剣と魔法のスペクタクルは先人達が色々な形で世に出してきているし、何よりハリ○タやナ○ニア国物語、ロードオブザ○ング等の大作があるのに自分でファンタジー世界を創造する意味を見いだせなかった。
しかも昨今のなろうに蔓延っているファンタジー作品は大体J・RPGの設定を流用した物が圧倒的に多く、あまりゲームをしない自分にとって、やれステータスだのやれスキルだのと書かれても理解に乏しい。なおかつ主人公が苦戦するならまだしも、神もしくは偉い人から授かった特殊能力で無双する系が大多数を占めている。カタルシスもあったものではない。
同じ非現実なら現代物のラブコメや学園物の方がストレスなく読めるからという理由で好きだったのだが、それも過疎傾向にあり自分はオアシスを奪われた旅人のような心持ちを味わっていた。
なのでファンタジーなら異世界転生に頼るなと、半ばやけくそ気味に自分でファンタジー作品を書き始めたものの、舞台設定から言語設定、キャラ設定や魔法、宗教や種族の設定など考えなければならないことが山程あり、結局途中で挫折。番外編を書き切ってその作品を終了させてしまう。
底辺アマチュア物書きである自分如きに、なろう全体に吹き荒れるファンタジー旋風を止める力がないのは重々わかっていたつもりだったが、流石にこのまま自分にはファンタジーが書けないと諦めるのは癪である。なら舞台設定を現代にして、そこをファンタジーにすれば良いだろうと頭が悪い方向に思考が行き着いた。
そして出来た作品が『リバースエッジ』という誰も得しない物語だ。主人公が好きな女の抱えるトラウマを徐々に解きほぐしながら、自身の抱えるトラウマ及びそれを植え付けた宿敵と少しずつ向き合っていくという、めちゃくちゃざっくりなストーリーにした。この主人公の宿敵にあたるのが、上記の鵺という少女だ。
彼女は見た目は妖艶な美少女だが、その本質は無邪気さを全面に出しながら邪気を振り撒く災厄だ。主人公の主義主張思考欲求を全て下らないと無視して薙ぎ払い、自身の傍に居れば何からも守ってあげると一報的な欲求を押し付け、依存した愛情を傾ける。無くした記憶を埋めるように、主人公に一途に傾倒し自身の行動指針すらも決めさせて縛り付ける。
彼女のその様を自分は恐ろしいと思わざるを得なかった。それと同時にとても哀しい人だとも感じている。彼女が自分にこう言ったことがある。
『何で鵺だけ幸せになれないの? 鵺だって幸せになりたいよ、好きな人とずっと一緒に居たいよ。どうして駄目なの、何でよ。皆幸せなのに。ずるいよ』
ごめんなさい、と言う事しか出来なかった。どうしても悪役が必要で、その為に彼女をつくった。
謝ることしか彼女に出来ないから、自分は誰得でもあの作品を完結させなければならない。それが彼女に対する誠意だと思うから。だから、どんなに時間が掛かっても完結させるつもりだ。誰に理解されなくても、自分だけは鵺を見捨てることは出来ない。
とまあ、そういった経緯があるからか、鵺は自分にとってのお気に入りである。深淵を覗く者がなんちゃらと言うように、彼女を理解出来なくても見捨てなければ良いだろうと、そんな都合の良いことを思いながら今回は筆を置かせて頂く。
次回は……すかした皮肉屋のバーテンダーか、愚直なまでに愛に盲目な阿呆か、多分どちらかについて語らせて頂く。まあ、お楽しみに。
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