第五回 藤條夜一
和風キャラクターほど難しいものは無い。アニメ、漫画、ラノベで良く取り扱われるそれらのキャラクターは、創作界において実はかなりの鬼門であることを我々は知るべきであると思う。
イッツクール・ジャパンと世界各国のオタク達はこぞって日本のカルチャーやサブカルチャーを持て囃し、崇拝し時には自らそれらの達人になるべく来日し修行に励む猛者も少なからず居る昨今。我々日本人は生まれながらに恵まれた環境に身を置きつつも、それらの事象に胡座をかき、ただ受動しているだけのような気がする。
そんな自分もかつては和風キャラクターに憧れ、自作品に取り入れたことがある。何というか、着物をはためかせて味方のピンチに颯爽と駆け付ける系に「かっけぇ…」と思ってしまったのだ。実際にメイキングしてみて、これじゃない感漂う男になってしまったが、まあ若気の至りである。大目に見てもらいたい。
Mr.これじゃない感、もしくは元祖血まみれボロボロマンこと藤條夜一は、自分の性癖をこれでもかと詰め込んだせいで、主人公の出番を思いきり奪って天下を取ってしまった残念な男だ。
この男をメイキングしたのは2014年頃。当時の自分は着物やら和風やらにときめきを感じていた。
しかしこの時『このセカイのすべて。』というエセ中世ヨーロッパ風ファンタジーを執筆しており、和風キャラは到底ねじ込める状態ではなく、きらきらしたヨーロッパ風の町並みが常に頭の中に存在していて疲れていた。
当たり前だが登場キャラクターも全員外国人、英語も喋れず外国文化に疎い自分は早くも筆が進まず、本編はまだまだ序盤なのにも関わらず、気持ちではエターナル目前まで差し迫っていた。もう無理だ書けないと一度諦めかけたとき、ふとある他作家様の小説が脳裏をよぎった。
小説タイトルと作家様のお名前はど忘れしてしまったので紹介は出来ないが、女子高生と教師の禁断系恋愛物だったその小説は、本編は全く進んでいないのにやたら番外編ではその二人のイチャラブが展開されてて、それを思い出しそして閃いた。
そうだ、番外編だ。番外編を書くだけ書いて、このエセ中世ファンタジーを終わらせてしまおう。
そして番外編の為に生み出されたキャラクターこそ、この藤條夜一という男である。
藤條はTHE少年マンガ主人公という感じの人物だ。というのも、当時自分が少年ジャ●プを熱心に愛読していた影響をモロに受けており、お人好しで困っている人は放っておけない真っ直ぐな気性の好青年である。しかし同時に自分にあまり自信が無く、優秀な陰陽師を多数輩出してきた名門に属しているのに、門外子であることから『自分なんて全然大した事無いんだよなぁ……』と常に思っているのである。いわゆる前向きに後ろ向きな男なのだ。
そんな彼だが、自分はこの男の存在のおかげでかなり救われていた。
というのも慣れない異世界ファンタジーを無理やり終わらせる為に生み出した彼であるが、当時勤め先にて自分は謂れのないパワハラ&やたら粘着質なセクハラ&終わりの見えない残業地獄に悩まされていた。藤條はそんな地味にストレスを溜めていた自分にとって、一種の清涼剤のような役割を果たしてくれたのである。彼の活躍する番外編を構想し執筆していた間はひたすらに楽しかったし、物語を終わらせて久しい現在も一つの指針として自分の創作の根底に居座ってくれているのだ。
やはり、創作は楽しくなくてはならない。藤條は自分にそう教えてくれた大事な存在である。
もう気軽に和風キャラは作らないとは決めているが、藤條の関わる物語はまた機会があれば書いてみたいと思っている。
竜の背に乗り大空を飛び回る彼に思いを馳せつつ、今日のところは筆を置かせてもらう。次回は今現在ムーンライトの方で執筆している小説で目立ちまくっているあの男か、藤條の相方である傍若無人なチートウーマンのどちらかについて語らせてもらおうかと思っている。お楽しみに。
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