「全裸中年男性」をお題にした小説
私、遠野薫子は今日、16歳の誕生日を迎えた。めでたい日だ。しかしその日、父母から、ご飯を食べて課題を終わらせたら話があるからリビングに来なさい、と言われた。
私はその話が気になって、結局課題に手をつけられないまま、今リビングにやってきている。
座り慣れたはずのイスが、どうにも心許ない。大体こういう時にする話は明るくないものだろう。離婚であるとか、あるいは、自分は両親の本当の子供ではないと告げられるとか。実際、私はあまり両親に似ていないとしょっちゅう言われてきたわけで。
最悪の事態への覚悟を決めて、敢えて私から両親に話しかける。
「お父さん、お母さん、話って、何かな……」
「ああ、薫子、実はな……」
話をするのは、どうやら父の方らしかった。いつも寡黙で気弱な父にしては珍しい、力強い眼差しが私を射貫く。ごくり、と生唾を飲み込んだ。
「お父さん、昔全裸中年男性をやっていたんだ……」
「はい?」
ゼンラチュウネンダンセイ。全裸中年男性?私の父が?え、というか……
「全裸中年男性ってそんな、
あまりに異常な状況に、そんな頓狂な質問が出た。父親は依然として真面目な顔をしている。
「ああ。父さんは昔、全裸中年男性として、世界を脅かす敵と戦っていた」
「うん、ジョブって言った私が悪かったのかもしれない。何?光の戦士だったのお父さん!?」
「そうだ……」
「そうなの!?」
動揺して父に大声で叫ぶ私を、母が制止した。
「薫子、お父さんの話を聞いてあげて……」
泣きそうな顔でそんなことを言われると、流石にどうしようもなかった。半分立ち上がっていたが、イスに座り直す。
「ほら、FFのジョブで、すっぴんってあるだろ……?」
「アレは言っちゃえば無職であって、ジョブではないしましてや全裸中年男性でもないよ!!??」
「うん、お父さんも嘘吐いた。全裸中年男性とすっぴんは別物だ……」
「何故そんな苦しい嘘を……!」
父のあまりの様子に、私は思わず拳を握りしめた。
「でも、確かに父さんは全裸中年男性として、クリスタルを狙う帝国軍と戦ったんだ……!」
「FFと全裸中年男性が渋滞起こしてんの!順番に話して!?」
「薫子、母さんはそんなお父さんに惹かれて結婚したのよ……」
「全裸中年男性に!!??」
母にまで叫んでしまった。だが、父母は動じていない。私をじっと見詰めるだけである。
16の娘に話すことか、これが!?墓まで持って行って欲しかった……!これから私は父が全裸中年男性だったという事実を心の中に抱えながら長い人生を生きていかなければならない……!
いや、落ち着こう。叫んでばかりでは父母も話を進められないだろう。私は深呼吸をして、改めて両親に向き直った。
「父さん、じゃあとりあえず色々と信じるとして、全裸中年男性の戦闘中の
父はその質問に対してしばらくもごもごと口を動かし言いよどんでいたが、やがて意を決したようで、私の目をしっかりと見て、言った。
「ふしぎなおどりを躍って……敵のMPを下げるんだ」
「ドラ〇エの敵がやってくるやつ!!!!!」
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