第8話ラグナロク・卒業式

十二月の中頃、全治は北野たちと一緒に冬休みの予定について会話をしていた。

「なあ、全治と北野はどうするんだよ?」

空谷が北野に訊ねた。

「ああ、俺と全治は白川郷へ旅行に行くんだ。」

「白川郷って、世界遺産だよね!?凄いなあ・・・。」

驚く空谷に、北野は照れながらも謙遜して答えた。

「でも、俺ん家で旅行なんて滅多にないぜ。俺の記憶が覚えているのは、小二の時の名古屋港水族館が最近の旅行だぜ。」

「そうか、僕も同じようなものなんだ。まあ僕の場合は、僕があまり旅行が好きじゃないというのがあるね。」

「それにこの旅行は全治の歓迎会でもあるんだ、提案したのは親父だからな。」

「うん、僕は学校の行事以外で遠くに行ったことが無いんだ。だから白川郷に行くのは楽しみなんだ。」

ここで黒之が割り込んできた。

「全治、貴様に言っておく。三学期の初日から、俺とお前の戦争が始まる。そこで俺はお前に勝利するからな。」

それだけ言うと黒之は、踵を返して去っていった。

「本当によくわからねえ野郎だぜ・・・。」

北野が吐き捨てるように言った。

「でも僕は彼とわかり合えたらいいなって思うんだ、だって彼なら僕が思いつかないような答えをだすかもしれない。」

「全治・・・、いつも争っていたけど嫌いにならないのか?」

北野が全治に訊ねた。

「ならないよ。だって僕は黒之君の事、興味あるだもん。酷い所は沢山見てきたけど、それも含めて僕は黒之が嫌じゃないんだ。」

全治が言うと、北野はそれ以上追及せずに納得した。






それから冬休みが終わった三学期の初日、全治と北野が教室に入ると、突然拍手で迎えられた。

「ん?どうしたの、これ?」

「さあこれで、卒業までの大戦争の役者がそろいました!!」

クラスの誰かが大声で言うと、教室の拍手がさらに大きくなった。

「な・・なんだよ、どうなってんだ!?」

「それは私が答えよう。」

「黒之君・・・、また戦争を始めたんだね。」

「ああ、今回は卒業式までの約二カ月半間の戦いだ。この三カ月間は、俺の本気の攻撃が続くと思え。」

「そうだ!!神と神の戦いを見せてくれ!!」

「クロノスVSゼウス、こりゃ盛り上がるぜ!!」

生徒達は熱狂していて、手が付けられない状態になっている。

「どうしてこんな事するの?戦争は面白いことかもしれないけど、君はそれで多くの人たちを傷つけてきた。そのことについてなにか感じることは無いの?」

「無い、戦争がなんなのかはお前もわかっているだろう?」

黒之に言われて全治は少し黙った後、全治は黒之に言った。

「じゃあ始めよう。」

「全治!!本気でやるのか?」

北野は全治の顔を凝視した。

「うん、このみち僕が戦争を拒絶したとしても、黒之君は始めるだろう。だからこれで僕は黒之との戦いを終わらせるんだ。」

「よくわかっているじゃあないか。じゃあ今回は全治が勝ったら、全治の望みを一つだけ叶えてやろう。」

「僕の望みは・・・、黒之君と友達になることだ!」

全治が堂々と宣言した。

黒之は嫌な顔をしたが、すぐに余裕のある顔になり、

「いいぜ、その約束守ってやるよ。」

と言った。

こうして全治と黒之の約二カ月半にわたる最終戦争が始まった。







戦争は授業中と放課後で大きく違った。

授業中は冷戦のようにお互いに睨みあったまま、どっちが多く先生の問いに答えられるかの戦い。

そして放課後はお互いのメンバー同士でケンカする、黒之は後輩・先輩もメンバーに入れて戦ったが、全治は北野と二人きりだった。

派手にやっていたが、何故か先生どころか誰一人として止めなかった。

やがて全治と黒之のどっちが勝つかで全校生徒は盛り上がり、そして全治と黒之を中心に軍団ができた。

こうなるともう先生達では、全治と黒之の戦争を収拾させることはできない。

全治と黒之の攻防は、毎日続いた。

「なあ、全治。やっぱり戦争は良くないぜ。怪我人が出ていないのはいいけど、巻き込まれるのはみんな嫌だよ。」

北野が全治に言った、全治は少しうつむきながら北野に言った。

「そうだね・・・、戦争ってこういうことだっていうのは解っている。でも僕はそれでも黒之君のことが知りたいんだ、だからこの戦争を受け入れたんだ。」

「それで、何か黒之について解ったのか?」

北野は全治に訊ねた。

「そうだね・・・、黒之君はいつもみんなの中心で一番になりたいと思っているんだ。だから同じ存在を認めたくないようなんだ。」

「確かに、全治と黒之ってどこか似てるよな。」

「うん、でも僕は黒之君の存在が嫌なわけじゃないんだ。だけど黒之君は僕の事がとにかく嫌なようなんだ。」

すると北野がふと呟いた。

「俺、黒之の気持ちが少しわかる。全治って神様から貰った才能と力があるだろ、それはどんなに努力しても手に入らないものだ。それを目の前にした時、俺は心のどこかで『なんでアイツだけ・・・。』って思ってしまったんだ。嫉妬っていうんだけど、黒之もそうなんだと思う。」

「でも黒之君だって、神様から才能や力を授かっているだろう?」

「そうなんだけど、全治にしかない別の才能がある気がするんだ。全治はそれに気づいていないだけだよ。」

北野が言う「全治にしかない才能」とは何か、全治はその答えを見つけるために考え込んでしまった。










そして月日は矢の如く流れて、とうとう卒業式が来た。

この日まで全治と黒之の戦争は続いたが、誰一人として怪我人はいなかった。

だが卒業式で黒之は何か仕掛けるという噂を全治は耳にした。

何をやるのかはわからない・・・、全治は緊張しながら卒業式に参加した。

そして在校生からの言葉を言う場面、喋るのはもちろん黒之だ。

「黒之君が仕掛けるなら・・・ここだ!!」

全治は黒之をただ見つめていた、そして黒之が喋り出した。

「卒業生のみなさん、最後にゼウスを倒してみなさんの門出を祝いましょう!!」

黒之が言うと、卒業生全員が全治の方向を見つめた。

「来たか・・・黒之!!」

全治が構えると黒之は宙に浮き、卒業生達は鎧をまとった騎士の姿になっている。

「さあ、全治を殺せ!!」

黒之の号令で卒業生たちが一斉に全治めがけて突撃した、在校生たち・先生たち・保護者たちは、パニックになって体育館から一斉に逃げ出した。

「みんな、行くよ!!」

全治は眷属達を全員召喚して対抗した。

「全治!!逃げろ!!」

北野が叫んだ。

「駄目だ、僕が止めるしかないんだ!!」

「全治・・・、生きて戻って来いよ!!」

北野はそう言って、体育館を出た。

「さて・・・、黒之君を止めないと!!」

全治は戦いに向かっていった。











「ふーん、君も大したことなくなってしまったか・・・。」

「くっ・・・、強いよ黒之君・・・。」

最終決戦開始から三十分が過ぎた、黒之は大した傷はついていないが、全治の方はズタボロになり瀕死の状態だ。

「騎士たちを相手によく戦った・・・、だが僕には到底敵わない。この学校中に結界を張ったから、ゼウスの干渉は無い。眷属達も重傷だ、つまりお前は詰んでいる。」

黒之が蔑む目つきで言った。

「全治、もうお前は終わりだ。魔導書と共に消えろ。」

黒之が攻撃しようとした時、「止めろ!!」という声がした。声のする方を見ると、空谷が全治のところへやってきた。

「空谷君・・・。」

「チッ・・・、この結界は人の侵入は防げないんだった。」

空谷は全治の姿を見て、泣き出した。

「逃げようよ!!全治には死んでほしくないよ!!」

すると空谷の腹部に穴が開いた、空谷はドサッと倒れた。

「ウザいんだよ・・・、下等の人間が。」

「空谷君!!空谷君!!」

全治は空谷を揺すったが、空谷は動かなかった。

「・・・黒之、これでわかったよ。君が自分のためなら、何もかも壊せる人だということがね。」

全治は全身が怒りに震え、魔導書は光ながらページを開いた。そして全治は呪文を唱えだした。

「我を救いし盟友よ、神々より英雄の恩恵を授かり、無双の眷属となれ。」

すると空谷の体が光に包まれ、体格が大きくなり顔つきも勇ましくなり、ヘラクレスを思い浮かべるような豪傑になった。

「・・・全治様、新たな生を授かりありがとうございます。」

「君は今日から、コルネフォロスだ。結界を砕いてくれ。」

コルネフォロスは結界に拳をぶつけた、結界は大きな亀裂が入ったのち、崩れ落ちた。

「嘘だろ・・・。」

黒之は崩れ落ちる結界を呆然とながめた、その隙に全治は魔導書で自分と眷属たちを回復させた。

「さあ、行くよ!!」

「しまった!!」

黒之が気づいた時には遅かった。

全治と眷属達の疾風怒濤の攻撃により、黒之と騎士たちは大打撃を受けた。

「・・・いつもこうだ・・・、何故全治には勝ないのだ!!」

「どうしてだろうね・・・、北野君は僕に特別な才能があるって言っていたけど、どうなんだろう?」

「それだよ、その才能なんだよ!!お前には潜在的な才能がある、だから才能のある俺を超えられるんだ!!本当に羨ましいよ!!」

そして黒之は喚きながら、その場から逃げ去った。

「行っちゃった・・・。でも、これで終わったんだね。」

全治は空を見上げながら、へたり込んだ。その顔は安堵の笑みを浮かべていた。
























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全能少年「正解と過ち」 読天文之 @AMAGATA

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