第5話恋愛操作
全治が北野家の養子として来た日の夜、全治は北野に自分の眷属を紹介した。
「ホワイト君です。」
『よろしく。』
「ルビーファイヤードラゴンさんです。」
『よろしくね。』
「そしてアルタイルさん。」
『今後ともよろしくお願いいたします。』
三体の眷属を前に北野は呆然となった。
「すげえ・・・、こいつら全治の仲間か?」
『いかにも、そして全治様により生み出された存在なのです。』
「お前って、何者だ・・・?」
北野の呆然は止まらない。
「僕は小さいときに神様に選ばれたんだ、そしてこの魔導書を授かったんだ。」
「なあ・・・、もしかしてこれがあれば、どんな願いでも叶うみたいなことが、できるのか?」
「うん、でも使えるのは僕だけなんだ。」
「そうか・・・じゃあ、チョコレートを出してくれよ。」
「どうして?」
「やっぱり実際に見ないと納得して信じられないし、俺が食べたいから。」
「いいよ、出してあげる。」
全治は魔導書を開いて、呪文を唱えた。すると板チョコが北野の手元に現れた。
「うわあ!!マジでチョコだ!!」
北野はチョコレートを食べはじめた。
「チョコだ・・・本当にチョコだ。」
「僕の事、信じられる。」
「ああ、紛れもなく本物だ。」
北野は満足そうに頷いた。
翌日から学校では生徒達の間で全治が神の力を持っていると噂され、全治は学校中で話題の生徒となった。
それ故に願いを持つ大勢の生徒から、願いを叶えてほしいと全治のところに殺到するようになった。
その中でも一番多いのは男子生徒で、「好きな女の子と付き合えるようにしたい」というものである。
「なあ、お前ならできるんだろ?」
須藤祐介が言った。
「うん、できる。」
「じゃあ早くやってよ!!」
山内享義がせかすと、他の男子生徒もそれに同調して全治をせかした。
「その前に、みんな誰が好きなのか教えて。正確な名前が解らないと、唱えられないんだ。」
男子生徒達は好きな女の子の名前をそれぞれ言った、やはり好きな女の子の名前が被る者がいた。
「おい、それは俺が付き合うんだぞ!」
「何だと、俺が付き合うんだ!!」
そして男子生徒達はケンカを始めた、その日はそのまま収拾がつかずに話が保留になったので、魔法を使う事は無かった。
その日の放課後、全治は北野に「校舎裏に来て欲しい」と呼び出された。
放課後、全治が校舎裏に向かうと北野と一緒に伊藤の姿があった。
「あれ?伊藤君もいる、どうしたの?」
「全治、お前にお願いがあるんだ。伊藤君の恋を叶えてくれ。」
「お、お願いします全治様!!」
伊藤は全治に跪いて懇願した。
「いいよ、それで相手の名前は?」
「近藤由美、二年A組の・・・。」
「どうして好きになったの?」
「一週間前の下校中に、由美ちゃんが落としたハンカチを手渡したんだ。その時に見た由美ちゃんの、『ありがとう。』の笑顔に惚れたんだ。それから何度も友達になろうと、声をかけたけど上手く行かなくて・・・。それで全治君に頼みに来たんだ。」
「全治、友達のために頼むよ!」
「いいよ、確かこのページに・・・。」
全治は魔導書のページを開いて、恋愛の呪文を見つけた時、突然かたまった。なぜならそこにはこんな文章が書かれていたからだ。
『唱えられし者は、なんじの者と一緒にいるときのみ恋を感じる。互いが離れた場合、唱えられし者は恋の記憶を失う。』
つまり一緒にいれば仲良くなれるが、離れる時は仲良くしていた時の記憶を失うということだ。
これで本当に恋が叶うのか全治は考えた。
「どうしたの、全治?」
「なあ、何か必要なものがあるのか?」
「いや、特には無いけど・・・。」
「だったら早く唱えてよ!」
「そうだ、細かいことなんて考えるなよ。」
伊藤と北野にせかされた全治は呪文を唱えた。
『神々よ、なんじ伊藤正人という者に、近藤由美との運命の時間を授けたまえ。』
すると伊藤を聖なる光が包み込んだかと思うと、すぐに聖なる光は消えた。
「え?・・・今、魔法がかかったの?」
「うん、そうだよ。」
「本当かな・・・?」
伊藤は実感を感じないようだ、すると伊藤の目に近藤由美の姿が映った。
「おい、声かけてみろよ!」
北野に背中を押されて伊藤は近藤の前に出た。
「こ・・こ・・近藤さん・・・!」
「伊藤君じゃない!一体こんなところで何してるの?」
近藤は親し気に伊藤に言った、まるで前から付き合っていたかのようだ。
「え!?と・・友達と話していたんだ。」
「じゃあ私も話に混ぜて!!」
「いいよ・・・。」
その光景に北野は唖然とし、伊藤も嬉しさのあまりこれは夢なのではないかと思った。
それから伊藤は毎日学校で近藤と仲良く過ごすようになり、伊藤は学校生活が天国に思えた。
「伊藤のやつ、すっかり浮かれているな・・・。」
「そうだね。」
「他のやつらもあの魔法をかけてくれるように俺にお願いしてくるんだ・・・。」
北野は面倒くさそうにため息をついた。
「それはいいけど・・・、昨日言い忘れていたことがあるんだ。」
「なんだ、それ?」
「あの魔法には弱点があって、相手は一緒にいるときは親し気になるけど、離れると元に戻る。しかも一緒にいたときの記憶を失うんだ。」
「ん?よくわかんねえな・・・。」
「つまり近藤さんは伊藤くんと一緒の時は親しくなるけど、伊藤くんから離れると元に戻る。そして伊藤くんと一緒にいたときの記憶を失うんだ。」
「え・・・、それってちょっと辛くないか?」
「ごめんなさい、説明するの忘れて。」
「いいよ、あの時は伊藤も俺も全治をせかしていたから。」
するとそこへ黒之が通りすがりに言った。
「全治の魔法っていい加減だね、全知全能のゼウスから授かったくせに。」
「なんだと、てめえ!!」
北野は黒之につかみかかろうとしたが、全治にとめられた。黒之はほくそ笑みながらその場を立ち去った。
「いいよ、僕は気にしてないから。」
「そうだな・・・、もしかしておれは伊藤に悪いことしてしまったのかな?」
「それは僕も同じ気持ちだよ。」
北野と全治は暗い気持ちになった。
翌日、全治は近藤に声をかけられた。話を聞くと悩みを聞いてほしいという。
「自分でも訳が解らくて辛いんだ・・・。」
全治はすでに何が言いたいのか察していた。
「もしかして、伊藤君のこと?」
「え!?どうして解ったの!!」
近藤の反応に、全治は全てを明かす決意をした。
「君が言いたいのは伊藤くんと会うと自分がおかしくなるということだろ?」
「うん、もしかして知っているの?」
「あれは僕の魔法なんだ。」
「魔法・・・?よくわからないよ・・・。」
「僕の魔法で伊藤くんと君を仲良くしたんだ、伊藤くんは君のことが好きだから、仲良くなれるように僕に頼んだんだ。」
「やっぱり信じられないよ、あなたが魔法を使えるなんて。」
「じゃあ、これでどう?」
全治は呪文を唱えて、自分の筆箱を自分の手元に引き寄せた。
「うそ・・・、信じられない。」
「これが魔法さ、これで信じてくれる?」
「うん・・・信じるわ。」
近藤は全治の言うことを信じた。
「それで私にかかった魔法は解けるの?」
「うん、解除する呪文を唱えれば戻るんだ。ただし君と伊藤くんが手を繋がないと、呪文は効かないんだ。」
「わかったわ。」
そして全治は近藤と別れた。
翌日、全治は伊藤に魔法と近藤さんと話したことについて説明した。
「そうか・・・じゃあ僕が付き合っていたのは、魔法にかかった近藤さんなんだ。」
「うん、それで近藤さんは元に戻してほしいと言っているけどどうする?」
「元に戻す、やっぱり付き合っていることはお互いに覚えてたほうがいいもん。魔法なんて、フェアなやり方じゃないのに頼ったのがいけないんだ・・・。」
そう言う伊藤の顔は悲し気だった、相手は自分を心から好きではないことを知ったからだ。
伊藤を悲し気にさせてしまい、全治は申し訳なくなった。
「魔法で上手くいくと思ったけどダメだった・・・、恋って難しいなあ。」
全治はその後、仲良く手を繋いでいる伊藤と近藤に呪文を唱えた。
「神々よ、伊藤正人と近藤由美の恋に終焉を。」
すると魔法の効果が切れ、近藤は正気を取り戻した。
そして近藤は伊藤に頭を下げると去っていった。
失恋に泣く伊藤を、全治は伊藤の背中をさすりながら慰めた。
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