第3話最高の作品

六月二十四日、梅雨も終わり本格的に夏を迎えた頃。

全治のクラスで担任の大石からこんな発表があった。

「市で行われている絵画コンクールが今年も行われることになった。今年は金賞・銀賞の受賞者には、文部科学省から特別賞状と一万円相当の商品券が出るそうだ。応募を希望している者は、七月二十日までに私に申し込むように。」

普通なら関心のない話だが、関心のある生徒が三人いた。

「ようし、今年こそは金賞を受賞するぞ。」

まずは西木佐古、彼は絵が得意で小学生時代はコンクールで銅賞か銀賞をとるほどの実力者だ。

「ふーん、商品券がでるのはやる気がでるな・・。」

そして高須黒之、金賞が取れたら学校中で一段と有名になれることを狙っている。

「・・僕もやってみようかな。」

そしておなじみ全能少年の千草全治、ちなみに過去にコンクールに応募した経験は無い。

そして全治は放課後に応募するために、職員室に向かった。

入り口に着くと西木が職員室からでてきた。

「あ、西木君。応募しに来たんだね。」

「あれ?全治君じゃないか、もしかして君も応募しに来たの?」

「そうだよ、挑戦してみようと思ってね。」

「もしかして、コンクールは初めて?」

「うん、そうだよ。」

西木は「そうか」と言いつつ、心に不安を抱えた。

全治は全能の力を持っている故に、人並み外れた器用さを持つ。

美術の授業の時に全治が書いた自画像を見たことがあるが、それは自分が舌を巻くほど上出来だった。

そんな全治がコンクールに応募すると、金賞を取ることが絶望的になってきた。

西木と別れた全治は、職員室に入り大石にコンクールに応募することを伝えた。

全治が職員室から出ると、黒之に会った。

「全治、どうして職員室にいたんだ?」

「絵画コンクールに応募するためだよ。」

「そうか、君もか・・・。これは楽しくなりそうだ。」

黒之は全治に挑戦的な微笑みを浮かべると、職員室に入っていった。

「あいつ、コンクールに応募するつもりだな。」

眷属のホワイトが呟いた。

「そうだね、彼はどんな絵を書くのかな?」

「全治様、黒之に勝つつもりはないの?」

眷属のルビーが言った。

「無いよ、僕はただ挑戦したいから応募しただけなんだ。黒之君も応募するなんて、思ってもいなかったよ。」

全治はそう言って、教室に戻っていった。








あれから一ヶ月後の七月二十五日、夏休み初日を迎えた全治は散歩しながら絵画の題材を探し回っていた。

コンクールのテーマは、「町の明るさ」。

だから町の明るい一面を探しているのだ。

「町の明るいところって、一体どこなんでしょうね?」

「うーん・・・、そもそも町の明るさっていうのがわからないんだよね。」

「確かに、これは難題ですわね・・・。」

全治はとにかく歩き回った。商店街に辿り着いた時、全治の心に閃きが走った。

「どの店も変わらずにやっていて、そこで買い物をする人たちがいる・・・。日々続いている人と人とのやり取り・・・これだ!!」

「全治様、何か思いつかれましたか?」

アルタイルが全治に言った。

「僕はこの光景を書くことにしたよ、特に変わったことはないけど変わらないものをね。」

「いいわね、これこそ町の明るさよ。」

全治はすぐに家へと帰宅した。








しかしその日、全治は納得のいく絵を書きあげられなかった。

それから全治は毎日、散歩中に商店街に行って北野君から借りたカメラで風景を撮影し、撮れた写真を参考に絵を書き始めた。

「コンクールのためとはいえ、商店街の写真ばかり撮影してよく飽きないよな。」

カメラを借りている北野に言われた。

「まあね、もうすぐいいのが書けそうなんだ。」

「そういえば噂で聞いたけど、黒之も例のコンクール申し込んだって?」

「ああ、それは本当だよ。僕が職員室に来て申し込んだ後、すぐに職員室に入ったよ。」

「マジか!!お前と黒之って、何かと戦っているよな。」

「うん、もしかしたらそういう運命なのかも・・・。」

全治は静かに呟いた。






八月十二日、町内で夏祭りがあったこの日。

西木は夏祭りの会場である神社の端で筆を走らせていた。

やはり町の明るさという題に相応しいのは夏祭りだ。

老若男女大勢が集まって、それぞれ思い思いに楽しむのは見ていて明るい気持ちになれる。

西木は持ち前の筆さばきで絵を書きあげていった。

「やあ、調子はどうだい?」

背後から声をかけられて振り向くと、黒之がいた。

「黒之君、おどかさないでよ。それに僕は絵を書くのに忙しいんだ、向こうにいってくれ。」

西木はそっけない口調で言った。

「まあ、そう言うなよ。ちなみに俺はコンクールに出す絵、もう書き上げたぜ。」

得意げに言う黒之を無視して、西木は絵を書き続けた。

しかしここで黒之はこんなことを口にした。

「そういえば全治君も、コンクールに出す絵を書きあげたそうだよ。」

それを聞いて西木は走らせていた筆を停めた。

あの全治が、もう書き上げただと・・・。

「俺、その絵見たけど上手だったよ。もう金賞は全治で決まりじゃないかな?」

黒之が全治の絵を見たのは嘘である。

しかし西木は黒之の一言に動揺した。

「夏祭りの絵は題材に合っていると思うけど、画力では君は全治には敵わないと思うんだよね。」

「なんだと!!」

西木はムキになって黒之に言った。

「君はコンクールで金賞を取りたいんだろ、だったら力を貸してあげるよ。」

「何を言っているんだ・・・?」

「僕が持つ神の力を使えば、必ず金賞が取れる最高の作品が書けるよ。」

「お前、頭がおかしいんじゃないか?」

「本当の話さ、ちなみに全治の絵が上手いのも神の力によるものだ。」

「本当か・・・?」

「そうだ、だからお前に絵の才能があっても、全治には敵わない。」

西木は自信を急速に失った。

全治に勝てる気が全く出なくなった。

黒之は落ち込む西木を見てほくそ笑んだ。

「なあ・・・黒之はおれに何をしたいんだ?」

西木は黒之に訊ねた。

「神の力を貸してあげたいんだ、おれは全治を蹴落とせればそれでいい。」

「黒之・・・そんなに全治が嫌いなのか?」

黒之は当然だと頷いた。

「どうする?神の力を使うか?」

西木は神の力なんて信じてはいないが、このままでは自分の心が「全治に勝てない」という不安に包まれてしまう。

「わかった・・・神の力を貸してくれ。」

西木は自然と言ってしまった。

「そうこなくっちゃ、じゃあいくぞ。」

黒之は西木の胸に右手を当てると、神の力を送り込んだ。

すると西木は力と自信の高まりを感じ、これまでにないほどのやる気に満ち溢れた。

「書ける・・・今の俺なら、最高の作品を書ける!!」

筆を持つ手が止まらない西木を見て、黒之は自分だけが知る結末に期待が高まった。






そして夏休みが終わり、二学期を迎えた九月十五日。

朝礼にて絵画コンクールの結果が大石から報告された。

「それでは夏休みの絵画コンクールの受賞者を言うぞ。」

クラスの全員が大石に視線を向けた。

「まず銅賞、千草全治」

クラスのほとんどの生徒が全治に拍手を送った。

「銀賞・高須黒之」

クラスのほとんどの生徒が驚き、全治の時よりも大きな拍手をした。

黒之は全治の方を見て得意げな顔をした。

「憎たらしい顔・・・本当にムカつくわ!!」

眷属のルビーが憤怒の顔で黒之を睨んだ。

「そして金賞は・・・なんと、西木佐古!!このクラスのメンバーが受賞を全て獲得したぞ!!」

大石は誇らしげに喜んだ。クラスの生徒も驚き喜んでいる。

「先生、西木君が来ていません。」

気づいた全治が大石に言った、すると大石の表情が暗くなった。

「実は、大石は登校中に交通事故に遭った。即死だったそうだ・・。」

大石が言うとクラス全体が凍り付いた。

その中で黒之は笑みを浮かべ、全治はそれを見逃さなかった。







放課後、全治は黒之に話しかけた。

「ねえ、西木君が死んだのって黒之のせいなの?」

「もちろん。神の力の代償に、願いが叶う日に死ぬことになっているから。」

「そのこと、西木君に言わなかったの?」

黒之は答える代わりに、ニヤリと笑った。

「あいつに自分への自信があるなら、俺の申し込みを断ったはずだ。だから選択した西木の自己責任でもある。」

黒之はそう言うと去っていった、全治は憤りでしばらくそこから動けなかった。

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