2-2 冒険者ギルドと人類殲滅軍その1


 自由都市ウェスティン。

 数多くの迷宮を有するフロンティア地方の入口にあるこの都市は、元は開拓者達の拠点に過ぎなかった町が自然に発展して出来たものだ。


 昔は人類種やドワーフ種、獣人種など数多くの種族が手を取り合い迷宮へ挑んでいたが、今は巨万の富を求めて強欲に宝を掘り続けるエルフ達の巣窟だ。

 一攫千金を夢見る、クズ冒険者共。


 その心をへし折り絶望させるのも楽しそうだと思いながら、商店の並ぶ大通りを歩いていく。


「まずは、冒険者ギルドへ向かいましょう。そこで強めの冒険者を集めてから……勇者様との第二の目標を果たすため、迷宮攻略に向かいます」

「仲間集めではなく死体集めでしょう? あなたの仲間は、わたくしが全て灰にしてあげましたもの。生きた死体としか戯れられないなんて、哀れな女だこと……ふふっ。思い出しただけで笑いがこみ上げてきまーーがふっ」

「仲間の悪口は止めてくださいって、何度も言いましたよね?」


 鎖で吊り下げたアンメルシアを膝蹴りするが、悪態は収まらない。


「あなたの脅しや暴力で屈するほど、わたくしはやわではありませんわ!」

「あら。愚民の前で拷問され、ぎゃあぎゃあ泣いてたのはどちら樣でしたっけ?」

「っ……! い、今のうちにせいぜい愉悦に浸っていると良いでしょう。必ずや、わたくしの御父様と御母様が。そして私を愛する姉妹達が、あなたの首を落としてさし上げますもの!」

「口を開けばそればかりですね、アンメルシア。つまり、パパ、ママ助けて、お姉ちゃん助けて、でしょう?」

「馬鹿にして! わたくしが本気を出せば、あなたなど……魔術封じの鎖さえなければ、頭だけでも魔術が使えるものをっ……!」


 忌々しい、と鎖を揺らす王女を笑いながら、目的地に到達する。

 冒険者ギルド。

 冒険者達が集う酒場でもあり役場でもあるその施設は、迷宮の地図や人材、情報など迷宮攻略には欠かせないものが幾つもある。

 いかに私が死者を操れるといっても、迷宮攻略で迷子になっては意味が無いので、使えるエルフを調達しようと思ったのだ。


「失礼しまーす。すいません、優秀で新鮮な冒険者の死体が欲しいのですけれど……」


 ……という予想は、ちょっとだけ変更になる。


 私を睨んできたのは、エルフ種の中でも最下層らしいゴロツキ達。

 昼間から酒を喰らい、頬に傷のあるいかにも底辺層の冒険者らしい彼等の姿を見つめーー


 私はつい、瞳を細めて笑みを深くした。


「あら? あなた達は……ふ、ふふっ。……そうですか。考えてみれば、簡単なことでしたね」


 ……ああ、いけない。

 フロンティア攻略はエルフ種根絶の足がかり、下準備程度に考えていたのに。

 こんな所にも、私の復讐相手がいたなんて。


「何だてめぇ。女が何の用だよ。ひひっ、昼間から我慢できず盛りに来たか?」

「……あら。私を覚えていませんか? 私の方は、あなた達一人一人の顔を覚えていますけれど」

「ああ? なに言って、」


 奴等の顔が強ばった。


「せ、聖女レティア!?」

「久しぶりですね。アンメルシアの率いた、人類殲滅軍の皆さん。会えて……とても嬉しいです」


 人類殲滅軍。

 かつて王女アンメルシアが率いた、人類を殺すためだけに編成された軍勢だ。

 といっても戦力的な価値は殆どない。

 彼等の目的は人類の兵士の抹殺ではなく、なんの罪も力もない人々を焼き払うためだけに雇われたゴロツキ連中だ。


 手口は残忍かつ残酷。

 平凡な人間の村を見つけては襲い、犯し、笑いながらなぶり殺しにするという行為を、ひたすら実行していった最悪な奴等。アンメルシアが私を虐めるためだけに用意した、虐殺軍の一部だ。

 彼等がげらげら笑いながら生きた村人達を焼き、その焦げた腕を私の口に突っ込んでくれたことはよく覚えている。


「まあ考えてみれば、人類が根絶したらあなた達の仕事なんてゼロですからね。落ちぶれた冒険者として迷宮を漁り、ネズミの尻尾でも集めるしか脳がないのも当然です」

「なんだと!?」

「図星ですか? それとも……人間を殺す味を覚えすぎて、まともに働けなくなりましたか? エルフの界隈で犯罪でも起こして、流れ着きましたか?」

「う、うるせぇ! お、お前のせいで、俺達はこんな風になったんだ!」


 プライドを刺激されてか、冒険者共が斧や短刀を手に立ち上がる。

 何が私のせいかはさっぱり分からないけど、まあいいでしょう。


 殺そう、と右手にバトルメイスを握り……けれど躊躇する。


「すみません。少し時間を頂いても宜しいですか?」

「ああ?」

「ただ殺すだけでは、この恨みを晴らしきれない気がして。どうしましょうかね……」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! おいお前等、聖女は勇者共と違って力はないって話だ、全員で畳んで、昔みたいにでかい胸で楽しんでや、」


 と叫んでいた奴等をとりあえず撲殺し、蘇らせながら「うーん」と頭を抱える。


 彼等には残酷な死を与えたい。

 王女のような拷問か。毒を流して悶えさせるか。電流を流し、泣いて許しを請わせるか。

 けど、時間をかけすぎても次の作業に支障が出てしまう……そうだ。


「ええ、決めました。あなた達の処刑法。それは私の、新しい力の実験材料になって貰うことです!」

「じ、実験……?」

「聞いて下さいよ、アンメルシア。じつは私、王都でエルフを三十万ほど殺したお陰でレベルが上がったんです」


 沈黙する王女を揺らし、ぽん、とテーブルに乗せながら笑いかける。


 私は蘇生術に触れてから日が浅く、まだまだ成長途中だ。

 これから学ぶことも沢山あるだろう。


「ということで、見ていて下さいね。蘇生魔術、応用――魂融合」


 私は両手を構え、パチン、と手を叩く。

 二匹のエルフの身体がふわりと浮かび、私の前でじりじりと近づいていく。


「な、なんだこれ! 身体が勝手に!?」

「ま、待て、ぶつかる……いや、めり込んで……!」


 そして二匹が背中合わせに触れたと思うと、めきめき、ごきり、と骨のくだける音を響かせながら互いの身体へと寝食していく。

 背中同士がひっつきあい、背中という切れ目がなくなり背骨が溶けるように融合し、引きつった二つの顔が反対向きになりながら後頭部だけが張り付いた、気味の悪い姿へと変貌していく。


「おご、おごあああああっ!?」

「へええ、こんな姿になるんですね」


 やがて完成した二匹のエルフの背中合わせの融合体に、私はうんうんと心地良く頷いた。


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