元旦 神楽とめぐり合わせ
いいわけ
ボクはしっかりと昨日の11:15に投稿予約をしました。だというのにカクヨム君は今日の11:15に投稿するとほざきやがってくれたのです。機械のくせに職務怠慢をするなんてふざけていると思いませんか!
日付はちゃんと確認してなかったけど、おそらくこれはカクヨムのせいです。反論なさる方が居ればどうぞ。毛沢東がやった百花斉放百家争鳴だと考えてもらえればダイジョブでぇす。なにもしませんからね。(開き直り)
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元旦。それまでの呑気な怠惰を享受することは叶わなくなる。適度に神社のお仕事を手伝い宴に参加する。あるいは騒がしさに飽きて口直しに、落ち着いて星空を見上げてお茶漬けを食べたりするような呑気さは失われてしまった。目覚めてすぐ耳に入るのは目覚ましのアラームでなく近くを駆ける誰かしら。屋敷中がどたばた騒がしくなり、神社の方からも華やかな喧騒が漂ってくる。
寝起きで気分はゆるゆる。布団の温かさに包まれていたいと心の底から懇願する。だけれど朝食として部屋の中に置かれていたおにぎりをぱくりと食べる。そして部屋に付けられたシャワーを浴びて、巫女装束を身にまとう。そして朝の軽い運動として神楽を舞ってみると意識は凄まじく鋭敏になり透き通っていく。けれど新たな年がやってきたという感慨はあまりない。もはやこれは毎年のルーティンになっているし、元も子もないが現実としては暦が一日過ぎただけでしかない。
神に畏怖を抱くことはなく、唯我独尊を貫くわけでもない。ただ全てにおいて中立の立場を取りすべてを穿った目で受け取る。ボクの心もいつもと変わらず正常。
あさぼらけの美しい空と神秘を増してくれる薄い雲。そして色鮮やかな着物を身にまとったり、あるいは恋人と一緒に初詣に来る淡い色で神社の中は色めいている。
寝ているピコを突く。「んぇ」なんて間抜けな声を漏らすピコを袴の中にあるよくわからないポケットの中に入れて神楽殿へと向かう。神楽殿は本殿とは全く違う場所にあり、初詣に来ている人達もほとんど訪れることのない場所にある。だから最後の練習をと思い、神楽殿へと向かった。
思っていた通り人はいない。
その癖神楽殿からの見晴らしは結構よいもの。それに快くなったボクは寝ぼけたままのピコを神楽殿の端に置き、それからゆったり舞を始める。音楽はないけれどもう何十何百と舞ってきた神楽。音なんて踊っているうちに頭の中から勝手に流れる。
それに神楽は激しい舞じゃない。雅楽とかにあるように昔の日本人はすごくゆったりとした人達だったのだろう。だから別のことを考えていても特に問題はない。ただおじいちゃんがいたりすると怒鳴られる。アレは読心術を持っていると思う。
ただゆったりとした神楽も決して楽なわけじゃない。ゆっくり姿勢を崩すことなく舞うからこそ、普段使わない筋肉をふんだんに使う。だから十分二十分がたつとちょうどよく汗だくになる。でも脳みそはハイになっていて、増して感ずる冬の寒さをも心地よく思えてしまう。
舞を終えるころにはピコの意識も目覚めてきて、退屈そうな顔をしながら「退屈ね」と口に出す。ちょっと苛つくけど、まあそうだろう。こんなゆったりとした踊り見ていてもつまらない。けど神事だから仕方ない。それに運動神経がある方ではないから、とち狂ってブレイクダンスみたいなことをさせられたら困る。
「でもほんとにアンタ見た目だけは良いから、そういう服に合うわよね」
神楽殿に座り込んで空が青くなっていくのを静かに見つめる。その横でピコの減らず口は勢いを増してくる。といってもわざわざそれに文句を言うこともしない。第一ボクだって自覚している。神様への信仰心なんてほとんどなく、第一神職を騙るにはあまりに性根が腐っている。ただガワは似合う。
「キミには言われたくないよ」
でも性格が悪いのはピコも同じ……いやむしろピコの方が性悪だからそこは文句を言う。けれど相変わらずピコはそ知らぬ顔をして適当な場所を浮かんでいる。これも見た目だけは立派な妖精をしているから、不可思議な色合いの空の下煌めく鱗粉を落としていると、とても神秘的に思えてしまう。根は詐欺師なのに。
「でもまあ、アンタにも真面目なところはあるんだね」
「……いきなりなんだよ、気持ち悪いな」
詐欺師が突如ボクを褒めてくれて身構える。ピコに心から相手を称賛するなんて言う高尚な真似を出来るわけがない。演技として上っ面として、そして他人を騙るために賞賛することは得意そうだけど。だからなにがあるのかと身構えた。
そんなことをしているとピコに蹴りを入れられた。別に痛くはなかったけど。
「いいじゃないべつに、ワタシが人を褒めたって」
「別に褒めてもいいんだよ。ただキミの信用度の低さが問題なんだよ」
出会って初っ端詐欺にあったのだ。逆に今まで絞殺されないことに感謝してほしい。コイツのお陰でボクは赤井クンに襲われて、生き恥を晒され挙句それが全国波に乗ってしまった。お金はしっかりもらえたけど。
「……さぁてね、それは文化の違いじゃないかしら」
「バカいえ」
人のいない場所でピコと小突き合っていた。
そんなとき。
「あーー!! やっぱりだ!」
「ちょ、ちょっと、バカ、やめなさい」
いきなり甲高い叫びがボクとピコの身体を突き抜けていく。いきなりのことだったから頭が少しだけ痛くなる。しかしそれ以上にどこか聞いたことがある声のように思われて、そして不穏を多分に感じ取った。
「どこかで見た事あると思ったんだよ! やっぱり見たことあった!」
「わ、私までキチガイに思われるから黙ってっ」
目を向けて、そして身体が硬直する。
そこに居た二人組はすごく見覚えがあって、しかしここになぜいるか分からない。
「チョコ!? 桔梗!? なんでいるの!?」
「運命ってやつだよ宵桜さん!」
「ほんと、いやだいやだ。逃げようかな」
そこに居たのはマヌケそうな顔をしてマヌケそうなことをしているチョコと、バカでかいチョコの声から逃れて無関係を装おうとする青紫の髪色が特徴の桔梗。それはいつも通りの絡み合いをしながらこちらに向かって歩いていた。
「あっ、とりあえずあけましておめでとうございます!」
「あけまして、おめでとう?」
そこは律義にも挨拶をしてくれるチョコにボクも挨拶を返す。理解不能な状況だとは言え挨拶を返すのは礼儀だし、それはもはや骨身に染みている。だから返して頭を上げる。するとそこには煌めくチョコの二つの目がボクを突き刺していた。
「……って、あぁっ!? いつもの子だ!?」
「今更なんですか、宵桜さん」
理解不能で首をかしげていた。しかしそういえばと記憶の中から一つ掘り起こす。
リハーサルを兼ねて毎年早朝に舞う神楽。それを毎年毎年身に来てくれる二人組の女の子たちがいた。思い返してみればたしかにその二人は背の低い茶色の子と、背の高めな青紫の女の子で、いつもこんな風に片方が騒ぎ、片方が諫めていた。
「うふふ、私と宵桜さんが十年以上の顔見知りだなんて気付かなかった!」
「ボクもだ」
この二人はボクがまだ小学校に入学する前からすでにボクの神楽を見ていた、かなりの古い常連さんである。それをボクは今まで気付いていなかった。というかどこかであったかな、とも思うことがなかった。
「師匠に送っちゃおーっと」
「……いや、どうせ止めても写真送るだろうからいいけど」
チョコが何故かクロを憧れ、クロのことを師匠と呼んでいることは知っている。アイツにボクの巫女装束を見せるのは癪だけど、チョコのことだ止まるわけがない。でなかったら桔梗はあんな気苦労はしていない。第一本番の神楽の撮影は禁止しているけれど、それ以外は許可されているし。
「ほんと、すごい巡り合わせだね」
「すごいねここの神様! 流石縁結びの神様と言われるだけのことはある!」
「……縁結びの神様がいるのか分からないけど、それたぶん神宮のことじゃない?」
あの筋肉なおじいちゃんが神主を務めて位の神社だ。神社として祀っているのは恋愛の神様じゃなくて筋肉の神様だと思う。ただ日本の神様はすごく恋愛脳だし天満宮とかでないなら縁結びの神様とか言われそうだとは思うけど。
知らないけど道長さんって堅苦しそうだし。あとちょっと性格悪いと思う。性格良かったら「我が家より云々――この矢当たれ」なんて言わない。伊周可哀想だよ。
「――突っ込むのはそこじゃないですよ」
相変わらず桔梗は頭を抱えていた。
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