尋問と襲撃
まえがき
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追記(2022/02/21 1:54) 改稿予定
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この教室の中には初めて入った。授業でも使われておらず高校二年の12月の今までに一度たりとも人が入ったことを見たことがない不思議な教室。その上カーテンによって内側から封じ込められておりその中がどうなっているのかもわからなかった。
ただ人が入っていないのだからその中は埃塗れであると思っていた。事実ドアに付けられた窓から唯一見えるカーテンは、それが元から灰色のカーテンであったのだろうかと思われるほどに埃が付いている。扉のくぼみ自体にもうっすらと埃の層が出来ている程度に動かされた形跡はない。
ハウスダストにアレルギーはないのだけれど、さすがに埃塗れの中に入りたくはない。けど赤井クンがしょぼくれた顔をしながらも身体を押してくるから仕方がない。目を瞑り少し息を止め、こちらに飛んでくるだろう埃から事前に防御をする。
ガラガラ、大きな音を立てて扉が開く。それから埃が感じられてそれでもボクは赤井クンに無理やり押されて教室の中に入った。
「……佐倉おねえさん? どうして目を瞑っているんですか?」
聞きなじみのある甲高い声。けれど高校の中では今の一度も聞いたこともない声。そして途轍もない呆れが混ざった声にボクは思わず目を開ける。どうして彼女がいるのだろうか。目を開けるとそこには白い少女が座っていた。
いや、目についたのはそれだけじゃない。
「なに、ここ」
教室の中は全てが黒く塗られており窓さえ存在しない不思議な空間。そもそもタイル張りですらなく、黒板もなければ机もなく椅子も、その白い少女の前におかれている拘束する気ありありの禍々しい椅子くらいしか置いていない。その上視界には使用用途の考えたくない鉄格子の空間が存在しており、なにに使うのかは分からない工具の類が壁に掛けられている。酷く悪趣味な空間。
随分と強いLEDライトに照らされて、しかし周りが黒いから本当に明るいかが認識できなくなってくる。感覚がくるってしまう窮屈な空間。
しかし幸いにも埃はまるでない綺麗な場所だった。
「対ヴィラン用の尋問施設です。どんなに暴れようとも内側からこの場から逃れることはできません」
白く小さな少女は可愛らしく微笑みながら悍ましい台詞を吐いた。
「でも時間もそこまでないので、そこに座ってください佐倉おねえさん」
「す、座りたくないんですけど――ちょ、バカ、押すんじゃない!」
「佐倉おねえさん。今やあなたはヴィランです。立場を弁えたらどうです?」
あまりに高圧的な態度と冷めきった声、感情を失ったその少女の顔を目に入ると途端恐怖が湧き上がる。ただの中学生女子には出すことの出来ないピリついた空気と威圧に気圧される。これはあれだ、優しい先生が怒る時に出る空気感。肝が冷える。
それからボクは赤井クンによって拘束具で溢れかえったその椅子に座らされる。その上赤井クンは拘束具を装着させようとしている。無論抵抗しないわけにはいかない。
「さて、座ったようですのでまずは自己紹介をしましょうか。佐倉おねえさんもご存じですが私の名は
小白真衣。そう名乗った彼女は髪の毛が真っ白で、肌も真っ白な珍しい色合いの現在中学二年生の女子生徒。かなり小柄なボクよりもさらに小柄である彼女は、両の眼を煌めかせながら口を開いた。右は黄色に、左は緑に輝かせる。
それは彼女の能力の発露の印だった。
「まずあなたは私が知っている佐倉おねえさんであっていますよね」
「……おねえさんじゃないけど、間違いはないね」
ガチャガチャ、ボクと赤井クンは小さな争い合いが継続される。そんな中小白ちゃんに問いかけられた質問にボクは何気なしにこたえてしまった。するとどうだろう、筋肉と筋肉の合間から見える小白ちゃんの、右の瞳が輝いた黄色の輝きを強める。
今日も能力は健在のようだ。
「そうですか、ならば――」
彼女の能力【真実の瞳】は黄色に輝く右目に現れる。それは質問を投げ掛けた相手の言葉が真実であれば黄色の輝きがより増すという単純な能力。そして尋問される側としては鬱陶しい能力。
「それはもちろん腐敗に塗れた国家を武力で以て覆すために――」
「御託は良いのでさっさと言ってくれませんか?」
光量を増す緑色。吐き捨てる小白ちゃん。
彼女のもう一つの能力【虚偽の眼】は緑色に耀く左目に現れる。それは質問を投げ掛けた相手の言葉が虚偽であれば緑の耀きがより増すという能力。そしてこちらもまた尋問される側としては鬱陶しい能力。
「環境破壊を止めない科学文明を破壊せしめる――」
「私の言葉が分からないんですか、佐倉おねえさん」
輝きを増す黄色と緑。ため息を吐く小白ちゃん。
二つ合わせて【真偽眼】と呼ばれる能力。小白ちゃんの一番厄介なところは嘘と真を同時に判別できるところである。このようにボクの目的ではないけれどピコが目的に掲げ、労働の最終目的であるという酷く曖昧なことを言ってみても、嘘と真が混じっていると判別できてしまうのだ。この手にありがちな、嘘と真実を混ぜ込むということが小白ちゃんには通じない。
「お金だけど」
「……はぁ? そんな理由でヴィランになったんですか?」
渋々真実を口に出す。そして輝く黄色の瞳。大きなため息を吐く小白ちゃん。いまだに拘束具をつけようと躍起になっている赤井クンにもため息を吐かれる。
ただその態度がちょっとムッと来た。
「まぁ、キミみたいなお嬢様には下らないことでしょうね」
「……ほかに、理由はないのですか」
中学生相手に悪辣な言葉を投げ掛けるのは確かに良くないのかもしれない。しかも相手がここいらではかなり名の知れたお金持ちの家ということもあって、小白ちゃんはこれでも結構純粋な方だ。しかも尋問では酷いことを言うけれど心優しいし。
だからこういう恣意的な言葉には苦々しい顔をする。ボクのような貧民にはアンタらブルジョアは分からんだろうね、と言っているものだし。……言っても別にボクの家も貧困しているわけじゃないけどさ。
「まぁ、偉そうにしてるキミらの顔を殴って見たかったってのはあるよね。赤井クンは存在が鬱陶しいし、キミは生意気だしぃ」
しかしこうなったらこっちのものである。ボクが一番にすべきなのはここからの脱出であり、そのためには時間を引き延ばすこと。小白ちゃんが主導権を握りただただ質問を投げ掛けられるだけならば、すぐさま尋問も終わってネックレスは奪われる。しかし真実を言って時間を引き延ばせば時間はいくらでも伸ばせてしまう。
ちなみに二番目にすべきことは赤井クンに拘束されないこと。襲撃があると分かっている状況で拘束なんてされたら本気で死にかねない。
「ふふ、それにボクみたいな小っちゃいのが、赤井クンみたいに筋肉も身長もあって社会的地位も結構ある人間をさぁ、屈服させれたら面白いじゃない」
ピクリ、今まで無言でボクの腕に金属製の枷を嵌めようとしていた赤井クンが動きを止める。そしてボクのことをじっくり眺めはじめた。
「考えるだけで笑えてきちゃうよ」
さて心からの本心をぶちまけながら時間を稼いでいるのだが、危険なヴィランの襲撃とやらはいつやってくるのだろうか。ボクの倫理観の程度が晒されて恥ずかしい。
お陰で向けられる視線はかなり鋭く赤井クンは、ちょっと良く分からない雰囲気を出している。昨日の放課後の地獄の如き教室での絡み合いが自然と脳裏に浮かんだ。たしかに昨日ヤツはこんな顔をしていた。ただ、こんなに獰猛な顔じゃなかった。
「……そんなに、後悔させられたいか」
その時今までは黙りこくっていた赤井クンがボクの耳元でそんなことを言い始めた。コイツ小白ちゃんがいる前でなにをおっぱじめようとしているのか。小白ちゃんの視線がどんどん鋭くなってくる。ボクの魂もすり減っていく。
一体いつヴィランがやって来るのか。早く来い!
「……いつか、後悔させてあげます」
小白ちゃんの追撃。また再びの地獄である。
はやく! はやく! このままだと小白ちゃんにどこまでもなじりられ続けた後に即赤井クンによる「わからせ」ルートという地獄のような展開になってしまう。襲ってくれ! どうせヴィランがヒーローに勝つことなんてないんだから躊躇ってないで襲ってくれ! 本当に頼む!
そんなとき、願いを聞き取った神がボクに救いを手渡したのである。
学校が揺れ、凄まじい音がやってくる。
次の瞬間、拳が天から降ってきた。
「あははは! これはいいなあ! 気に食わない連中が一斉に集まってんだから!」
鉄筋コンクリート造りの校舎を突き破り金属製の拳がもう一つ降ってきた。しかもちょうどボクの目の前に。
「ひぇ」
「――朔夜! お前は逃げとけ!」
言われるまでもなくボクは逃走する。
恐怖と、そして例のふざけた作戦を決行するために。
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