魔法少女、始めました
三日経って
まえがき
現在改稿中です。ちょっと曜日とかが違ってたりしますが内容はほとんど変わりません。ごめんなさい。
あらすじ
凧と接吻→毛玉と会う→毛玉虐め→毛玉洗おうとする→妖精ピコ登場
→ヒーローにしてあげる→うそだよばぁか!→ミンチおいしそ→慄く
→うそにきまってんじゃん→ヴィランになりました→魔法少女になりました
→女の子になりました→ぼくおとこです→なんいってんの?byピコ
わかりやすいね()
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月曜日。憂鬱な朝。
見た目を整えつつ記憶のタンスを漁っていた。
三日前、ボクと妖精ピコは絶望的で運命的な出会いをした。そしてこの三日間は新鮮味の多いものでもあった。ボクはピコから色々なことをこの間に教わったのである。何個かあげてみよう。
不審者おじさんの凧の上に器用に乗っかっていた白毛玉が、実はピコの異なる姿であること。
ヒーロー契約だと語り結ばされた契約が時給制であり、かつ福利厚生と福祉やら社会保障に手厚いものであること。その癖不実告知による解約はできないこと。
あんなにも傲岸不遜で礼儀なるものを存じ上げてなさそうなピコにも実は上司がいて、その名前を妖精女王ティータニアと言うらしいこと。
ほかにもヴィランと一括にして考えられていたものにも、妖精女王派閥やら妖精王子派閥やら、それ以外にも派閥闘争が行われていること。また派閥ごとに異なる目的を掲げていること。
あと重要な、ボクの能力についてのこと。
現代人には少ない休日を消費して、主に雇用上の注意点を教えられたのである。
しかしボクは休日を消費したことにさほど不満を抱いてはいない。ちょっとはあるけど。
よく晴れた土曜日と日曜日。心地の良いその日にボクはピコに無理やりセリフを吐かされた。「わたしたちは世界を破壊する人類の機械文明を破壊する崇高な目的のために、聖戦を挑む妖精女王陛下の尖兵です」と。意味不明なエコ・テロリスト宣言を強要された。
イズムの濃さと理解できないイデオロギー。困惑は強い。それでもボクは歓喜を抱いていた。それもかなり強い歓喜を。
そこにはヴィランが時給制の雇用契約であったことが関わってくる。
アルバイトには普通、研修期間がある。教えてあげるという名目で三カ月近くの給料を下げるために使っているのだろうけれど、そのようなものがヴィランにも存在する。それを知ったのは土曜、ピコが能力を教えてあげると言った時。
騙されてヴィランとなり、女にされたのだからはじめボクは抵抗していた。消極的サボタージュを決行し社会主義者たちが生み出した労働権や大きな人権を胸に抱き、布団の中で勇猛果敢なる籠城戦を決行していた時である。
ピコは言った。
「ヴィランって一応ちゃんとした仕事だから、説明するときにも時給は出るわよ」
しかしこれで騙されるほどボクの脳はスカスカじゃない。どうせジンバブエドル払いなんだろう。大胆過ぎる騙され方をしたボクは、ピコに対する信頼を完全に失っていた。
それに対してピコはワタシに対する不敬だと怒りながらも語った。
「ちゃんと日本円で出すわよ。研修期間だから時給1,200円。だから説明くらいは聞きなさいよ」
ヤツは布団にユキチを挿し込んだ。
途端ボクは布団から起き上がる。
かつてディエンビエンフーがソビエトの資金力とベトナム人の熱意によって陥落したのと同じく、妖精女王の熱意と資本力によって要塞フトンは陥落したのである。
ティータニア妖精女王陛下のご意向によって、最低限の能力を知ることだけにもお給金が発生する。それも時給1,200円というハイレート。
待遇を知ってボクは土曜日曜をピコの説明を聞くことだけに費やした。必要以上の銭と札をせしめるためにとんでもない間抜け者を演じて研修時間を引き延ばすこともした。その結果が今ボクの財布にある一枚のユキチと数枚のヒデヨである。
もう、ホクホクですっごくうれしい。
心の余裕は財布の余裕から。そんなようなことを孟子は恒産と恒心という言葉を用いて説いた。それは今ではベーシックインカムに通じるような話でもある。
そして孟子は正しかったようで潤沢な資金を手にしたボクは、日曜日も夕方ごろには友人としてピコと関わっていた。それまで三十分に一度は文句を言っていたのに。
性善説は眉唾だったけどさ。
そうして過ごした土曜日曜。
ボクの能力が【魅了】とか言うふざけたもので、ピコを絞め殺して剥製として上野の博物館にでも送ってやろうかと一瞬思った。けれどやはり多くの収入が荒んだボクの心を癒してくれて、失われた道徳も回復する。
穏やかな日を送り、そうして今は月曜日の朝。
もはやボクは変身することに忌避を覚えなくなった。それどころか仕事として変身し、女になった状態で高校に通うことに対しボクは意気揚々。
だって研修を終わった今の時給は1,500円、もう高校生の時給じゃないもの。
しかもそれが【魅了】という能力のおかげで変身しているだけでお金がもらえる。変身していればただ授業を受けて、居眠りしたり下世話な話をしてお弁当を食べて帰るだけでお金がもらえる。そのうえ登下校の時間さえもお金が入るし、変身して家の外にいればずっとお金が入って来る。
それで平日一日10,000円は楽に超えてしまう。月収二十万はもはや確定的。
ふへへ。つまらない高校も、今や金ぴかに輝いて見えてくるよね。
「変なところ、ないよね」
学ランを身に着け姿鏡の前に立つ。くるりと回って一通りを確かめて、今度は学ランを脱いでワイシャツ姿を確認する。それでもちょっぴり不安は残ってピコに聞く。例えばサラシが透けていないか、とか。
お金をもらえることは嬉しいのだけど、しかし女になるということが不安だ。ボクの貞操と矜持と、バレてしまわぬかという三つの面で。
「……むしろ変身する前のが異様だと思うけど」
「それは……言わないでくれよ」
胡乱な目でボクの容姿を評価するピコの台詞。その言葉にボクも言葉を詰まらせる。
長く艶のある髪の毛、華奢な四肢。色白な肌にもちもちほっぺと可愛い顔。そして甲高い声。要素要素を鑑みれば全部女の子のものである。
けれどこれらはボクが変身する前から持っている特徴で、いつもと変わらない姿。
いつもとの相違点はほんの少しの胸のふくらみだけ。それもサラシでつぶすと見た目は全く変わらない。普段の……どこからどう見ても女の子にしか見えない男子高校生たるボクの姿。
ピコの言葉は認めたくはないが間違ってない。
「胸を見られても女になったとはバレないでしょ。元々女だったのを男装してごまかしてたって思われるだけで」
「……うるさいな」
鋭い明察だと思う。認めたくないけど。認めたくないけど反論できないし。
「ほら早く、学校行くんでしょ? 馬鹿なこと言ってないで行きましょう」
プライドと現実との葛藤。それに頭を悩ましているうちにボクの頭の上に乗っかったピコ。その妖精はボクの髪の毛を手綱のように引っ張って他人事のような台詞を吐いた。やっぱりお金をもらってもピコはピコだ。嫌いなもんは嫌いで、俱に天を戴かない妖精というのは変わらなさそう。
一回だけヘッドバンキングみたいな動きをして振り落としてから部屋を出る。
「……馬鹿な行動もしないで行くわよ」
「ボクは乗り物じゃないからな」
釘を指すのは忘れない。
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