氷が融ける
「お母さん、ごめんなさい!」
ゆきは雪女に向けて氷の粒を吹き散らした。彼女は怒りで強くなる。そう雪女に教えられていた。でも、今、ゆきは母親に怒ってなどいない。目の前にいるあつきを助けたい、人間を助けたい、その一心だった。思いの強さが、彼女の強さを高めた。
雪女はひるんだが、ゆきよりも体は丈夫だ。ものすごい勢いで吹雪と氷をゆきとあつきに吹き付けた。雪女の怒りのエネルギーは計り知れない。近くで雷が落ちた。
「そんなに死にたいなら、二人まとめて…」
「私は死にます。お母さん」ゆきは今までにないくらいしっかりした口調で話した。
「えっ、ゆき」あつきは焦る。
「私はお母さんの分身、どちらにしてもお母さんを裏切って生き続けることはできないの、でも…ありがとう」ゆきがあつきに笑顔を作ってみせた。感情など知らなかったから、ぎこちない笑顔しかできなかったけれど。
雪女は急に攻撃をやめ、二人をじっと見た。
「なら、最後のチャンスをやる、人間よ」
「えっ」あつきは思わずゆきと視線を合わせる。
「ゆきをお前が殺すんだ。雪女は人の体温に耐えられない。思いっきり抱き寄せてしまえばすぐに済む話だ」
「そんな…」
「私は、それでいいです。お母さんが人間を助けてくれるなら…」
雪女は悪意のこもった笑みを浮かべた。「ただし、お前の冷たさで先に人間が死んじゃうかもねえ。こいつ、寒さとけがでかなり弱っているから。そうなったら、未練なく、世界を凍らせられるだろう?ゆき…」
あつきとゆきは思わず互いを見合う。どちらかがどちらかを殺してしまうことになる。
「私は…それでいいです」
「俺も…」
迷いも、死の恐怖もない二人の表情。雪女は一瞬だけ、優しいような、悲しいような表情を浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます