ゆきの想い

…私には、熱すぎた。


人間が何なのか、最初はわからなかった。お母さんが何に怒っているのかも、本当はよくわからなかった。ほんの遊びのつもりで、人間の姿でこの家の玄関前に立っていた。特に意味はないし、何も思わなかった。

「そんなところにいたら風邪ひくから、家にいたほうがいいよ」

男の子に突然そう言われた。風邪なんてひかない。ただ立っていただけの私に、なんでそんなことを言ったのか。優しい表情の意味もはっきりとはわからなかったけれど、胸が熱くなる気がした。

彼に会える気がして、また同じところで同じ時間に待っていた。なぜ会いたいのかわからなかった。

「お前、名前は?この家の人?」

「…ゆき」名前はお母さんが呼びやすいようにつけただけのものだった。でも、自分の名前を彼に伝えるのが心地よかった。

「川崎あつき」

「えっ?」

「俺の名前。あつき、でいいよ。ゆき」

彼と話すと胸が熱くなった。あつき、という名前は彼にぴったりだと思った。

彼はいつも他人のことばかり考えていた。私のことを気遣ったり、自分の家族のために働いたり。私が思っていた人間とは違うみたいだった。

でも、私は、人の熱さには耐えられない。マフラーを貸してくれた。熱かった。マフラーを返したとき、内側が結構濡れて冷たくなっていた。彼には気づかれないようにしたけれど、後で確かめたらやけどのようになっていた。

お母さんの言う通り、住む場所も違う、分かり合える相手ではない、人間。

でも…私がしたいことは?


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