第5話 樹くん

 私が2歳の頃、うちに男の子が来た。


いつきくんよ、はんな。ママの弟なの」


「いーつーきーくーん」


 ママの手を握りながら、樹くんを見上げる。


 髪が長くて、顔がよく見えない。


「はんなよ、樹」


 樹くんが、私をチラッとだけ見た。


「……はんな……」


 奥の部屋から、パパが樹くんを出迎えに出てきた。


「おかえり、樹くん」


「……ただいま……」


 私は奥のテレビの部屋に行く。


「トトロつけて、トトロ!」


「またあ? はんなトトロが大好きなの。1日4~5回は観るのよー」


 ママが樹くんにそう言って、ついてきてくれる。


「樹くん、こちらに。手を合わせるんだ」


 パパが樹くんをテレビの部屋の隣の小さな部屋に連れて行く。


 テレビの前でトトロを観ていたら、パパと樹くんがごはんを食べるテーブルの椅子に座った。


「中学校の転校手続きはしてある。明日から登校できるよ」


「……行かない……」


「そうか……まあ、あとわずかな期間だしな。卒業後は通信制の高校を希望してるって聞いたけど」


 パパが樹くんに何かの話をしてる。


「この辺りの高校なら、問題なく通えるんじゃないか?」


「……いい……通信制で……外に出たくない」


「……そうか……樹くんがそう言うなら、手続きをしよう」


 ママも椅子に座る。


「樹、引きこもるつもり? ちゃんと高校卒業して、大学行って、職を見付けないと」


「まあ、徐々に考えていけばいいよ」


「でも!」


「ドードーろぉぉぉぉお! きゃははは!」

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