桜にチューリップの花束を

中嶋怜未

ラジオドラマ






桜に、チューリップの花束を







                         中嶋 怜未


登場人物

大樹……真桜の婚約者(二十九歳)介護士。

大樹N…大樹のナレーション。

真桜……大樹の婚約者(五十四歳)バツイチ。介護用インテリアデザイナー。現在は在宅で仕事をしている。

ご婦人…大樹と真桜が福井県の大野城を訪れた際に出会ったご婦人。

動画……大野城の説明動画のナレーション

元夫……真桜の元夫









あらすじ

 小旅行として行った福井県から愛知県にある自宅に帰ってき

た大樹と真桜。大樹は籍を入れることを渋っていた真桜を説得し、

やっと明日婚姻届けを出せることを喜んでいた。しかし、夜にな

って真桜は、また籍を本当に入れていいのかまた迷いだしてしま

った。一度結婚に失敗した自分がまた結婚してもいいのか。そも

そもなぜ籍を入れるのか。大樹と真桜は『結婚』について改めて

話し合うことになる。


SE お茶をコップに入れる音


大樹  「はぁー、やっぱ真桜ちゃんの作ったご飯が一番だよな。ほら、芦原の旅館で食べた料理もおいしかったけどさ、真桜ちゃんの料理には敵わないよね」


真桜  「大げさだよ。でも…ありがとう。嬉しい」


     真桜は、横に置いておいた明日出す予定の婚姻届けを手に持つと、不安そうに見つめた。


大樹  「どうしたの? 婚姻届け見つめちゃって……もしかして、まだ迷ってる?」


真桜  「うん……」


大樹  「えー、さっきはいいって言ったじゃん。それにさ、ほんとは帰り

に出す約束だったけど、真桜ちゃんが疲れちゃって今日はまっ

すぐ帰りたいっていうから、明日は日曜日だし、一緒に出しに行

こってなったんでしょ? それで萎えられたんじゃ、たまった

もんじゃないよ」


     大樹は子供みたいに唇をとんがらせて不服そうに言った。


真桜  「ごめん、ごめん。結婚したくないわけじゃないの。気持ちはワクワクしてるし、凄く嬉しい」


大樹  「じゃあ、なんで迷ってるの?」


真桜  「うーん、大樹君と私は年が離れすぎてるし、それに……私はバツイチだし」


大樹  「そんなの今更だよ。さっきも言ったでしょ? 真桜ちゃんと歳を重ねて、真桜ちゃんと同じお墓に入りたいって」


真桜  「でもッ」


大樹  「真桜ちゃんと、一緒に暮らせない人生の方がもったいない」


真桜  「でも、男の人って熱しやすいし冷めやすいじゃない。こんなおばさん、すぐにさ……」


大樹  「ふっ……もう二年はつきあってるんだけどなぁ」


     真桜はマリッジブルーのようなものになっているのだろうと、大樹は真桜の不安をすべて聞くことにした。


真桜  「どうして別れるんだろうね。永遠を誓って結婚したのに、好きだったから結婚したのに、どうして好きが消えてしまったんだろう」


大樹  「前の結婚のこと?」


真桜  「うん……ごめん。こんなこと、大樹君に話すべきじゃないのは分かってるんだけど」


大樹  「いや、いいんだよ。考えてみたら俺、いっつも突っ走って、真桜ちゃんが気持ちを整理する時間とか全部無視して強引に進めてきたと思う。だから今こうやってもやもやさせちゃってるんだなって思うから、全部話してほしいな」


真桜  「大樹君……大樹君はどうして好きが消えるんだと思う? 離婚するまで追い詰められるんだと思う?」


大樹  「うーん、そうだなぁ……俺ね、好きが消えても一緒にいられることはいられると思うんだ」


真桜  「え?」


大樹  「俺が介護を担当させてもらってる、峯さんっていう可愛いおばぁさんがいるんだけどね。その人が前、亡くなった旦那さんのことを話してくれたんだ。だから、俺『旦那んさんのこと好きだったんだね』って言ったんだけどさ、なんて返ってきたと思う?」


真桜  「んー、わかんないな」


大樹  「『好き…だったのかしら。家事も子育ても全部私がやって、彼は仕事一筋で全然帰ってこなかった。浮気とかギャンブルはしなかったけどね。でも、恋人だったころの好きって気持ちはもうなかったわ』って」


真桜  「じゃあ、なんで一緒にいれたんだろ。好きの気持ちが消えてからも一緒にいれるなんて……」


大樹  「うん。俺にもわからなかった。だから、峯さんに聞いたんだよ。どうして一緒にいられたの? って。そしたらさ、『ありがとうをちゃんと言ってくれる人だったからかな』って」


真桜  「え、それだけ?」


大樹  「そう思うよね。会話はそれで終わっちゃったから、なんでか聞けなかった。だから俺、自分で考えたんだ。それで……」


真桜  「分かったんだ」


大樹  「うん。多分、愛おしくなったからだと思うよ。家族として、人として。当たり前の日常の中で、感謝することってついつい忘れがちだけど、お互い忙しく働いている中で、心折れそうになっても毎日、『ありがとう』って言われるだけで、この人のために頑張れる。家庭を守れるって愛しくなったんだろうね」


真桜  「『ありがとう』…か。言われなかったし、言わなかったなぁ。お互いに、いつの間にかね。そっか。感謝がないから相手にとっての、自分の存在意義が分からなくなったんだろうなぁ」


大樹  「どうして別れることになったか…そんなに難しいことじゃなかったね。結局夫婦って言っても、自分とは違うんだから。友達でも、恋人でも、同僚でも、感謝がない人と付き合ってられないよね」


真桜  「お互い様だったんだね。私にとって彼への気持ちは好きから、愛しさに変わることはなかったし、彼にとってもそうだったんだろうなぁ。…運命だと思って結婚したのにね」


     大樹はむっとした。


大樹  「運命の人じゃなくなったんだよ。運命の糸がほどけちゃったんだ。運命は変えられる。だから、真桜ちゃんの運命の人は、今は俺なの!」


     SE ガタンッと机が揺れる音


真桜  「危ない、危ない! もぉー、そんな…身を乗り出して言わなくても。あぁ、ほら。お皿に服ついちゃうよ?」


大樹  「だって、普通に嫉妬するし。前の旦那を運命とか……ねぇ、俺は真桜ちゃんの運命の人?」


真桜  「さっき自分で言ってたじゃない」


大樹  「真桜ちゃんの口から聞きたい」


真桜  「大樹君は、私の運命の人だよ」


大樹  「ほんと?」


真桜  「ほんと…ほら、おいで?」


     真桜は腕を大きく開いて、大樹に抱きしめてあげるよと言う合図を出した。瞬時にそれを読み取った大樹が、子犬のように机を避けて、真桜の腕の中に飛び込んでくる。

SE 小走りで、相手に抱き着いた音


大樹  「ぎゅーー!!」


真桜  「ふふっ……大樹君」


大樹  「ん?」


真桜  「私達、夫婦に見えるかな?」


大樹  「見えるよ。だってね……」


    SE 木々がさわさわと揺れる音

    SE 鳥の鳴き声

    SE 坂を上る靴の音


大樹N 「あれは昨日真桜ちゃんと、福井県の大野城を見に行った時のことだった。俺達は生い茂る木々を見ながら、きれいに整備された坂道を登っていた」


真桜  「ねぇ、あれ鬼ゼンマイじゃない?」


大樹  「ほんとだ。でもあれって食べられないんだよね?」


真桜  「うん…でも、隣はゼンマイだ! あ、コゴメもあるね。いいなぁ採って帰りたいけど、一応ここは大野城の敷地内だし勝手に採ったら罰せられるよね」


大樹  「まぁ、そうだねぇ。階段で登ってたらこういう発見もできなかっただろうな。坂道の方にしてよかったね」


真桜  「二つ上り方があって助かったよ。運動部の子たちが体力づくりで階段駆け上がってたの見たでしょ? 若い子が体力づくりに使うような階段を、この歳で登るのはきついよ…」


大樹  「真桜ちゃんは運動不足なんだよー。普段在宅で仕事してるからって、ちゃんと体は動かさなきゃだめだよ」


真桜  「うーん、そうだね。これから毎日お散歩しようかな」


大樹  「いいじゃん。俺も休みの日は一緒に行きたい!」


大樹N 「和やかな会話を続けていると、あっという間に大野城の天守閣が見えてきた」

    

    SE 駆け出す靴の音。


大樹N 「さっきまでしんどそうに坂を上っていたのが嘘のように、真桜ちゃんは子供みたいに、大野城に続く満開の桜並木の下を走っていった」


真桜  「大樹君! すっごく綺麗だよ!!」


大樹N 「楽しそうにはしゃぐ真桜ちゃんに俺はカメラを向けた。今回の小旅行のために買った一眼レフ。はらはらと舞う桜に包まれた彼女とお城。俺の腕がいいのか、被写体がいいのか、コンテストにでも出せば、優勝できるんじゃないかと思える最高の一枚を撮ることが出来た」


    SE ピッピッとカメラで撮った写真を見返す音。

    大樹は写真の中の真桜と、少し先で桜を見ている真桜を交互に見

た。


大樹  「…綺麗だよ、真桜ちゃん」


ご婦人 「あっらぁ――、ええ写真やがぁ。奥さん別嬪さんやのぉ」


    大樹は突然声をかけられたことに驚いたが、失礼になると思い、

冷静を装ってご婦人に訪ねた。


大樹  「わっっ!!……夫婦に見えますかね、僕ら」


ご婦人 「あぁ、ごめんの…そりゃぁ見えるって。幸せそうやもん」


SE 背中を軽くたたく音


大樹N 「ご婦人は俺の背中を軽くたたくと、大野城に続く石垣の階段を

元気に上って行った。…俺は今年二十九歳。真桜ちゃんは俺の二

十四歳年上で、バツイチだ。一年前に同棲を始めて、そろそろ籍

を入れようよ、と何回も言ったのだが、歳の差のせいか、一度結

婚を失敗したせいか、頑なに彼女は首を縦に振ろうとしなかっ

た。でもさ、真桜ちゃん……」


大樹  「ねぇ、真桜ちゃん!…やっぱりさ」



    三秒の間

    SE お茶を入れる音


大樹  「そういうことがあって俺はあの時、やっぱり籍を入れようよって言ったの……はい、あったかい緑茶です」


    SE コトンッと机にコップを置く音。


真桜  「ありがとう……そっかぁ。そんなことがあったんだ。嬉しいね、人生の先輩にそういう風に言ってもらえると」


大樹  「自分が気にしすぎてるだけで、周りの人はそこまで気にしてることじゃないんだよ」


真桜  「…ねぇ、今日撮った写真見たいな」


大樹  「おっけ! ちょっと待ってて」


   SE ぱたぱたとカメラを撮りに行く足音。そして足音が戻ってく

る。

   SE 椅子を引いて座る音。      


大樹  「はいっ! ここを押すと写真が見れるよ」


真桜  「ありがとう。あ、一日目に行った恐竜博物館からなのね。大樹君、

ここ行くのすごく楽しみにしてたもんねー」


大樹  「福井と言えば恐竜だからね。一度行ってみたかったんだ。いや

ぁ、感動したよね。スケールも大きいし、大人でも楽しめるから、

いいね」


真桜  「そうね。私も初めていったけれど凄く良かった。あまり恐竜とか興味持ってこなかったんだけど、楽しかったなぁ。あ、そう言えばね、大樹君が気になってた電車ね、越鉄っていうんだって。えちぜん鉄道のことらしいんだけどさ、なんと中にアテンダントさんが乗ってるらしいよ。最近映画にもなったんだって」


大樹  「えーー、何それ気になる! 今度行ったときは越鉄乗ろうよ!」


真桜  「すっかり福井好きになっちゃって。いい街だったでしょ。私も芦原温泉とか有名なところしか行ったこと無かったんだけどね」


大樹  「結構ディープなところも行けたよね。片町とか、あと……かつ丼

の……」


真桜  「ヨーロッパ軒のこと? 私たちはさ、愛知だから味噌カツで育ってきたけど、ソースカツの方が私は好きかも。甘いのにさっぱりしてるから胃もたれしなくてよかった」


大樹  「なんか新鮮だったよね。俺もソースカツの方が好きかも。食べ物本当に美味しかったなぁ」


真桜  「あと、大野城と桜。あれ綺麗だったなぁ。山の上にお城があるっていいね。あ、撮れた写真パステル画みたい。幻想的」


大樹  「今調べたんだけどさ、大野城は天空の城って呼ばれてるみたいだよ。ほら、これ紹介動画」


   大樹は自分のスマホを真桜に渡した。

   SE スマホの画面をタップする音

   真桜が動画の再生画面をタップすると動画が再生された。


動画  「天空の城、越前大野城は越前大野城の西、約一キロメートルにある犬山の南出丸下から見ることができます」


真桜  「へーー、綺麗だね。これ公式のサイト?」


大樹  「そうそう。今度は天空の城を目的に行くのもいいなぁ。まだまだお城あるみたいだし、そこもまわってみたい。今までとほとんど変わらないだろうけど、結婚するってだけでなんでこんなにワクワクするんだろうね」

  

   真桜は思い出していた。前の旦那と結婚したばかりの頃は、結婚し

たということだけで毎日が輝いていた。自分は彼だけの人であって、

彼も私だけの彼になった。それだけで若い頃は幸せだった。


真桜  「……大樹君。私、前の夫と別れた理由さ…ちゃんと話してなかっ

たと思うの」


大樹  「うん…そうだね」


真桜  「やっぱり、気になる…よね?」


大樹  「まぁ…でも、聞いていいことかわからなかったし」


真桜  「そうよね…今更かもしれないけど、聞いてくれる? 離婚の原因はね、彼の不倫だった。恋人時代から浮気がちな人だったけど、優しくて気の利く人だったから、私を一番に考えてくれているならそれでもいいと思って結婚したの……」


   前の夫の回想(回想のセリフにはエコーをかける)

   SE 回想だとわかる効果音


元夫  「真桜、ごめんな。結婚する前の火遊びだから。結婚してからは家庭一筋で頑張るよ」


元夫  「真桜、これプレゼント。え? うん、なんでもない日だけど、たまにはいいじゃん」


元夫  「あ? 結婚記念日? だから何だよ。興味ないから」


元夫  「おい。今日も遅くなる。昨日出したシャツ、洗ってアイロンかけとけよ」


  三秒の間


真桜  「若く結婚できたというだけで舞い上がって、幸せだと思い込んで、誰の忠告も聞こうとしなかった。結局彼は不倫した相手と子供を作って、別れることになった。たった五年の結婚生活。最後の一年は不倫の証拠をつかむために奔走して、色々消耗した一年だった」


大樹  「でも、お金は沢山貰えたんだしさ、相手にも色々制裁できたんじゃないの? もうそんなに気に」


真桜  「お金貰ったからそれでいいなんて、そんなこと思えないわよ!!

     ……大樹君も知ってるだろうけど、私は子供が出来ない体で、元夫もそれを承知で結婚したはずだった。それなのに…ほかの女と子供を作って。……結婚生活も短くて子供のいない私には大した慰謝料取れないし、取ったところで相手はもう新しい家族を作ってて、大した制裁にもならなかった」


大樹  「……ごめん。俺、何もわかってないのに偉そうなこと言った」


真桜  「…浮気は治らないって分かってた…友達にもやめとけって言われてたのに…最初の頃にくれてたプレゼントだって、ただのご機嫌取りのためで、最後の方はもう妻としても見られてなかった……私、ただ幸せな結婚がしたかっただけなのに……」


大樹  「ねぇ、真桜ちゃん。俺と元旦那は似てるかな? 不安にさせたことがあるなら全部言って欲しい。真桜ちゃんが不安になるなら、俺は飲み会にもいかないし、携帯だって見せるし、なんだってする。それでも結婚に踏み込めないなら、明日市役所行くのはやめよう」


真桜  「大樹君……」


大樹  「でも俺は諦めない。真桜ちゃんと結婚して、家族になること。だからいくらだって待つよ。真桜ちゃんが心の底から俺と結婚したいと思えるまで」

   

   元夫の言葉が蘇る真桜。(回想のセリフにはエコーをかける)

元夫  「これ、今日の晩飯? ったく…毎日同じようなものばっかり作ってんじゃねぇよ」


    元夫の言葉を思い出し、傷つく真桜。


真桜  「ッ…………はっ!」


    しかし、大樹に言われた言葉を思い出し、はっとする。

    SE きらきらとした嬉しい回想の効果音。


大樹  「今日も凄くおいしいよ! 毎日作ってくれてありがと!」


    二秒の間


真桜  「なんだ……私、とっくに幸せじゃん…」


大樹  「真桜ちゃん…?」


真桜  「とっくに幸せだった。いい歳したおばさんなのに、物凄く甘酸っぱい恋しちゃってさ。幸せ過ぎて、幸せになりすぎて不安になっただけだった」


大樹  「そっか」


    大樹は安心したという風に呟いた。


真桜  「私は負け組なんかじゃなかった。浮気癖は治らないよ。きっと今に分かる」


大樹  「俺の知り合いも不倫して奥さん奪ったけど、結局自分も不倫されて逃げられたらしい。因果応報ってやつだね」


真桜  「奪った側が今度は奪われる側になっただけ。疑う側になっただけ。…それに比べて私は、今度は心から信頼できる旦那さんを見つけた。私の方が幸せになれた……絶対」


    真桜は誰と比べてかは言わなかったが、大樹は理解していた。


大樹  「俺……真桜ちゃんの、旦那さんなの?」


真桜  「奥さんにしてくれるんでしょ? 明日、朝一で出しに行こ」


大樹  「……!!……真桜ちゃん、ちょっと立って」


    SE がたッと椅子を引く音。

    SE スリッパで近づく音


真桜  「なになに?」


    SE 椅子を引いて立ち上がる音


大樹  「目をつむって、ここにいてね」


    SE ぱたぱたと足音が遠ざかっていく音

    SE 戻ってきて、床に膝をつく音


大樹  「目を開けていいよ」


    真桜が恐る恐る目を開くと、そこにはチューリップの花束を脇に

抱えて、なにやら小さな箱を持った大樹が膝まづいている姿があ

った。


真桜  「えっ、大樹君!?」


    大樹は小さな箱の蓋を真桜に向かって開けた。


大樹  「真桜ちゃん、俺と結婚してください」


真桜  「…いいのかな。こんなおばさんがダイヤなんて貰っても…え? 夢なの?」


大樹  「もー、夢じゃないよ。ほら、つけるから左手出して。あとさー、それ今日何回言った?」


真桜  「何が?」


大樹  「自分のこと、おばさんって。真桜ちゃんはおばさんじゃないよ。きれいで可愛い俺の奥さんなんだよ? 次からは一回言うごとに罰ゲームだから……はい、凄く似合ってるよ。明日は二人の結婚指輪も買いに行こうね。」


    真桜は左手の薬指につけられた指輪を幸せそうに見つめた。嬉しそうに細められた目には涙が光っている。


真桜  「綺麗……ありがとう凄く嬉しい。ごめんね、もう言わないから」


大樹  「……あと、これも。真桜ちゃんと撮った写真、これからどんどん壁に飾っていきたいんだ。このチューリップも、写真の近くにずっと飾っておきたかったから、造花なんだよね……せい、かの方が…よかった?」


真桜  「そんなことないよ、ずっと飾っておけるほうがいいじゃん。ありがとう。花瓶も良いの買おっか! …でも、どうしてチューリップなの?」


大樹  「バラはありきたりだし、桜は木だし、チューリップと真桜ちゃん、凄く似合うなって思ったんだ。あと、花言葉が気に入ったんだよね」


真桜  「花言葉? 大樹君、花言葉とか調べたの?」


大樹  「まぁね。ちょっと、笑わないでよ」


真桜  「ふふっ、ごめんごめん。花言葉調べてる大樹君が可愛すぎてつい。それで花言葉は?」


大樹  「八本のチューリップの花言葉は、『思いやりに感謝』」


真桜  「……思いやりに感謝か」


大樹  「俺はね、好きが愛しさに変わっても真桜ちゃんを好きな気持ちは消えないと思う。でも、思いやりが消えたら愛は消えてしまう。これから先、喧嘩したときでも思い出の写真や、チューリップが目に入ったら思いやりを忘れずにいられるんじゃないかなって」


真桜  「大樹君らしいね。よく目に付くところに写真もチューリップも飾ろうね。……それにしても、これいつから準備してたの?」


大樹  「だいぶ前から……」


真桜  「ずっと待っててくれたんだ」


大樹  「まぁ、結局強引にいっちゃったから、真桜ちゃんを悩ませることになっちゃったけどね。あーー、本当は旅行中に渡したくてトランクに隠してたんだけど、タイミング作れなくてさ…俺、何から何まで締まらなくてホントかっこ悪い…」


   落ち込む大樹を真桜は優しく抱きしめた。

   SE 抱きしめる音


大樹  「俺達、いい塩梅だよね。これからもうまくやっていこ?」


真桜  「うまくやっていく必要はないんじゃない? 沢山喧嘩もして、情けない姿も、恥ずかしい姿も、かっこ悪い姿も、全部さらけ出せるのが家族なんだから」


大樹  「いいね、家族って。…そっか、明日市役所に行ったら真桜ちゃんと家族になれるのか」


真桜  「そうだよ。後数十時間後で、私たちは家族」


大樹  「まだ全然実感わかないけど、なんだろ、すっごく胸が熱い。真桜ちゃんは? 凄く冷静だけど」


真桜  「手、あててみる?」


   真桜は大樹の手を取ると、自分の胸にあてた。

   SE 少し早めの心臓の音


大樹  「真桜ちゃんも凄くドキドキしてる…ほんとにさ、不思議だよね。どこの学校でも被らなかった俺たちが、突然ぱっと出会って、ぱっと結婚して、家族だよ。感動ものだよね」


真桜  「……ねぇ、写真撮ろ? 明日はバタバタするだろうし、このまま指輪とチューリップも一緒に映したいから」


大樹  「そうだね! …じゃぁ、撮るよ」


   大樹はカメラを自撮りモードに変え、写真を撮った。

   SE シャッター音

   とれた写真を見る二人。


大樹  「おっ、いい写真。…真桜ちゃんってさ、パステル画みたいだよね」


真桜  「どういうこと?」


大樹  「淡くて儚いのに、決して薄れることがない美しさを持ってるから」


真桜  「もう……この写真を真ん中にして、他の写真も飾っていこ?」


大樹  「いいね。ここの壁がどんどん思い出で埋まっていくのが楽しみだなぁ」


真桜  「写真が増えたら、周りの他の写真は季節や色で統一して、コロコロ変えていくのも面白そう」


大樹  「いいね。色々遊べそう。…結婚って、ゴールじゃないっていう意味がやっと分かった気がするよ」


真桜  「ゴールじゃなくて、幸せを 追い続けるためのスタートなんだよ。きっとね」


  写真を見ながらふふっと笑った真桜の横顔を見つめる大樹。


大樹N  「ねぇ、真桜ちゃん、パステル色の写真たちがいつかセピア色になった時、俺と一緒に歳をとるのも悪くなかったって思えたらさ、それは正しく……愛だよね」






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桜にチューリップの花束を 中嶋怜未 @remi03_12

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