第76話 上手に剥けました

 リンの鉄球を止める? ちょっと信じられない。あの強い人型ですら、弾くことはしても止めることなどしなかった。

「……うそ?」

「まじっす!ほんとっす!うそじゃないっす!しんじるっす!!」

 周りのオウルベアが跡形無く霧散したところで現着。通常のものの半分程の大きさ、赤黒いオウルベアは拳を握って仁王立ちしていた。

 なんか、わかる。こいつ、つよい。

「たつなと、みちるよんで」

「りょ、了解っす!」

「こない、とおもうけど、じえいたいにも」

 呼吸を整える。全身に気を配り集中する。右足を踏み込み距離を縮めて奴の右くるぶしを狙う。これに反応してくることは想定の範囲、小さく足踏みするように右足あげてこちらを踏みつけようとする。それを手前で止まってジャンプして回避、同時に踏みつけで硬直した膝を蹴り抜く。

 硬い。だが、膝は砕けた。バランスを崩した赤い奴は歪に長い腕で体を支える。落ちて来た顔に向けて渾身の右で止めを刺す。


 砕けた頭が辺りを紅く染める。しかし、気持ちの悪いことにプレッシャーというのだろうか、気配が消えない。重い。

 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ダメねー! 竹馬に乗ってるみたいだわー☆」


 奴だ。


 バキバキと音を立てて赤黒いオウルベアの背中が割れ、蝶が羽化するように姿を現す。神々しいと言っても良いだろう、まるで夜明けの如く、太陽が姿を現すが如く。


「お久しぶりね、愛しい愛しい柿屋敷君♡」

「ふたりに、さるいし、でたってつたえて」


 返事がない。後ろを見たいが目をそらしてはいけない。体が、本能が全力で警鐘を鳴らす。息をゆっくり吸い、心臓を落ち着ける。場慣れって奴だろうか? 最近線が見える。こう動いたら死ぬってやつ。


「やっぱりあなた達優秀よ! 他の子達ならこの辺更地になるまで来てくれないもの! うふふ! 自衛隊なんか燃料ケチって来てくれないものね、あはは!」

「なんで、こんなこと」

「うふふー♡ それは後で説明してあげるわー! 無線、通じないでしょ? ふふふ、あはは! 御結ちゃんは見逃してあげるわー! たつなちゃんやみchiるちゃん呼んできteいいわよー♡」

「りん!!」

「は、ひ!」

「よんできて!」

「りょ、了解っす!」

 虚ろな笑顔の去石が巨大な翼を広げる。

「アハハぁあ! ちょっと時間が無いからぁあA? NaんでもいいからーさっさとかかってきTくれる?」


 まったく迷惑な話だ。最悪の出会いから最悪の別れへ。だが、こいつのおかげで得たものもある。感謝の気持ちとして丁寧に、確実に送ってやらねばならない。


「かく……!」

 掛かって来いっていってたのに突進してきた、早い。すれ違いざまに軸を外すように体をそらして顎へ拳を当てる。細い首ならあっという間に折れるだろうに去石は意に介さず、その場で宙返りして蹴りを打ってきた。

 紙一重で避けて反撃を考えた。が、予感。大きく飛ぶように跳ねて避ける。先程までいたアスファルトの地面が礫に変わっていた。

「はんそく!」

「あらあー? Taいした成長だわぁ! Suっかり先輩っぽKなっちゃっTeぇえ♡ うふぅ」

 だいぶバグってきている。羽ばたきもせず宙に浮き始めた。空を飛ばれると手が出しにくい。あとさっきオウルベアから出てきたせいか全裸。隠せ。

「しっ!」

 拾ったアスファルトの残骸で投石する。予想はしてたが羽で砕かれる。筋肉天使の腕くらい硬いみたいだ。

 はー、うんざり。

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