第75話 遭遇

 復活。

 衝撃的な内容だったがリンとたつなのおかげでやる気出てきた。去石を何とかできれば紫波の事件みたいなことは無くなるってことだろうから。それにしてもスパイというか元凶というかが上司だったってどうかしてる。身辺調査どうなってんの?

「大丈夫っすか?」

「だいじょうぶ」


 心配された。とにかくできることをするってのは変わらない。今日も今日とて幽鬼退治。依然として人手は足りないが、危険性の少ない第一世代の魔法薬で増員を試みるらしい。適性者の発見は遅々として進まないらしいから、あまり期待はできなさそうだ。だが、人が幽鬼になるよりも億倍ましだ。


「それじゃ行くっすかー」

「おー」

 みちるとたつなが雫石に向かったので今日はリンに抱えられて矢巾町西徳田へ向かう。北上川が近く、堤防が整備される前は家々に舟が常備されていたそうだ。今となっては舟を持っている家は見かけない。そんな暴れ川ではナマズやらウグイなんかがよくとれるそうだ。うなぎや山女魚も時折釣れるとか。たつなに爆破してもらえばたくさん獲れるんじゃなかろうか?


 それにしても前回の新型幽鬼、というかこれまで盛岡事務所の面々が当たってきた出撃のほとんどに去石が関わっていたらしい。状況不一致や敵勢力の情報下方修正、自衛隊との連携妨害など様々な嫌がらせでこちらを困らせてきた。まぁ、“実験のための出撃”ということだろう。


「なんか、かなり落ち着いたっすね。どんな心境の変化っすか?」

「できることしか、できない」

 去石を一刻も早くなんとかしなければならないとは思う。だが、居場所もわからない今の状況では先制などできないし、今向かっている通り普通の幽鬼がいなくなるわけでもない。捜索チームが発見してくれることを願うしかない。


「そうっすねー、とりあえず早く作戦終わらせて夕飯のおかず取りに行くっすよ」

「……さんせい」

 夕飯は山菜の予定。この前みちるが貰ってきたヤツがうまかったからみんなで採ってみようと言うことになっている。トゲのある木の芽、トゲのある木の芽だ。


「うわぁ、多分あれっすねー…… とりあえず手前で降りるっすよ」

「……おー」

 今回の目標はオウルベアタイプ数体。去石がいなくなったのなら間違いは無いだろう。間違いは無いだろうがリンの反応がすごく嫌な感じだ。オウルベア数体ならリンがこんな反応をするわけがない。

 風切り音が弱くなったことを確かめてシュラフから顔を出す。すると色違いのオウルベアーみたいなものが混じっている。一回り以上小さいが、そいつを守る様に通常タイプが陣形を作っている。

 とにかく奴らの進行方向には住宅地があるからさっさと排除したい。あと東北の物流の主役、国道4号線があるからどっちも守らねばならない。


「いやがらせ?」

「まぁ、ウソではないっすよ。オウルベアいっぱいいるし」

「はー…… おもてをあげろ」

 ぼやいても仕方ないのでシュラフから這いずり出して落下する間に魔法を使う。やっておかないと愛するシュラフまでフリフリの服に変貌してしまう。

 華麗に着地を決めて落ちて来たシュラフをキャッチ。片付けながら移動を開始する。帰りもお世話になるから置いて行くわけにはいかない。

 

 先制攻撃はリン。3つに増え、重量も増した鉄球で容赦なくオウルベアを仕留めていく。というかこっちがつく前に終わりそう。それはそれで

「エステル!赤い奴やばい!」

 ”っす”が抜ける程やばいらしい。

「なにが?」

「鉄球一号二号が止められたっす!」

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