第5話 馬鹿な…
「あ、起きた?」
また知らない天井。隣にいるのは国引で間違いないだろう。まだ少し体は痛いが随分ましになってきた。
部屋には窓も時計も無く、検査からどれだけの時間が立ったかわからない。国引という奴は優しそうだから体調不良だと言い訳すれば帰してくれるかもしれない。
「たいち?あー……あーあれ?」
「話せるようになったみたいねそれじゃあ改めて、ようこそ日本防衛機関へ!」
精一杯明るい顔で手を差し伸べてきた国引を無視して違和感をおさらいする。声がおかしい。少し、というか相当音程が高い。音楽の授業で唯一褒められたテノールの声が跡形もない。
「む、無視しないで!」
申し訳ないとは思いつつ慌てて起き上がり辺りを見渡す。焦っているのが伝わったのか国引はおろおろと手を差し伸べてくる。
「あのね、えーっと…… ま、魔法少女部隊にようこそ!」
「ばkごほっけほ」
「ちょ!まだおっきい声出すと辛いと思うから!言いたいことはわかるんだけど少し落ち着いて、ね?」
国引はせき込む俺の背中を優しくさすりながらベッドの横に座る。声以外の違和感。それはこのサイズ感だ。俺の身長は180cmあったはずだ。それがこの子と同じ、いやこの子よりも視点が低い。
「大丈夫、あいつ以外は優しいから安心してね」
国引の優しさが逆に不安を煽る。去石という奴にはムチで打たれて一緒に居た女には問答無用で投げられた。期待はできないが国引がまとも枠であることに期待する。
「いえにかえりたい」
慣れない自分の声に戸惑いながら単刀直入に用件を伝える。この訳の分からない状況にあって合理性を欠く要求であることは理解している。だが、言わずにはいられなかった。
俺は自分の理解を越えたことがあるとふて寝して頭をリセットする癖がある。こんなトラブル続きの日はさっさと風呂に入って寝るに限る。しかし彼女からの反応が無く、怒ったのかと国引の方を見ると哀れみの表情でこちらを見つめている。ぎょっとして固まると勢いよく抱きしめられた。
「ごめん、もう帰す訳にはいかないの あなたはもう魔法少女だから!」
なんとか忘れようと思っていた単語がまた飛び出した。
「まほうしょうじょ?」
「そう魔法少女、わかる?」
「まほうをつかって、わるいあいてを、やっつける?」
「そう!えらいね!」
優しく頭を撫でられ不思議と耳から記憶が抜けて落ちそうだ。今俺は人生で一番理解できない状況にいる。幽鬼の出現も理解できないがこの女の話すことすべてが理解できない。
「かえる!」
「ダメなんだってば!いい子にして、ね?」
解せぬ。
会話が完全に子供とお守りのお姉さんだ。自分が過去一番の混乱状態であることはわかってるつもりだ。国引の言葉が理解をことごとく飛び越えるのもきっとそのせいだ。その混乱状態のためか腕の中が恐ろしく居心地が良くて抵抗する気力がごっそり奪われていく。
「なんでかえれない?」
「うん、あのマッド…去石おばちゃんのせいだからね。たくさんお話して疲れたでしょ? もう少し眠ってていいからね」
国引の腕が俺を優しくベッドに横たえる。納得できないが会話しただけで恐ろしく疲れている。相手が国引だからなのか縮んだ体のせいなのかまったく判断に困る。
「いっしょにいてくれる?」
「お手てつないでいようね」
混乱と不安のせいか自分でも何を言っているかわからなくなってきた。国引の手を握った瞬間目を開けていられないほどの眠気が襲ってくる。それに加えて優しく背中をぽんぽんされて、もはや抵抗できなかった。
「なつなが返って来たみたい…」
国引が何か言っていたが最早頭で理解できず、俺の意識は暗闇に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます