第41話 アダリナの想い
そして数十分後……アダリナはやはり何も出来ず、もうボロボロだった。
「はぁ、はぁ……」
身体中が血に染まり、今にも倒れてしまいそうなほど消耗している。
むしろなんで倒れていないかわからないくらいだ。
「ねぇ、もう諦めようよぉ。そんなに頑張ってもどうせ死ぬんだよぉ? それならもう疲れてるだろうし諦めて、永遠の眠りについた方が楽だよぉ?」
「そうだな。そちらの方が俺達も楽で、そちらも楽になれる。誰でもわかる簡単なことだ」
天使の男達は上空でボロボロのアダリナに向かってそんなことを言う。
だが……アダリナは、諦めない。
「ふふっ……十二使徒の天使が二人も揃って、毒でやられてるうちを殺せないんだね。天使族も弱くなったものだね」
「……はっ?」
少年の風貌をした天使が、アダリナの言葉に眉を顰める。
「今にも死にそうなのに、何言ってるの? 馬鹿なのかなぁ?」
「馬鹿なのはそっちじゃない? 弱い魔法ばっか撃って、こんなんじゃうちは倒せないよ」
「……なら今すぐにでも殺してやろうか」
そう言って天使は今まで以上に魔力を溜めて、魔法を放とうとするが……。
「コット、待て」
「っ、グエル、なんで?」
「見え透いた挑発だ、乗るな。おそらくあいつはすでに、毒は抜けている」
「えっ?」
「あれだけ血を流しているんだ、抜けていてもおかしくないだろう。だがここまで飛んでこないということは、もうその力があまり残っていないということ。だから挑発して俺達を地面に降ろそうとしている、それから派手な魔法放たせて、その影に隠れて接近しようと考えているようだ」
「っ……そうなんだぁ。ありがとうグエル、冷静になったよ」
グエルという天使の霊気解放、その能力は相手の考えを見抜けるという能力だった。
だから今、霊気解放をしてアダリナの考えを見抜いたのだ。
「このまま上から魔法を放っていれば、いずれ死ぬ。油断せずにやるぞ、相手は魔王軍の四天王だ」
「りょうかーい。ということで、残念だったねぇ、アダリナさん。仕方ないから、あと何時間でも君が死ぬまで付き合ってあげるよ」
そう言って天使の二人は、また魔法を放ち始めた。
(あーあ……もうダメかも……)
アダリナは心の中でそう思ってしまった。
自分の拙い作戦も見破られ、打つ手がない。
毒が抜けてきたといっても、それ以上にダメージを受けてしまっていた。
だから一発逆転をかけるしかないと思ったが、それもどうやら無理そうだ。
相手の魔法を躱しながらも、アダリナはほぼ諦めかけていた。
(うちにしては頑張った方だけどなぁ……いっぱい耐えて、いっぱい考えて攻撃しようとしたのに……)
そんなことを考えながら攻撃を避け続けるが、足がもつれて倒れてしまう。
そこに何発もの魔法が飛んできて、それをただ自分の肉体の頑丈さで耐えるが……それももう、限界を迎えそうだ。
(やっぱりシモンちゃんみたいになるのは、無理だったなぁ……)
自分の部下に裏切られて、一人で天使に嬲り殺しにされる。
今からアダリナが迎えるのは、そんな最期。
(嫌だなぁ……まだ、生きたいなぁ……恋もしたことないのに、キスもしたことないのに……)
もうアダリナは、地面に倒れて動けなくなってしまった。
「んんぅ? 死んだかなぁ?」
「いや、まだ虫の息だが生きているようだ。最後のトドメを刺そうか」
「あはっ、なら僕がやっていいよね? もう虫の息だったら、僕の手で殺してもいいよね?」
「……まあ大丈夫だろう」
少年の風貌をした天使、コットが地上に降りてきて、倒れているアダリナの側に立つ。
もうアダリナは動けないので、反撃のしようがない。
「なかなか僕達は楽しめたよ。ちょっとイラっとしたけどね……だから、最期は僕が手を下してあげるから」
そしてコットは、右腕に魔力を込めて……アダリナに振り下ろす。
もう動けないアダリナは……涙を流しながら、最後に思う。
四天王としてはあるまじきことを、だけど人として、女の子として思うことは――。
(誰か……たす、けて……)
コットの拳がアダリナに当たる寸前――何か、違う音がした。
「えっ……」
それは拳が肉体にめり込む音ではなく、ザザッという地面からした音、誰かがその場にきて止まった音。
そして天使の男のすぐ近くに、誰かが立っていた。
コットはアダリナに向かって振り下ろしたはずの拳に、感触がないことに気づく。
さらに……右腕の感覚が、ないことも。
「ぐっ、ああぁぁぁぁ!?」
一瞬遅れて、自分の右腕がないことに気づいたコット。
コットは後ろに下がり、右腕を斬られた痛みに悶え苦しむ。
(ああ……ダメだよぉ……)
アダリナはコットの腕を斬った人物を見て、そう思った。
(あなたが来ちゃったら……絶対に、ダメだよぉ……)
その人を見た時に、安心した。
もう、助かったのだと。
だけどこの人には、あまり来てほしくなかった。
なぜなら……。
(うち……絶対に惚れちゃう自信あるからさぁ……)
ボロボロの身体で顔を上げて、その男性の名を呼ぶ。
「シモン、ちゃん……」
「遅れてすまない、アダリナ」
シモンは軽く笑みを見せながら、倒れているアダリナに近寄りしゃがむ。
そして回復魔法をかけて、身体の痛みを少しでも和らげる。
「頑張ったな、アダリナ。あとは俺に任せろ」
「シモンちゃん……うん、お願い……」
アダリナがそう言うと、シモンは柔らかい笑みを見せてから、敵の方向を向いた。
初めて見る、シモンの怒っている顔。
もちろん怖いわけがない……自分のために、あれほど怒ってくれているのだから。
(あーあ……うち、ライバルが多すぎる人を好きになるのは、やめたかったんだけどなぁ……)
そんなことを思いながら、シモンの怒った横顔を見つめるアダリナだった。
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