第40話 アダリナ対天使



 いつも通りの一日だったはず。


 少し違うのは、シモンとのダンジョン探索の時から続けている仕事を、今日もしっかりやっていたことだ。

 書類仕事などで疲れたから、早めに夕食を取ってお風呂に入って寝ようとした時……そいつらは来た。


 アダリナがベッドに入って数分後、部屋が爆発した。

 内側からではなく、外側からの攻撃によって。


 屋敷近くの上空に、二人の天使がいた。


「今ので死んだかなぁ?」

「さあな、死んでたら楽でいい。すぐに帰れるからな」


 どちらも男の天使で、翼を使って飛んでいる。

 一人は少し子供っぽい風貌をした男で、もう一人は堕落的な風貌をしていた。


 屋敷の外側から攻撃をしたのは、この二人のようだ。


「いったぁ……!」


 アダリナは生きていた。

 だがいきなりの攻撃に無傷とはいかず、相当なダメージを負ってしまった。


 身体の至る所から血が流れ、頭からも血が垂れて顔を汚している。

 だがそのくらいの怪我だったら、アダリナにとっては問題ない。


「人が気持ちよく寝ようとした時に……何をするのかなぁ」


 崩れ落ちた部屋の瓦礫の中から起き上がり、アダリナは宙にいる天使を睨む。


「天使の奴ら……覚悟しなさいよ!」

「あらら……普通に生きてるし、怒ってるじゃん」

「めんどいことだ。どうせ死ぬというのに、今死ねばよかったものを」


 アダリナも天魔族で翼が生えているので、飛ぶことが出来る。

 なので翼を使い、飛ぼう……としたところで、異変に気づいた。


「あれ……動かない?」


 自分の翼を見て、どうにか動かそうとしても動かせなかった。

 なぜなのか、そう考えようとした時、また天使が上から魔法攻撃を放ってきた。


「むぅ!」


 それを拳で弾き飛ばそうとしたが、身体がまた上手く動かずにほぼ直撃してしまった。


「いっ……! なんで……!?」


 自分の思った通りの動きが出来ない。

 先程の奇襲の時も、思ったらおかしかった。


 当たる直前に魔力の膨らみがあったので、寝ぼけながらも咄嗟に飛び起きて避けようとした。


 いつもの動きが出来ていたら、ここまで奇襲を直撃することはなかっただろう。

 だからその時から、身体に異変が起きているということだ。


「今頃気づいたのかなぁ、あの四天王は」

「自分の食べた料理に、毒が入っていたことをな」

「っ、毒……? あんた達が入れたの?」


 アダリナの屋敷で働いている料理人達が毒を入れるはずがない。

 だからこれはおそらく、自分に対しての計画的な襲撃ということだ。


 天使が四天王である自分を殺しにきた。


「いや、僕たちじゃないけどね」

「じゃあ誰が……」

「俺ですよ、アダリナ様」


 空中にいる天使と話して上を向いていたが、アダリナの横からそんな声が聞こえてきた。

 そちらを向くと、アダリナの屋敷の門番をしている天魔族の男だった。


 アダリナは知らないが、シモンとダンジョンに行った時についてきた男で、


「っ、あんた……裏切ったってこと?」

「まあそうですね。だけど魔王軍を裏切ったわけじゃないですよ。ただアダリナ様、あんたを殺したかったというだけです」

「どういうこと……?」

「四天王であるあんたが邪魔だったんすよ。だからあんたを殺すためだけに、天使族と手を組んだっていうことっす」

「馬鹿だね……四天王になるために天使の力を借りる? そんなんじゃ、絶対に四天王になれない」

「あんたを殺せばなれるでしょ、なあアダリナ様」

「その前に、うちがあんたを殺すけどね!」


 たとえ自分の部下で門番を任せていたとしても、相手はすでに自分を殺そうとしてきた。


 しかもあの天使族と手を組んで、生かしておく理由はない。

 アダリナは近くにいるその男に攻撃をしようとしたが、また宙にいる天使から魔法攻撃がきて、それを避けるためにその男と一旦離れる。


「くっ……」

「あんたはもう終わりだよ、アダリナ様。知ってるか、天使の中でも強い人達を十二使徒と言うらしいが、あの天使の人達はその十二使徒の内の二人らしいぞ」


 そう言いながら天魔族の男は、自分の翼で飛んでその天使達に近づいた。


「お二人さん、ちゃんとあの四天王の女に、毒を仕込みましたよ。普通の人間なら数分で死に至るような毒なんですけど、あの女は今になってようやく気づくという馬鹿げた身体を持っているようです」

「へー、そうなんだ。いいことを聞いたよ、ありがとう」

「ああ、そうだな。俺達も簡単に四天王を倒せて助かる」

「いえいえ、俺もあいつが死ねば四天王になれるので、お互い利益があってのことですからね」


 天魔族の男はニヤついた顔をしながら、地上で悔しそうに睨んでいるアダリナを見下ろす。


「ふふっ、そうだねぇ……いいことを伝えておくよ、天魔族の君に」

「はい、なんです?」

「君は四天王にはなれないよ」

「はっ?」

「ここで死ぬからな」


 瞬間――堕落的な格好をした天使の男が、天魔族の男の首に手刀をめり込ませ、貫通した。


「ガハッ……な、なに、を……!」

「別に僕達は君に協力したわけじゃないよ。逆に僕達が、君を利用しただけだからねぇ」

「敵で利用価値があった奴を殺さない理由はあるが、利用価値がなくなった敵を殺さない理由は、もうないだろう」


 天使の男が貫通した手を地面に振るうと、天魔族の男は落下していく。

 地面に落ちてからしばらくは生きていたようだが……しばらくして、動かなくなった。


「待たせたね、四天王のアダリナさん。君を裏切った部下を殺しておいたよ。だから君も安心して、死んでいいんだよぉ」

「ああ、さっさと死ね」


 そしてまた天使の二人は、宙に浮いたまま魔法を何発も何発もアダリナに向けて放っていく。

 アダリナは自分も魔法を放って対抗するが、毒が効いてきたのでなかなか上手く魔法を放てない。


 いつもの威力が出ないので威力負けしてしまうので、相手の方が二人なので当然魔法の数が多い。


「くっ……!」


 なんとか魔法を放ちながら防ぎ避けているのだが、何発も避けられずに当たってしまう。

 一発で普通の人だったら死ぬ程度の威力、さすがのアダリナも何発も食らえばダメージは重なり、致命傷になりうる。


(やばい、どうしよう……打つ手が、ない……!)


 アダリナの本来の戦い方は、近接戦闘だ。

 だから飛んで戦えたらいいのだが、毒のせいで翼は動かず身体も動きが鈍くなっている。


 魔法ですらいつも通りに出せない。


 今はなんとか死なないように凌いでいるが……殺されるのは、時間の問題だ。


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