第39話 リディの想い



 ようやく静かな玉座の間を取り戻し、リューディアは天窓を作って空を見上げる。


 もう外は暗くなっており、三日月が見える。

 まだリューディアが小さい頃に、父親のガルディオスに「なぜ月は真ん丸になったり、欠けていったりするのか」と聞いたことがある。


 その時にガルディオスが言ったことが、


『俺が壊したり直したりしてるからだぞ』


 という大嘘だった。

 子供の時のリューディアはそれを本気で信じてしまったこともあった。


「ふっ……」


 昔のことを思い出して、一人で笑ってしまう。

 あの時はとても楽しかった。


 だがもう時は戻らない。


(我は誓ったのだ……母上に、父上の仇を討つと)


 ガルディオスが死んでから一週間後、母親のリリーに会った時に。

 自分が魔王になり、天使族と滅亡させると。


 そしてこれはリューディアが勝手に決めたことだが、天使族を滅亡させるまでリリーに会いに行かない。


 それくらいしないと、魔王というものは背負えないと思ったから。


(そういえば……最後に会った時に、母上が言っていたな)


 ベッドで上体を起こして、いつもの優しい笑みを浮かべて、


『辛くなったら誰かに頼りなさい。私もあの人も、助けられて生きてきたんだから』


 そんなことを言っていた。

 それを聞いた当初は、魔王ガルディオスと四天王リリーが他の誰かに助けられながら生きてきた、というのは嘘だと少し思っていた。


 おそらく自分のことを心配して、他の人に頼りなさいと言ってくれたのだろう、と。


 感謝しながらも、自分は絶対に大丈夫だ、父上や母上のように誰にも頼らずとも、魔王として頑張っていける。


 そう思っていたが……最近になって、母上が言っていたことは正しかったのだと知った。


 特に助けられた存在は、やはりシモンだ。

 物心がついた時から側にいた人、それがシモン。


 とても優しくて面倒見がよくて、カッコいい。


 リューディアの初恋は、もちろんシモンだった。


 小さい頃、「将来はシモンのお嫁さんになる!」と父親のガルディオスに言ったら、本気でガルディオスがシモンに喧嘩を仕掛けていったのを覚えている。


 そして今も……その初恋は、続いていた。


 魔王になってからも何度も何度も助けられた。

 やはり自分の初恋は、間違っていなかったのだ。


(ま、まあもちろん……こんなこと、母上にも話したことはないが)


 だがそれでも、ようやく母上が言っていたことがわかった。


 魔王になってもシモンだけじゃなく、他の四天王や部下に助けられてばっかりだ。


 最初はそれが悔しかったが、今はそれでいいのだと思っている。

 もちろん助けられるのが当然だとは思わず、とても感謝している。


 リューディアがそれに対して返せることは……魔族全体の繁栄、そして平和だ。

 だから絶対に、リューディアは自分の代で天使族を滅亡させると、改めて強く思っていた。


「さて、もうディーサの方も終わっているだろうな」


 リューディアはディーサの方を確認しようと思い立ち上がったが、その前に魔王城の中の様子を見ていなかった。


 あの天使族の奴らは魔王城の正面から入ってきたようなので、どれだけ兵士やメイドの者達に被害が出ているのか。


 幸い、知らせでは死人はいないと聞いているが。

 そう思い玉座の間を出て、魔王城の中を見ていく。


 救護室へ行くと、城にいた兵士やメイド達が傷を癒しているところだったが、やはり幸いにも死人はいないようだった。


「ま、魔王様! この度は、お手を煩わせてしまい、申し訳ありません!」


 兵士の一人が傷を負い痛みに堪えながらも、立ち上がり頭を下げた。


「よい。お前達が無事なら何よりだ。侵入してきた者達は我が始末した。今は休め」

「ありがとうございます……」


 そして魔王城の被害を確認し、ディーサのところまで確認しようと魔王城を出ようとしたところ……。


「ま、魔王様ぁ!」

「……またお前か」


 シモンとディーサと戦っている最中、天使族の自体を知らせにきたメイドが外から飛んできた。

 それにまた慌てた様子で、厄介ごとを持ってきている感じだ。


「何かあったのか」

「は、はい! その、シモン様の秘書さんからのお知らせなのですが――」



「――四天王アダリナ様の屋敷も、天使族が襲撃されたようです!」


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