第36話 魔王からは…
「さて……クズ一族よ。我の城に来たからには、死を覚悟しているということだな?」
その一言に、天使達はゾッとする。
魔王の城に侵入した五人の天使は、実力を見たらすぐに逃げようとしていた。
しかしその逃げるために準備していた上空で待機していた天使が、すでに殺されている。
だからもう安全に逃げ切る手段は失われている。
本当ならどれだけ魔王が強くても、誰も死なずに逃げるはずだった。
だがもうすでに、上空に待機していた天使を含めて、六人中三人も死んでいる。
死なんて全く覚悟していなかった、まだ生き残っている天使達は、ようやく自分達が死に直面していることを悟った。
(逃げないと……!)
そう思うのは必然的だった。
もうすでに魔王の実力は見た。
天使が二人、何も出来ずに殺されるほどの実力。
しかも四天王が一人、ディーサの実力も見たのだ。
天使達の当初の目的はすでに達成している。
だからあとは逃げ帰り、この情報を十二使徒に知らせるだけ。
どうやって逃げるかを考える。
まずすぐに思いついたのは、天窓だ。
上空で待機していた天使が落ちてきて、魔王と四天王が入ってきた天窓。
天使は翼があるので簡単に飛べる、そこから逃げればいい。
そう思って天窓の方をチラッと見たのだが……。
「えっ、な、なんで!?」
思わず声が出てしまった天使の一人。
天窓があった場所を見たはずなのに、そこには何もなかった。
ただの豪華な天井が広がっている。
どこを見渡しても、天窓など見当たらない。
「ま、窓が、なくなってる……?」
他の天使も気づき、辺りを見渡すと……天窓だけじゃなく、窓すらなくなっている。
「ふっ、何を探しているんだ、貴様らは?」
無様に逃げ道を探している天使達を見て、魔王が嘲笑する。
「外の景色を見たいようだが、残念だな。我が窓を消してしまった」
「ま、窓を、消すって……」
「ここは我の城だぞ? 全てが我の掌の上、お前達は魔王の城に入るという意味を、全く理解していないようだ」
魔王がパチンと指を鳴らす。
するとさっきまであった扉もなくなり、玉座の間から出口が消えてしまった。
「なっ……!?」
「知らなかったのか、貴様ら――魔王からは、逃れられないことを」
それと共に、魔王は逃げない。
前魔王のガルディオスも、天使の中でも強い十二使徒を数人相手しても、逃げなかった。
魔王と対峙したら……生きるか死ぬか、どちらかだ。
「さて、まだ自己紹介がまだだったが……これから死ぬ相手に名前を教えたところで、意味はないな」
「くっ……舐めるなぁ!」
壁を殴っていたガタイのいい天使の男が、そう言って玉座に座る魔王に攻撃を仕掛けようとした。
大きく拳を振りかぶり、座っている魔王の顔面に叩き込もうとする。
しかし……。
「ぐっ……!」
「貴様のような下賎な男が、リューディア様に触るな」
側に立っていたディーサが間に立ち、片手で拳を受け止めていた。
体格差は二倍近くある、その分絶対に天使の男の方が筋肉量は上なはず。
(う、動かねえ……!)
力自慢の男が踏ん張って拳を押し込んでいるのに、何も感じていないかのように片手で押さえ込んでいるディーサ。
「リューディア様、相手するのは私が一人でしょうか?」
「ふむ、ここに来る前にそういう約束だっただろう。我の方が多く倒すと」
「それは相手が五人だと思っていたからでは? 奇数ではなく偶数なら、二人で半々でよろしいのでは?」
「ダメだ。ディーサ、お前はもうすでに一人倒している。あとはそいつだけ相手しておけ」
「……かしこまりました」
納得いかなそうな顔をしているディーサだが、文句は言わなかった。
男の拳を片手で掴み、振り回して男を壁の方へ吹き飛ばす。
「うおっ……!?」
先程のやられた奴らよりも遅い速度で吹き飛ばされたので壁に激突しても大丈夫あまりだと思っていた男だが、いきなり壁がなくなってそのまま外へ飛んでいってしまった。
「ディーサ、お前はあいつだ。逃すなよ」
「かしこまりました」
ディーサが返事をした瞬間、残っている天使二人が目にも留まらぬ速さで跳躍して外に出ていった。
他の天使二人も外に出ようと一瞬だけ考えたのだが……魔王を前に下手な動きをしたら死ぬと予感して、動こうにも動けなかった。
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