第32話 連戦?



 はぁー、負けた負けた。

 やっぱりディーサは強いなぁ。


 身体能力が高いし、技も前よりも研ぎ澄まされてる。


 ちょっと俺も修行をして強くなったが、まだ全然届かねえな。


 あとはやっぱり、体力が……これも歳かな。

 前ならもうちょっと粘れた気がする。


 ディーサの新しい戦闘方法、右手に剣を持ち左手に爪を尖らせる。


 あれはめちゃくちゃ脅威だ。

 ディーサは剣の才能も素晴らしいが、やはりその身体能力が化け物じみてる。


 四天王の中で一番速度があるので、剣と爪を本気で振られちゃどうしようもない。


 俺も防ぐので精一杯だった。


 四天王の中で一番力があるのが、アダリナ。

 四天王の中で一番速度があるのが、ディーサ。

 四天王の中で一番可愛い……間違えた。一番強いのは、イネス。


 俺は……い、一番、古い? 弱い?


 いや、やめよう、言ってて悲しくなる。


「お前達、ご苦労だった」


 そんなことを考えていると、上からリディの言葉が聞こえてきた。

 戦いが終わった後、俺とディーサ、それに互いの部隊が全員集まっていた。


 怪我をしている者や気絶している者は、適当に転がっているけど。

 全員が膝をついて、魔王のリディに敬意を示す。


「シモン、ディーサ、直れ」


 俺とディーサだけがそう言われて、立ち上がる。


「なかなか面白かったぞ。やはり四天王同士の戦いは、我から見ても刺激的だ」

「楽しんでいただけたのなら幸いです、リューディア様」

「ふむ、ディーサ、お前の戦い方はなかなか面白い。あれは我でも傷を負いかねないな」

「お戯れを。私がリューディア様に傷を与える時には、私はおそらく致命傷を受けて死にかけていることでしょう」

「ふふっ、それはどうかな……試してみるか?」


 瞬間、リディの魔力が膨れ上がった。

 その威圧感で、ひざまずいている兵士達の何人かが気絶してしまった。


 戦いで消耗している身体に、リディの魔力を受けるのは厳しいだろう。


「リディ、魔力を抑えろ。兵士が気絶したから」

「むっ、それはすまんな」


 すぐにリディが魔力を収めると、なんとか耐えていた兵士達が息を荒げていた。


「お前達の戦いを見せられて、少々我も興奮してしまった」

「俺は情けないところを見せたがな」

「そうは思わんぞ。先程の戦い、昔のお前を思い出したぞ、シモン」

「そうか? まだまだ全然だ」


 あれくらいでへばってちゃ、全然四天王の器じゃない。

 もっと、もっと強くならないと……。


「ふっ……ああ、そうだな、まだまだ全然足らんな」


 リディが俺のことを穏やかに見つめながら、そう言ってきた。


「魔王のリディに言われると、本当に頑張らないと思うな」

「むっ、そうか? ならシモンよ、いつかまた……我を超えてくれよ」

「っ……ああ、まあ、出来たらな」


 魔王のリディを超えるほど強くなるなんて、これほど弱くなった俺に出来るのだろうか。

 いや……弱気なことは言ってられないな。


 リディを守るためには、頑張るしかないんだ。


「さて、これで四天王同士の戦いは終わったが……そろそろ、次の段階に移っていいと思わないか?」

「ん? なんだリディ、次の段階って」

「もちろん、我も混ぜてもらうということだ」

「……はっ?」


 リディの一言に、俺は疑問の声を漏らした。


「先程も言っただろう。お前らの戦いを見ていたら、我も闘争心が湧き上がってしまってな」

「いやいや。何言ってんだよ、無理に決まってるだろ」

「ほう、なぜだ?」

「なぜって、もう俺の部隊もディーサの部隊も、疲れ切ってるんだから」


 俺がそう言うと、部隊の奴らが青ざめた表情で強く何度も頷いているのが見えた。

 さすがに今の戦いの後で、魔王と戦うなんて不可能だろう。


「ああ、そうか。では部隊は抜きでやろうか。ディーサ、やれるか?」

「お望みとあれば」


 リディの問いかけに、ディーサが会釈をしてそう答えた。


 マジか……本当にやるのか?

 ディーサも俺と戦ってすぐだろ。


 すげえ体力してるな……さすが、若いってのはいいな。


「それなら俺は後ろで下がって見てるな」

「むっ? 何を言っているシモン、お前も参加するのだ」

「……はっ? だってリディとディーサの一対一じゃ……」

「そんなこと一言も言ってないだろ。我とお前ら二人、つまり一対二の戦いだ」

「はぁ!? 俺もやるの!? もうそんな体力残ってないけど!?」

「何を言っている、もうすでに休んだだろ」

「いや、まだ戦いが終わってから数分しか経ってないけど」

「それくらい休めば全快のはずだ」

「お前と一緒にするなよ。こっちはもう三十歳後半なんだぞ」

「知らん。いけるな? シモン」


 ニヤリと笑いながら問いかけ……いや、命令されてしまった。


「はぁ……本当にお前は、父親似だよ」

「それはよかった。つまり、歴代最強の魔王になれるということではないか」


 そんなことを言うリディは、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。



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