第31話 四天王対決、決着



「魔皇剣――闇の煌めき」

「獣魔剣――裂き牙」


 同時に技を出した瞬間、木剣と木刀が当たったとは考えられない轟音が響き……辺りに静寂が訪れる。

 二人は剣を振り抜いた構え、すでに勝敗は決している。


 一人の持っていたものが折れ、宙を舞ってから地面に刺さった。

 折れたのは……シモンの、木刀だった。


「はぁ……負けたか」


 シモンは技を出した構えを解いて、普通に立ってそう言った。


 敗因は、ほんの少しのズレ。


 シモンが繰り出した技が、ディーサの木剣にズレて当たった。


 力比べをしたら、絶対にシモンが負けるのだ。

 だがシモンなら、正面からぶつかり合いながらも、自分に有利な角度、力の入れ具合で木剣と木刀をぶつけ合わせられたはず。


 お互いに全力で得物を振るい合う、刹那の瞬間に、全盛期のシモンなら寸分の狂いもなく斬れたはず。

 今回ズレた理由は、まだやはり義手が身体に合っていないからだろう。


「さすがだよ、ディーサ。やっぱり今回も俺が負けたな」

「……ふん、当然だ。私の方が、強いのだからな」


 ディーサはそう言って振り返り、自分の部隊の方まで戻っていく。


「次こそ、完膚なきまでに倒すぞ」

「ん? いや、これ以上倒されたら、次は本当に殺されるんじゃないか?」


 戻りながら呟いた言葉にシモンがツッコミを入れるが、ディーサはそれには答えない。


 確かに今回の戦闘も、勝敗はディーサだ。

 だが部隊同士の戦いはシモンの部隊の方が圧倒し、その部隊の攻撃でディーサは本気を出さざるを得なかった。


 シモンとの戦いは、シモンが全盛期じゃないのだ、ディーサが勝つのは当たり前のはず。

 しかし……。


(……一瞬だけ、負けたと思った)


 最後の技を出し合った瞬間、シモンの姿が全盛期の頃と重なった。

 やはりシモンは、強くなっている。


(まだまだ全盛期の頃よりも弱いというのに……あれほど粘られ、負けるとさえ思わされた。なんという未熟さだ)


 ディーサの目指すところは、今のシモンを倒すことではないのだ。


 全盛期の頃のシモンを、超える。

 絶対にそれを達成しないと、ディーサは満足しない。


(いつか、いつか絶対に超えてやる……!)


 部隊の方まで戻ると、全員がディーサに敬礼をしながら迎えた。


「お疲れ様です、ディーサ様!」

「ああ、お前らもよくやった。今回の戦いで、もっと精進しないといけないと、各々が思ったはずだ」

「はい!」

「強くなる覚悟があるものだけ、私の精鋭部隊に残れ。これからもっと強くなるぞ」

「はいっ!!」



「すまんな、お前ら。負けちまった」


 シモンが折れた木刀を拾い、精鋭部隊のところまで戻る。


「いえっ! とても素晴らしい勇姿を見させていただきました!」


 シモンの精鋭部隊もディーサの部隊と同じように、敬礼をしながら待っていた。


「お前らがあれだけ頑張ってたのにな。俺は期待に応えられずに、すまん」

「おやめください、シモン様! 俺達は、とても感動しました!」


 隊長のカルナが敬礼をしながら大声で叫ぶ。


「強敵に挑み、技で翻弄し、鬼気迫るお姿! とてもかっこよかったです!」

「……そう褒めるな。ただ負けた弱い男なんだから。ただ、ありがとな」


 そう言って照れ臭そうに笑うシモン。

 カルナや他の兵士達は、やはりシモンは自分達の想いを理解していないと思った。


 力で速度で劣っているにもかかわらず、技術で立ち向かう姿。

 その姿を見て、奮起しない兵士はいなかった。


 自分達がディーサの力や速度でボロボロにやられた後だからこそ、それは特に強く思ったことだ。


(いつか、いつか俺達も……あなたのように強くなれますか、シモン様)


 カルナは心の中でそう問いかける。

 それを聞いた時に返ってくる言葉を想像して、ふっと笑ってしまう。


『当たり前だろ。お前は俺が認めた男なんだからな』


 そんなことを言ってくれる姿が、鮮明に思い浮かんだ。


 いつか本当に、シモンのように強くなりたい。


 そう思わない兵士は、シモンの精鋭部隊にいなかった。

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