第29話 ディーサ対精鋭部隊



 一方、シモンの方は……。


「ちょっとお前ら、マジで助けてね。ディーサなんか俺一人じゃどうしようもないから」


 ディーサとは真反対なことをしていた。

 自分の部下達に助けを求め、自分は部隊の一番後ろに待機していた。


「少しでもディーサの体力を減らしてくれよ? 万全の状態のディーサとなんか、俺は絶対にやりたいくないからさ」


 部隊を引っ張るはずの四天王のシモンが、とても弱気なことを言っている。

 普通だったら士気は下がってしまうだろう。


 だがシモンの部隊は、そうではない。


 情けなく部隊の後ろにいるシモンを見て苦笑いくらいはするものの、誰もその闘志は衰えていない。

 むしろ燃え盛っている。


「わかっています、シモン様。シモン様は後ろで待機をお願いします」

「ああ、もちろん。ディーサはなんか、俺のことを嫌ってるから、毎回戦ったら殺されそうになるからさ」


 それを聞いてまた部隊の皆は苦笑いをする。


 四天王のディーサがシモンを避けている、嫌っているという噂は結構有名だ。


 確かに部隊の皆は何回もディーサと戦っているシモンの姿を見て、嫌われていると最初は思っていた。


 ただ……シモンの部隊の皆は、知っている。

 ディーサがシモンがいない時にこちらに話しかけてきて、シモンのことをいろいろと聞いてきたことを。


 シモンと部隊の兵士達の信頼関係の築き方などを学び、それをあちらで活かしているということを。


 毎回毎回戦うたびに、ディーサの精鋭部隊が増えて強くなっていることを。


「お前らも気をつけろよ。ディーサは容赦ないからな。木剣でも下手したら死ぬぞ」

「わかっております」

「無理だと判断したらカルナ、お前が指示をして下がらせろよ。その時はめっちゃ嫌だけど、俺がやるから」


 隊長であるカルナの名前を呼び、そう指示を出したシモン。

 やはり情けないことを言っているが、やる時はやる男なのだ。


 それを知っているからこそ、部隊の皆はシモンを慕っている。


「わかりました。ですがシモン様……俺達だけでディーサ様を倒してしまっても、構わないのでしょう?」

「お、おお……もちろん構わないが、なんか、うん、頑張れ」


 シモンは「なぜか今の発言で絶対にお前らが負けると確信してしまったんだが」と言うのは、さすがにやめておいた。


「はい、頑張ります! いくぞ、お前達!」


 隊長のカルナの声と共に、シモンの精鋭部隊が四天王ディーサに突っ込んでいく。



 ディーサは木剣を正中に構えていた。

 シモンの精鋭部隊が突撃してくるのを見て、まだその構えは変わらない。


 部隊との距離が三十、二十、十……そこでようやく、ディーサが動く。

 部隊の全員がディーサの一挙一動をしっかりと見ていた。


 しかし……誰も、ディーサが木剣を上段に構えたところが、見えなかった。

 隊長のカルナが気づいた時には、すでに上段に構え、剣を振り下ろす寸前だった。


「っ、退避ぃ!」


 そう叫ぶと同時に、訓練していた通りに部隊が左右に分かれた。


 ディーサが振り下ろす木剣の切っ先から、外れるように。


 瞬間、轟音と共にディーサが振り下ろした木剣が、地面を切り裂いた。

 ディーサとの距離はまだ十メートル以上離れていたにも関わらず、舞台を真っ二つに裂くように地面が割れていた。


 地面が割れて、その斬撃がどこまで飛んだかというと……。


「おいおい、俺に攻撃してきてんじゃん、あいつ」


 百メートルは離れているはずの、シモンのもとまで斬撃は飛んでいた。

 ディーサの立ち位置から、シモンがいる場所まで、地面は裂けている。


「っ……!」


 部隊の皆、それに隊長のカルナはゴクリと喉を鳴らした。


 ――これが、四天王の力。

 軽く振った一撃で、地面を百メートル以上も裂く力。


 しかも今のは木剣でやったものだ。

 ディーサの愛剣でやっていたのならば、どれほどの威力があったのか。


 木剣ですら直撃したら、一溜まりもない。


「怯むな、お前達! 我らの力をディーサ様に見せつけるのだ!」


 隊長のカルナがそう叫び、また全員が隊列を組み直してディーサに突撃していく。


 今の攻撃はディーサの挑発だと、カルナとシモンは気づいていた。


 ――シモン、貴様が来い。私の相手は、貴様だ。


 たった一振りで、指紋にそう伝えていた。

 カルナは自分達が相手にされないことを怒り、情けなく思い、絶対に一矢報いようと奮闘する。


「魔法部隊! 魔力を最大限溜めろ! 前衛は絶対に、魔法部隊を守れ!」


 精鋭部隊はディーサのことを囲み、大きな攻撃をさせないように全員で間を置かずに攻撃を仕掛けていく。

 囲んでいる人数は数十人、相手はディーサただ一人。


 普通ならば間髪入れずに十数人が一人に対して攻撃をしていれば、それだけで簡単に勝負は着くはずだ。


 しかし、相手は四天王のディーサ。

 数え切れないほどの攻撃をしているはずなのに、一撃も当たらない。


 簡単に避けられ、攻撃を仕掛けた者に軽く一撃を入れられ、無力化させられていく。

 だがこれはただの時間稼ぎ、シモンの精鋭部隊の本命は、魔法だ。


「今だ! 魔法部隊、融合魔法を放てぇ!」


 三十人ほどで構成された魔法部隊が、一人一人が限界まで溜めた魔力を使い、融合魔法を放った。

 融合魔法自体とても難しいもので、二人でやる融合魔法でもとても難しいのに、三十人なんて不可能に近い。


 しかしシモンの精鋭部隊は、厳しい訓練を積み、魔道具の効果にも助けられながら、融合魔法を成功させた。


 特大の炎属性の魔法。

 小さい城だったら一発で消し飛ぶぐらいの威力。


「すげえ……こんなの出来るようになったのか」


 後ろで見ているシモンも、驚きの声を上げた。

 シモンも知らなかった最大火力の攻撃。


 いくら四天王でも、これほどの魔法を防ぐのは不可能――。


「見事だ」


 刹那の、一振り。

 ディーサが横に薙ぎ払った瞬間、融合魔法で放たれた炎は掻き消えた。


「な、なっ……!?」


 カルナは目を見開いて驚き、言葉も何も出てこない。

 防いだのではなく、たった一振りで消滅させた。


 ただの木剣で、炎属性の特大魔法を。

 城すら一撃で吹き飛ばす威力のものを、木剣を横に薙ぎ払っただけで。


 しかも魔法だけじゃなく、カルナの側にいた者達も今の攻撃の余波で吹き飛んで倒れている。


「くそぉ……!」


 カルナは一人立っていたが、膝から崩れ落ちてしまう。

 最初の地面を裂いた攻撃が、本気の攻撃ではなかったのだ。


 そして今の攻撃も、ディーサの最大の攻撃ではない。

 なんせ木剣で振るった一撃だ。


 前衛で戦っていた者達は今の攻撃でほとんど倒れ、魔法部隊も今の魔法で激しく息を荒げて倒れる寸前。


 もう精鋭部隊は、壊滅状態だった。

 やはりまた、負けてしまった。


 今度こそ精鋭部隊だけでディーサを倒すと決めていたのに……。

 そう落ち込むカルナの肩に、ぽんっと手が置かれる感触があった。


「よくやった、カルナ。ビックリしたぞ、あんな隠し球があったなんてな」

「シモン様……力及ばず、申し訳ありません」

「謝る必要なんてない。あれを打ち消すディーサが化け物なんだ。あんなの俺も防げねえよ」


 そう励ましてくれるシモン。


 だが隊長は知っている、シモンの右腕があった頃の強さを。

 今は防げないかかもしれないが、あの頃だったら今のディーサのように簡単に防いだことだろう。


 やはり四天王は、化け物揃いなのだ。


「あとは任せろ」

「はい……お願いします、シモン様」


 そしてシモンは、戦いの場に出た。


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