第27話 四天王同士の戦い
んっ……?
なんか今、悪寒を感じた気がした。
なんだかこれから、怖いことが起こるような、そんな予感が……。
「どうした。何をぼーっとしているのだ」
「ああ、悪い悪い。なんでもない」
「ふん、余裕そうだな。その余裕がいつまで続くか見ものだ」
俺の目の前には、四天王の一人、ディーサがいた。
灰色の長い髪をポニーテールにして、目がつり上がっている美人といった感じの女性だ。
頭頂部には狼の耳、腰からは狼の尻尾が生えている獣魔族で、種族的にとても身体能力が高い。
もちろん四天王まで上り詰めているディーサは、四天王の中でも随一の身体能力の高さをしている。
それに加えて魔法の才能もなかなかあるので、やはりとんでもなく強い。
そんなディーサと、これから四天王同士で戦い合うのだ。
……負ける未来しか見えんな。
いやまあ、一対一じゃない。
俺の部下の精鋭部隊が五百人、ディーサの部下の精鋭部隊が三百人で戦い合うのだ。
これは訓練みたいなもので、四天王同士で時々やり合うのだ。
なお、俺の方が精鋭部隊の数が多いのは、単に俺が長く四天王をやってきたから、その分部下が育っているだけだ。
決して俺の手柄とかじゃない。
むしろディーサは四天王の中では俺の次に就いてる期間は長いが、それでも何年も俺の方がやっているのに、すでに三百人も精鋭が集まっていることがすごい。
しかもディーサの精鋭部隊は、全員が獣魔族。
身体能力がとても高いので、とても厄介なのだ。
まあこういう時に戦い合うと厄介なだけで、もちろん魔王軍としては味方なので、とても心強い。
だが今回は四天王同士の戦いだから、その心強い味方が敵になる。
「武器を新調したのか?」
ディーサの精鋭部隊を見て、俺がそう問いかけた。
「……よく気づいたな。イネスに頼んで、ほぼ全員の武器を新調した」
「やっぱりか。全部魔道具だよな」
普通の鉄や鋼の武器と、魔道具の武器ではその性能はだいぶ違う。
俺の部隊は全員魔道具の武器、防具を着ている。
これも俺がすごいのではなく、ただ長く四天王をやっているからだ。
前にディーサの精鋭部隊と戦った時は、全員が鉄や鋼の武器だったはずだ。
魔剣でもなく、ただの武器。
本来なら獣魔族は自身の身体能力に自信を持っているから、まず武器などは持たないのだ。
防具などはするが、武器は鍛えた己の拳のみ。
それが獣魔族の強さの誇り……と俺は聞いていた。
だが四天王のディーサは剣を持っているし、その部下達もいろんな武器を持っている。
それだけでとても厄介なのに、さらに魔道具の武器まで使うとは……。
「まだ全員ではなく、しかも防具は鋼だが……これからもっと強くなるぞ、私の部隊は」
「ははっ、本当にすげえな、こりゃ俺が四天王を辞めても、魔王軍は安泰だな」
俺がそう言うと、ニヤリと笑っていたディーサの顔が、突如真面目な顔をして、俺のことを睨んできた。
「な、なんだよ」
「……貴様は四天王を辞めたいのか?」
「ん? あー……まあ俺みたいな弱くて古臭い奴より、新しい奴に四天王を任せた方が魔王軍のためだろ」
「っ……ふん、舐めたことを言ってくれる」
「何が?」
「私はまだこの戦いで、一度もお前に勝ったことはないぞ」
「はっ……?」
何を言ってるんだ、ディーサは。
この部隊同士の戦い、ここ二年は毎回俺が負けてるけど?
「お前が勝ってるだろ、毎回」
「……まあいい。今日こそは勝ってやるぞ、シモン」
「だから、俺は毎回負けて……」
「行くぞ、お前達!」
俺がディーサに言い返そうとしたが、ディーサは自分の部隊を連れて行ってしまった。
どういうことなんだ、本当に。
まあ今は考えていても仕方ないか。
これから戦いをするから、準備をしないといけない。
俺は自分の部隊の方を向いて。
「俺達も準備するぞ! 今回は頑張って勝とうな! だけどまあ、模擬戦みたいな感じだから、大きな怪我はないように!」
そして俺とディーサの部隊は、戦いの位置についた。
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