第21話 お風呂?
サリヌが庭で眠ってしまって、俺は胡座をかいてその子に膝枕をしてあげる。
汗を書いて寝づらそうなのでタオルで顔周りの汗を拭き、魔法で冷やしたタオルを額に置いた。
「お疲れ様です、シモンさん」
「ああ、イネス、ありがとう。サリヌがこれで溜め込まず、元気になるといいんだがな」
結構の荒治療だが、辛い想いを吐き出しながら泣いてくれた。
自分の村が潰れたのを目の当たりにし、その時のショックでまだ泣いていなかったようだからな。
これで少しでも気が晴れてくれればいいのだが。
「……やっぱり、ボクはシモンさんみたいになれないです」
「ん? どうしたんだ?」
俺の隣に座ったイネスが、いきなりそんなことを呟いた。
「その子、ほとんどボクと同じ境遇じゃないですか」
「ん……そういえば、そうだな」
俺が昔、すでに壊滅していた村に行った時に、一人で村の中にうずくまっていたのがイネスだ。
確かに年齢も十歳で、サリヌとほぼ境遇は同じだろう。
「ボクもシモンさんと同じように、この子を助けてあげたかったんですけど……結局、この子には怖がられて、シモンさんに頼ることしか出来なかったです」
そう言ってイネスは下を向いて落ち込んでしまった。
イネスにしては珍しくこの子に頑張って話しかけていたと思ったが、そんなことを思っていたのか……。
俺みたいになりたいだなんて、嬉しいことを言ってくれる。
思わず口角を少しあげながら、いつものようにイネスの頭を撫でる。
「いいんだよ、頼っても。俺だって他の人にいっぱい頼ってるさ。それこそイネスが俺のところに来た時だって、先代の魔王様にめちゃくちゃ相談したぞ」
「えっ……そうだったんですか?」
「ああ、俺も子供を育てる……っていう訳ではないが、子供の面倒を見るのは初めてだったんだ。先代の魔王様はリディを育てていたからな、いろいろと聞いたさ」
聞いた情報はあまり役に立たなかったが。
なにしろリディとイネスじゃ、性格が全く違う。
それと先代の魔王様は教えるのが下手で、しかもいちいちリディの思い出話を交えながら話してくるから、話がとても長い。
まあそれは伝えなくてもいいか。
「だからいきなりサリヌを一人で頑張って育てようとは思わないでいいんだぞ。俺や他の奴らに頼って、少しずつ成長すればいいんだ。俺だってそうしたんだから」
「……はい、そうします!」
イネスはそう言って笑い、俺にもっと近づいて座り、頭を俺の方に預けてくる。
その仕草にドキッとしたが……すぐに頭をもう一度撫で続けた。
俺の足元ではサリヌが膝枕で寝ていて、隣ではイネスが寄りかかって肩に頭を預けてきている状況……。
なんだか新婚の夫婦が子供と庭で遊んで、その子供が疲れ果て寝ているようだな、なんて思ってしまった。
多分他の人から見ればそう見えるのかもしれないが……一番の問題点は、イネスが男だということだ。
なんで本当にこんな可愛い子が男の子なのか、世界はわからないな。
数十分後、サリヌが起きて、汗をかいたのでお風呂に入ることになった。
「ボ、ボクも一緒に入っていいですか?」
「ん? あー……そうだな、久しぶりに一緒に入るか」
「は、はい!」
「えっ……イネスとシモンって、そういう関係なの?」
イネスも一緒に入ると聞いて、サリヌが驚いてそう問いかけてきた。
「そういう関係って……ああ、サリヌ、お前勘違いしているな。仕方ないとは思うが」
「何が?」
「イネスは、男だ」
「……えっ?」
ほとんど無表情だったサリヌが、一番驚いた顔を見せた瞬間だった。
うん、仕方ない。
だって女性にしか見えないからな。
ということで久しぶりにイネスと入ることになった。
イネスの屋敷は風呂が二つあり、男性用と女性用ということで分かれていた。
俺とイネスは男性用へ入り、サリヌが……えっ?
「待て、サリヌ……お前、女の子じゃないのか?」
「私男だけど」
「……マジか」
いや、まだ子供だから見た目がわからなかったのはある。
だが金髪で長さは肩を触れるくらいのウェーブがかった感じで、中性的な可愛い顔立ち。
パッと見は女の子に見えてしまう。
「むぅ……気にしてるのに」
サリヌは頬を膨らませてむくれてしまった。
村でのよくある遊びで、戦いごっこをしている時点で気づくべきだったか。
「ご、ごめんな、じゃあ一緒に三人で入るか」
「うん」
全員が男なので、俺達は三人でお風呂に入ることになった。
服を脱いで裸になり、風呂場へと入る。
うん、サリヌはやっぱりアレが付いていたので、男のようだ。
疑ってごめんな。
イネスは……結構昔に付いているのを確認しているので、男だということはわかっている。
だがある時から、イネスは一緒に風呂に入るときはタオルを身体全体に巻くようになった。
男だったらなんというか、股間だけが見えないように腰にタオルを巻くのはわかる。
俺とサリヌは腰にタオルを巻いている。
だがイネスだけ、胸まで隠れるような感じでタオルを巻いているのだ。
「……なんでイネス、タオルをそうやって巻いてるの?」
「え、えっと……恥ずかしいから」
「男同士なのに?」
「う、うん……」
「……本当は女なんじゃないの?」
「ち、違うよ、男だよ……まだ」
「ん? 最後なんて?」
「な、なんでもない」
サリヌがとても疑っている様子だが、まあ仕方ないだろう。
だがイネスが女性のようにタオルを巻くと、本当に女性にしか見えなくなってしまうから、ちょっとドキドキしてしまうが……気持ち悪がられるかもしれないから、言わないでおこう。
ということで俺達は男三人で、裸の付き合いをしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます