第19話 壊滅した村
二人の準勇者を地獄に落としたイネスは、壊滅した村を回る。
何十個の家々が潰れていて、何百という人々の死体があちこちに転がっていた。
「っ……」
その光景を見て、イネスは昔のことを思い出してしまう。
自分が……シモンに、拾われる前のことだ。
イネスもここと同じように、山奥の小さな村に住んでいた。
本当に小さな村、人口はここよりも少なく、三百人以下だったかもしれない。
人数が少なかったからこそ、村の人々はみんな知り合いで、家族のように仲がよかった。
だがイネスは子供の頃から内気な性格で、人と絡むことが苦手な性格だった。
よく一人で森に行って、お気に入りの場所で本を読んでいた。
森は魔物などがいて危ない場所だったが、イネスはその頃から人並外れて魔力が強く、普通の魔物は全然近寄ってこないのだ。
それを知っている村の人は心配をしながらも、イネスのやりたいようにさせていた。
イネスは村の人達とあまり話せなかったが、そういう優しい村の人達が好きだった。
ある日……いつものように一人で森に行き、居心地がいい場所で本を読んで、あまりの気持ちよさに眠くなってしまい、ついつい寝てしまったのだ。
目が覚めるとすでに日は沈みかけており、辺りは暗くなろうとしていた。
イネスは慌てて村へと帰ったが……そこには、変わり果てた村の姿が。
人族の兵士に村は襲われ、村人達は全員死んでいた。
イネスの両親も、隣の優しいおじさんも、村人全員が、物言わぬ死体となった。
目の前の光景が信じられず、村の真ん中で立ち尽くすイネス。
すでに人族の兵士がどこかに行っていたので、イネスだけが助かった。
森で眠っていなければ、イネスも人族の兵士に殺されていたかもしれない。
だがその当時は、イネスはむしろ一緒に死にたかったと思っていた。
この村しか生きる場所を知らない十歳のイネスは、壊滅した村で一人ただ座って、数日を過ごした。
村の中を探せば食料や水が多少あるだろうが、探す気力も起きない。
自分が生まれ育った村で、このまま死のうと思っていた。
だがそこに、魔王軍の四天王の一人……シモンが来たのだ。
そこはシモンの領地の村だったので、人族に襲われた村があると連絡を受けた。
顔をしかめながら村を見て回っていたシモンが、村の真ん中でうずくまっているイネスを見つけた。
イネスは誰かが来たことを感じたが、本当にどうでもよかった。
話しかけてくるシモンを、イネスはほとんど全部無視した。
今思えば四天王の一人にとんでもなく失礼なことをしていたが、シモンは何度も話しかけた。
『助けに来るのが遅れてすまなかった。俺に君を、助けさせてくれ』
『一人でここにいたら寂しいだろ? 俺と一緒に来ないか?』
最後はシモンが無理やりイネスを自分の屋敷に連れて帰り、一緒に暮らすことになったのだ。
「それからは、とても楽しかったな……」
今思い返すと、それからの日々はとても楽しいものだった。
一人でいた方が楽しいイネスだったが、いつの日かシモンと一緒にいた方が楽しくなった。
とても優しくて、明るくて、強くて、カッコいいシモンと一緒に、一生一緒にいたいと思うようになった。
シモンの隣に立つために、今までほとんど練習してこなかった魔法を死ぬほど練習し、シモンと同じ四天王となった。
四天王になって同じ屋敷に住めなくなったのは、とんでもない誤算だったが。
「ふふっ……」
一人で昔の村のようなところにいて気分が沈んでいたが、シモンのことを思い出して気が晴れた。
やはりイネスは、シモンが好きなのだ。
また一緒に暮らしたいがために、性転換の魔法を開発しようとするくらいには。
そんなことを思いながら村を回っていると……。
「んっ……? 誰か、生きてる?」
小さな魔力反応が見つかった。
それは崩れた家の中から反応があるようだ。
人が潰れて死にかけているのかもしれない。
そう思ったイネスはすぐさま魔法を発動し、崩れた家の瓦礫を順番に持ち上げていく。
普通の人だったら十数人で持ち上げないといけないようなものを、イネスだったら軽く魔法で持ち上げることが出来る。
そしてその家の瓦礫の下には……小さな、子供がいた。
まだ十歳くらいの華奢な子供。
小さいがゆえに瓦礫の間で助かることが出来ていたようだ。
生き残りが一人でもいたのは嬉しい。
「だ、大丈夫……?」
イネスは瓦礫の中で膝を抱えてうずくまっている子供に、そう声をかける。
しかし子供は虚空を見つめていて、何も答えない。
おそらくこの子供は、村が壊滅していくところを見ていた、もしくはこの瓦礫の中で聞いていたのだろう。
準勇者に村人が殺され、親を殺され……一人、生き残ってしまった。
その子供を見てると、イネスは昔の自分を思い出してしまう。
村が壊滅して同じように村の中でうずくまって動かなかった自分を。
いつもはシモン以外の誰かと話すのが苦手なイネス。
特に自分から話しかけるというのはシモン以外には、仕事以外でほぼしたことはない。
だけど……今は。
昔の自分と同じように心に傷を負い、塞がっている子供を救いたい。
(シモンさん……ボクも、貴方のようになれますか?)
絶望に打ちひしがれている自分を、助けてくれた貴方みたいに。
「君……その、ボクと、一緒に暮らさない?」
その子供に手を伸ばしながら、イネスはぎこちない笑みでそう言った。
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