第17話 準勇者
そこら中から、血の匂いがする。
準勇者であるジャンは、その匂いがそこまで嫌いではない。
特に他人の血の匂いは興奮すら覚える。
いや……むしろ、他人が血を流すところが好きなのだ。自分が流すのは好きじゃない。
だからこの今の状況は、最高だろう。
敵である魔族の奴らを殺し尽くし、村を壊滅させた。
一人残らず殺し、村の家々を破壊していった。
「ジャン、もう生き残りはいないぞ」
ジャンと同じく準勇者である、バレンゴ。
大きな両手斧を持っており、刃の部分は血に濡れていた。
「ああ、これで魔族の強い奴を呼ぶことが出来ただろうな」
ジャンとバレンゴの目的はただ一つ、勇者になることだ。
準勇者と勇者では、名声や立場が全然違う。
二人はもうすでに自分達が、勇者になれるほどの実力を備えているという自負がある。
だが勇者になれていないのは、実績が足りないからだと二人は考えた。
なので実績を作るために、二人は魔族の領地へとやってきて、戦いを仕掛けたのだ。
初めての魔族の領地なので地形がわからないので適当に来て、一つの村を見つけた。
小さい村で兵士もいないような村だったので、何人かをワザと逃して、他は全員殺した。
逃した理由は、魔族の強い奴を連れてきてもらうためだ。
ここで強い奴を倒し実績を上げ、勇者になる。
「四天王でも来てくれればいいがな」
「ああそうだな。そいつを殺せば、絶対に勇者になれる」
四天王を殺した準勇者は今までいない。
だが勇者は何人か、四天王を殺した者はいる。
だから四天王を殺せば、必ず勇者になれる。
すでに勇者ほどの実力を持っていると自負している二人は、自分達なら四天王を殺せると確信していた。
「さて、ここでずっと待ってても仕方ねえな。適当に歩いて、他の村でも見つけるか」
「ああ、そうだな」
「その必要は、ないですよ」
「っ!?」
突如上から聞こえてきた声に、二人はすぐに戦闘体勢に入りながら上を向いた。
その声の持ち主は宙に浮いていた。
容姿はどう見ても子供、女の子。
しかし宙に浮くという魔法はそう簡単ではなく、そこらの子供が出来るわけがない。
「……誰だ、ガキが」
ジャンが宙に浮いている人物を睨みながら問いかける。
「ま、魔王軍、四天王の一人……イネス、です」
「はっ……? 四天王、だと?」
「くはっ、貴様みたいなガキが!?」
まだ二十にも満たないような子供が、魔王軍の四天王を務めている?
二人は思わず笑ってしまう。
「はははっ! 傑作だ、まさかこんなガキが魔王軍の四天王なんてな! 魔王軍はよっぽどの人手不足らしい!」
「くくっ、おいおい、ジャン、そう笑うな。魔王軍が人手不足なのは、わかりきっていることじゃないか」
「ああ、そういえばそうだったな。魔族と人族では、兵士の数は我々人族の方が何倍も上回っているらしいな」
「……それは、人族の方が個々で見たら弱いと言っているのと、同じじゃ……」
「ああっ? なんだって? なんか言ったか?」
「声が小さくて聞こえねえな、もしかしてビビってんのか?」
二人して大声で喋っている途中にイネスが呟き、宙に浮いて遠くにいるのでジャンとバレンゴの耳には届かなかった。
実際、ジャンとバレンゴが言ったこと、それにイネスが言ったことも正しい。
「まあいい。とりあえず、イネスって言ったか? 本当にお前は四天王なんだろうなぁ?」
「……は、はい、そうです」
「ふん、ならあいつを殺せば、俺達は確実に勇者になれるんだ」
「ああ、そうだな」
ジャンは剣を抜いて右手で構え、バレンゴも両手斧を構える。
イネスも宙に浮きながら、魔力を高めていく。
「しかし、本当なら俺達が狙っていた四天王は、男の奴だったんだけどな。まあこいつの方が弱そうだし、楽を出来るならいいか」
「いやわからないぞ? 右腕を失ってる四天王の方が、弱いかもしれんぞ?」
「ははっ、確かにな!」
「――はっ……?」
二人が構えながらもまだ口を開いて話す言葉に、イネスが小さく声を上げた。
しかし二人は気づかず、まだ喋る。
「聞いた話だとその四天王は剣士らしいぞ。剣士が利き腕を失くして、なぜまだ四天王という立場にいれるのか、理解出来ないな!」
「ははっ、そんな奴なら、俺一人でも倒せるな!」
「黙れ……」
「やはり魔族はそんな役立たずを四天王にしてるぐらい、人手不足で弱いらしいな!」
「なぜ今の勇者達は、全然魔族に攻めていかないのか、理解出来な――」
「――黙れ」
瞬間、イネスが魔力を解き放った。
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