第16話 イネスと遊ぶ?
イネスとの義手の性能を確かめる実験が終わり、もうここでの用事は済んだ。
いつも義手のチェックを終わると、仕事があったりするので帰るのだが、今日は丸一日休みの日だ。
「イネスは今日休みなのか?」
「あっ、そうですね。シモンさんに合わせて、休みにしました」
「マジか、悪いことしたな」
「いえ! その、ボクがシモンさんと休みを一緒にしたかったからで……!」
いじらしくそんなことを言いながら人差し指と人差し指をツンツンと合わせて、こちらの顔をチラッと見てくる。
その仕草がやはり女の子っぽいな、と思いながら、イネスが望んでいることを言ってあげる。
「じゃあ、今日は一緒に過ごすか」
「っ、はい!」
とてもいい笑顔で返事をしたイネス。
やはり今日一日、俺と一緒に居たいから合わせて休みを取ったのか。
はぁ、本当にいい子で、こんな子に好かれていると思うと嬉しいな。
だが男である。
まあ、普通に可愛い息子に好かれてる感じだな。
「まだお昼は食べてませんよね? ボクの屋敷で用意しているので、一緒に食べましょう!」
「ああ、ありがとな」
嬉しそうに俺の手を引いていく姿に、思わず笑みが溢れてしまう。
そのまま研究所を一緒に出て、イネスの屋敷に向かう。
道中はイネスは楽しそうで、鼻歌を歌いながらスキップでもしそうな感じだ。
俺と一緒に過ごすことをそこまで喜んでくれると、俺も嬉しくなってしまう。
そのまま俺とイネスは上機嫌のまま、イネスの屋敷に向かったのだが……。
「あっ、イネス様! お帰りになられたのですね!」
門の前に一人の男、おそらくイネスの部下がいた。
「……な、何かありましたか?」
イネスは他の人と話すのまだ慣れてないようなので、部下にも敬語を使っているようだ。
その部下が何やらとても慌てた様子で、イネスに説明をする。
「こ、ここから東に十キロのところにある村が、人族に襲われているようです!」
「っ! ほ、本当ですか?」
「はい、小さい村で常駐している兵士もいなく……すでに、ほぼ壊滅状態にあるようです」
「っ、それは酷いな……」
俺も思わずそう呟いてしまう。
昔から、人族と魔族は敵対関係にある。
なぜ敵対しているのかはわからないが、ずっと目の敵にして戦い合っているのだ。
いつから始まったかわからない種族間の戦争は、いまだに熱は冷めない。
人族は魔族を滅ぼそうとし、魔族は人族を滅ぼそうとする。
俺の右腕も……人族との戦いで、失ったものだ。
だが最近はそこまで人族と魔族が大きな戦争をしていないが……このような小競り合いを仕掛けてくることは、人族側が多い。
だが小競り合いといっても、すでにこちらの村が一つ壊滅している。
何百人いた村かはわからないが……生き残りは、期待出来ないだろう。
「こ、こちらの兵士は出したのですか?」
「すでに動かしていますが……人族の敵は二人だけで、その二人が『準勇者』なようで……!」
「っ、そうですか……」
準勇者。
人族の中には一際強い奴がいて、人族の中ではそれを勇者、または準勇者と呼ぶ。
勇者は一人で俺ら四天王と同等かそれ以上の強さを持っていて、準勇者は一人で四天王よりもほんの少し弱いくらいの強さを持っている。
ぶっちゃけ俺は右腕があった頃は勇者を何人も倒していたが……今では、準勇者をギリギリ倒せる、といったくらいの強さだろう。
今回の敵は準勇者が二人だということなので、こちらの兵士が数百人いったところで、荷が重いだろう。
「……ボ、ボクが、行った方がいいですよね?」
「そ、そうですね。四天王のイネス様にお手を煩わせていただくのはとても恐縮ですが……何分、緊急事態ですので……」
「うぅ……わかりました、すぐに向かいます」
俺の方を一度チラッと見て、とても落ち込んだ様子を見せながらイネスはそう言った。
せっかくの休みで一緒に過ごすことになっていたのだが、それを邪魔されたのだ。
落ち込むのも仕方ない。
「イネス、大丈夫か? 俺もその村についていこうか?」
「いえ、シモンさんの手を借りるわけにはいきません。これはボクの領地での問題なので……」
「……わかった」
不機嫌さを隠せないイネスだが、ここはしっかりと四天王の責務として一人で行くようだ。
「まあイネスなら心配ないと思うが、頑張れよ」
そう言って頭を撫でると、少しだけ機嫌は戻ったようで、軽く笑みを見せるイネス。
「はい、頑張ります。シモンさんは先にお昼ご飯を食べててください。すぐに帰ってきますので」
イネスはそう言うと、魔法を発動させて浮かび上がった。
「その村の場所は、こちらの方向に十キロですか?」
「は、はい、そうです!」
「わかりました。じゃあ貴方は、シモンさんを屋敷に案内してお昼ご飯を出してください。人族の対応は、僕がやります」
部下にそう指示を出してから、イネスは聞いた方向へと飛び立っていった。
とても速い速度で、すぐにイネスの姿は見えなくなる。
「で、では、シモン様、こちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう」
俺はその部下に連れられて屋敷の中に入っていくが、その部下は何やらソワソワしていた。
「どうしたんだ?」
「あっ……い、いえ、その……大丈夫なのでしょうか?」
「イネスを一人で行かせて、か?」
俺の言葉にビクッとしながらも、イネスの部下は言葉を続ける。
「は、はい、恐れながら……私は最近イネス様の下についたのですが、イネス様の強さを見たことがありません。魔道具の研究を主にしている姿はよく見かけるのですが……」
もしかしてそれも、俺の義手を研究していたのかもしれないな。
本当にありがたい話だ。
「相手は準勇者が二人ということなので……四天王の方でもお一人では、本当に勝てるかどうか……」
まあ確かに、四天王でも準勇者が二人だと少しキツイな。
ぶっちゃけ、今の俺だったら準勇者でも二人だったら負ける可能性の方が高い。
だが……あの子は、全く問題ないだろう。
「大丈夫だ、安心しろ。イネスなら絶対に負けない。イネスを息子のように思っている俺が、行かなかったことが証拠だ」
「は、はぁ、そうですか」
まだ少し信用しきれてないのか、煮え切らない返事をする部下に、俺は安心させる事実を告げる。
「今の四天王の中で――最強は、イネスだ」
「えっ、そうなのですか? いえ、それより……息子のようにと言ってましたが、娘のようにの間違いでは?」
「……ん? あいつは男だぞ?」
「……ええっ!?」
煮え切らない返事の理由は、それが気になっただけのようだ。
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