第15話 義手の性能


「そういえば、シモンさん、義手の調子はどうでしたか?」


 実験室で戦闘をした当初の目的を思い出し、イネスがそう問いかける。


「ああ、そうだったな。めちゃくちゃよかったぞ。前よりも反応が早くなっているのがわかる」

「そうですか、よかったです!」

「ああ、ほとんど生身の腕と変わらない感じだ」

「……ほとんど、ですか」


 シモンの一言に、イネスの目は下を向き少し落ち込む。


「やっぱり……生身の腕には、まだ及ばないですか?」

「あ、ああ……そうだな。本当に少しだけだと思うが、左腕とはちょっと違うな」

「そうですよね……」

「まあ、これは感覚の問題だから。多分俺がこの腕に慣れれば大丈夫だと思うぞ」

「いえ、慣れないで大丈夫です! むしろ慣れないでください! その前にボクが、絶対にもっといい義手を作るので!」


 イネスは強く自分に言い聞かせるように、そう断言した。


「本当に、別にいいんだぞ? 普通の生活で違和感なく動ける、ほぼ違和感なく戦える、これでも十分すぎるんだ」

「いえ、ボクがやりたいんです!」


 イネスの目標は失くなった右腕と完全に感覚が一致する義手だ。


 少しのズレも許さない、脳の信号を感じ取り遅れることなく、速くなることもない、完全な一致を目指している。


「だけどごめんなさい、早く作らないと……シモンさんが、感覚を忘れてしまいますよね」


 シモンが右腕を失くしてから、もう二年以上経っている。


 そんなに時間が経ってしまったら、失くなる前の右腕の感覚を忘れてしまう。


 だから早く完璧な義手を作らないといけないのに、今回作った義手もそれには至っていない。

 そう思って落ち込むイネスだが、シモンが優しく頭を撫でる。


「イネスは優しいな、俺のためにそんなに本気で作ってくれて……ありがとな」

「いえ……シモンさんにもらった恩に比べれば、こんなこと……」

「比べるもんじゃないけどな、そういうのは。ただ俺はイネスの気持ちが嬉しい、ありがとうな」

「シモンさん……」

「ただイネス、そんなに急がなくていいぞ。俺が右腕の感覚を忘れることなんて――ありえないからな」


 その言葉に、イネスはゾクッとした。


 そうだ、忘れていた。

 シモンは今でさえ四天王の中で最弱だが――右腕が失くなる前は、魔王よりも強いと言われていたほどの強者だ。


 しかも四天王はどんどん変わる中……一人だけ、二十年以上も務めている。


 シモンの次に長いディーサでさえ、まだ五年だ。


 その長さは他と比べて、一目瞭然だろう。

 二十年以上、刀を振るってきたシモンが……たった二年でその時の感覚を忘れることなんて、絶対にありえない。


「わ、わかりました! その代わり、確実に、完璧な義手を作ります!」

「ふっ、ああ、頼んだ」


 そう言って朗らかに笑うシモンを見て、(好き……)と思いながら、絶対に完璧な義手を作ると決意を新たにしたイネスだった。


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