第9話 ダンジョン制覇
数時間後、俺とアダリナは、アダリナの屋敷の食堂で、二人で食事をしていた。
昼に来た時も思ったけど、アダリナの屋敷デカいな……俺のより。
同じ四天王なのに、どうして屋敷のデカさがここまで違うのだろう。
倍……とまではいかないが、そのくらい大きさが違う。
まあ、建てたのが俺は二十年前以上、アダリナはここ数年だからかな。
「んんぅー、美味しいー!」
アダリナは頬いっぱいに食べ物、この場合ヒュドラの肉を詰め込んで、あまりの美味しさに舌鼓を打つ。
「ドラゴンのお肉久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しいね!」
「そうだな、それにヒュドラはドラゴンの中でも美味い方だから、なおさら美味いな」
ヒュドラの肉のステーキ、とてもシンプルだがこれが一番美味い食べ方だろう。
「料理長、おかわりー!」
「よく食べるなぁ、アダリナ。腹壊さないようにな」
「大丈夫大丈夫、まだ腹三分目くらいだから!」
すでに五キロ以上はステーキを食べているはずだが……本当にすごいな。
俺も一キロは食べたが、もうお腹いっぱいだ。
若い頃はもっと食べられたんだけどな。
「そういえばさー」
俺が食事を終えて適当に酒を飲み、アダリナはまだ肉を食いながら話を続ける。
「シモンちゃんって、なんで四天王をやめたいの?」
「そりゃ、仕事がめんどくさいからだよ」
四天王についてから、もう二十年は経っている。
なった直後はやっぱり嬉しかったし、魔王様の役に立ちたいと思って積極的に仕事をしていた。
まあ今も魔王のリディの役に立ちたいとは思っているけど。
それでももう、俺は引退してゆっくりしたいという気持ちも強い。
古参で一番古臭い俺は、もう魔王軍には必要ないだろう。
「だけどシモンちゃん、めんどくさいって言いながらも、仕事はすごくちゃんとやるじゃん」
「そりゃそうだろ、仕事なんだから」
「嫌だったら、仕事をサボればいいんじゃない? そうすれば辞めさせられるんじゃない?」
「……まあ一理あるかもしれんが、これでもお前と違って仕事には責任を持ってやるんだ。長年続けている四天王の仕事を、おざなりには出来ないよ」
「そんなんだから魔王様に気に入られて、辞められないんだよー」
「まあ、気長にリディが俺に飽きるのを待つよ」
「そんな日来るのかなぁ」
来てくれないと俺が困るが。
「あと前から少し気になってたけど、なんで魔王様のことをリディって呼んでるの?」
「あー……俺はリディの父親と母親の知り合いだからな。リディが赤ちゃんの頃から知ってるんだよ」
「そうなんだね。だからすごい仲が良いんだ」
「本当は前みたいな会議の場では、お前らの前だしリューディア様って呼びたいんだがな。リディは妙なところで子供っぽいからな」
「ふふっ、シモンちゃんの前だけだよ、魔王様がああいう風になるのは。いつもは威厳ある態度だから、問題ないんじゃないかな?」
「……そうだな、いつも肩肘張ってると疲れるしな」
ただでさえ魔王なんてとても疲れる仕事で、重大な責任を負っているんだ。
リディはまだ十五歳だし、あのくらいは全然いいか。
「それと……ふふっ、あの会議の時の、魔王様を守るっていうの、カッコよかったよ!」
「はっ? あ、あー……あれか」
一瞬何のことだかわからなかったが、そういえば言ったな。
「確か……『お前は俺が絶対に守る、だから死ぬことなんて考えるな』だっけ?」
「おい、やめろ、恥ずかしいだろ」
からかうようにあの時の言葉を繰り返してきたアダリナに、苦笑しながらそう言った。
「確かに四天王の中で一番弱い俺が、四天王の誰よりも強いリディを守るのは無理かと思うが……」
「えー、別にそんなことうちは思ってないよ? シモンちゃんなら、リューディア様を守れるよ」
「そうか? まあ世辞でも嬉しいよ」
「世辞じゃないよ。だって今回のダンジョンだって、シモンちゃんがいなかったら本当に死んでたもん」
「あれは特殊な状況だからな。経験している俺が対応するのは当たり前だ」
「そんな特殊な状況が、リューディア様がなっちゃったら……その時に助けられるのは、シモンちゃんだけだと思うよ」
食べる手を止めて穏やかな笑みを浮かべてそう言うアダリナ。
その顔を少し恥ずかしくなり、目線を逸らしてしまう。
「買い被りすぎだ。今回のダンジョンだって、俺じゃなくてイネスでも対応出来たぞ」
「そこで他の四天王の名前を出すんだから、それくらいシモンちゃんが優秀ってことだよ。それにイネスちゃんも、シモンちゃんが育てたんでしょ?」
「まあそうだが……えっ、それどこで知ったんだ?」
「イネスちゃんに聞いたよ? 前に女子会……ああ、あの子まだ女の子じゃなかった。まあお茶会をした時に、イネスちゃんが自慢するように言ってたよ」
「そうか、イネスが……」
あの子は本当に……可愛い子だなぁ。
ん? なんか今、アダリナが言った言葉の中に違和感があったが……気のせいか?
「あの子も守ってやりたいが、俺よりも強いからなぁ……」
「ふふっ、シモンちゃんは守りたい人が多くて大変だねぇ」
「しかも守りたい奴が、俺よりも強い奴ばっかで、困ったものだ」
俺とアダリナは顔を見合わせて笑い、穏やかに夕飯を食べた……のだが。
「……お前、ちょっと食い過ぎじゃね?」
「だって美味しかったしねー」
ヒュドラの肉、おそらく一人で二十キロは食べていた。
「もっといるか? それなら肉はお前にあげるが」
「いいの?」
「もともとお前の領地で狩った魔物だしな」
「じゃああと五百キロ!」
「……まあいいが」
ということで、ヒュドラの肉はほとんどアダリナにあげた。
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