第7話 迷宮ダンジョンの攻略
アダリナや部下達にとっては、本当に絶体絶命の危機だった。
ダンジョンというものは、ただ魔物が出てきて、それを倒せばいいと思っていた。
いや、実際はほとんどのダンジョンがそうなのだろう。
今回の迷宮ダンジョンというのが、特殊なだけだ。
しかし……その特殊な例を知らなかったから、アダリナ達は死ぬかもしれないという恐怖に陥っていた。
まさか四天王が二人もいて、たかがダンジョンで命を落とすことになるとは……夢にも思わないだろう。
(うちの、せい……? うちが魔物を全部消滅させるくらいに殺しちゃったから……)
アダリナはそんなことを考えてしまう。
実際、アダリナが一匹でも消滅させずに死体を残しておけば、シモンが死体が消えるのを目撃して、迷宮のダンジョンだと気づいた可能性は高い。
ダンジョンの一番奥に来るまで気づかなかったのは、アダリナのせいと言っても過言ではないだろう。
「ご、ごめん、シモンちゃん、みんな、うち……!」
久しぶりに魔法を使って調子に乗っていた。
四天王の力を使っても、このダンジョンを破壊出来ない。
もうどうしようもない……そう思ったのだが。
自分のせいだと思い、俯いて泣きそうになっていたアダリナの頭に、そっと何かが置かれる。
「大丈夫だ、アダリナ。俺に任せろ」
アダリナが顔を上げると、シモンが頭を撫でていた。
安心する、大きな手だ。
「今回は、俺を呼んだのは正解だったな。アダリナ達だけで来ていたら、本当にヤバかったな」
アダリナの頭から手を離し、三本に分かれた道を見据えるシモン。
「迷宮のダンジョンだが、対策をするのは難しい。一番古典的でやりやすいのは、入り口から紐を引っ張って進むことだな。だが今回はもちろん、そんなことはやってない」
「じゃ、じゃあ、どうするの?」
「俺達がやらないといけないことは一つ、ダンジョンマスターを殺すこと。そうすれば迷宮じゃなくなり、もとの一本道に戻る。だけどこの迷宮のダンジョンの面倒なところは、ダンジョンマスターが奥の部屋にいなくて、どこかに隠れているというところだ」
シモンは目を瞑り、魔法を発動させる。
ふわっとした風が、アダリナの髪を揺らした。
「これまでの経験上、迷宮のダンジョンマスターは壁の中に隠れている。ダンジョンの壁は普通は壊せないが、隠れ部屋の壁は壊せる。だからその隠れ部屋を探す」
「そ、それなら、片っ端からダンジョンの壁に攻撃していけば……!」
アダリナの部下が救いの道があった、というように声を上げた。
「片っ端からやっていったら、さすがに魔力が足りなくなるだろうな。隠れ部屋の壁は壊せるといっても、結構硬い。結構本気でやらないと壊せないくらいだ」
アダリナとシモンがいても、全ての壁を片っ端から壊そうとしたら、さすがに魔力が切れてしまうだろう。
「じゃあ、どうするの……?」
アダリナが不安そうに問いかけると、安心させるようにシモンは笑みを浮かべて言う。
「だから、俺がその隠れ部屋を探す」
シモンは魔法を発動させ、集中する。
「どうやって?」
「風の流れを読む。隠れ部屋の壁は肉眼では全くわからないが、僅かな隙間がある。それを微量の風を魔法で流して、その隙間を探すんだ」
「そ、そんな繊細な魔法、出来るのですか……?」
アダリナではなく、その部下が驚いて問いかけた。
魔法は威力を上げるのは魔力を使えばいいだけなので簡単なのだが、繊細な操作は練習しないと身につかない。
風魔法で発動させた風を、完璧に操って把握しないと、そんな隙間を探すなんて無理である。
「魔法の威力はそこまでだが、魔法操作は自信があるぞ? まあ、イネスには負けるが」
四天王の一人、最強の魔法使いのイネス。
イネスはシモンよりももっと繊細な魔法操作が可能だが、シモンに勝てる者はイネス以外にはいないだろう。
イネスの魔法もそれほど上達したのは、シモンが教えたからだ。
「とりあえず俺が風魔法を発動させながら適当に歩くから、後ろをついてきてくれ。ワイバーンが出てきたら任せたぞ、アダリナ」
「う、うん、それはもちろん」
アダリナは自分も風魔法を使って隠れ部屋を探したかったが、さすがにそこまでの繊細な操作は出来ない。
魔法の威力はアダリナの方が上だが、魔法操作に関してはシモンの方が比較にならないぐらい上手い。
そしてシモン達は、またダンジョン内を歩き出した。
三本道の中から適当にシモンが選んで歩き、その後ろをアダリナ達がついていく。
少し歩くと、また分かれ道が出てくる。
奥に着くまではこれほど分かれ道がなかったので、完全に迷宮のダンジョンが、シモン達を迷わせようとしているのだ。
「ぶっちゃけ、隠れ部屋を探し出せるのは運任せだ。見逃すことはないが、辿りつくかは適当に歩き回るしかないからな」
「わ、わかった」
「イネスがいれば、その場で風魔法を一発やっただけで、ダンジョン内を全部探せるんだろうが……さすがに俺には無理だ」
悪いな、と謝るシモンだが、他の者からすれば隠し部屋を探せるだけすごいのだ。
シモンがいなければ、アダリナ達は何も出来ずに迷宮内をさまよい、餓死する運命だったのだから。
シモンを先頭に歩き続け、ワイバーンが出たらアダリナが殺していく。
歩くこと一時間……ついに、シモンが見つけた。
「おっ、ここだ」
シモンは壁に近づき、コンコンとノックするように叩いた。
アダリナ達が見ても、他の壁と何も変わらない。
「アダリナ、ここを壊してくれないか。お前の力で、そうだな……五割くらいの力が必要だな」
「んっ、わかった」
今度は魔法ではなく、身体を使うことにしたアダリナ。
五割程度の魔力を込めて、シモンが指差した壁にパンチをする。
ドンっと派手な音が響き、壁が崩れ落ちていく。
「よし、当たりだな。久しぶりに迷宮のダンジョンに来たから、外れてたらどうしようかと思ったよ」
「さすがだね、シモンちゃん!」
パンチをした感じ、四天王のアダリナの五割の力でギリギリ崩れるほどの硬さだった。
普通の冒険者とかが迷宮のダンジョンに来たら、おそらく隠れ部屋の壁を見つけても破壊することは不可能だろう。
「さて、ダンジョンマスターはいるか?」
シモンがそう言いながら崩れた壁の中に入り、後に続いてアダリナ達も入っていく。
中は広い部屋で、ダンジョンマスターがいると思って着いた先程の一番奥の部屋よりも、大きな部屋だった。
しかし……そんな大きな部屋が小さく見えるぐらい、大きな魔物が一匹。
「……ドラゴン系のダンジョンだから強い奴だとは思っていたが、まさかのヒュドラかよ」
シモンはため息をつきながらそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます