第5話 ダンジョンへ


 そしてようやく屋敷から出て、俺とアダリナ、そしてアダリナの部下数人と共に、突如現れたダンジョンへと来た。

 場所は山の中で、その場所に行くと洞窟の入り口のように、大きな穴が空いていた。


「ここには前は、洞窟はなかったんだな?」

「はい、そうです」


 アダリナの部下に聞くと、肯定の答えが返ってきた。

 つまりこれが、ダンジョンということだな。


「ダンジョンってこんな感じなんだぁ。面白いね」

「まあ面白いダンジョンもあるが……ここは村の近くだから、厄介だな」


 今はまだ落ち着いているようだが、ダンジョンから魔物が大量発生することが多くある。


 魔物を狩って資源を確保する目的ならいいのだが、今回は違う。

 兵士がほとんどいない村が近くにあるので、このダンジョンはとても危ない。


「このダンジョンを活かして、魔物の素材とかを確保するという手段は取らないんだな?」

「ダンジョンの管理とかもしないといけないんでしょ? 面倒なことはしたくなーい」

「だろうな。じゃあこのダンジョンは、制覇して潰すか」


 ダンジョンは、制覇すると潰すことが出来る。


 つまりもう魔物が全く湧かなくなるのだ。

 制覇する方法はただ一つ、ダンジョンの中にいるダンジョンマスターを倒すことだ。


 そいつを倒せばダンジョンは崩壊するのだ。

 だからまず、このダンジョンの難度を調べないといけない。


「とりあえず入るか。ダンジョンの魔物を見て、ダンジョンマスターの強さをなんとなく把握出来るからな」

「うちも入らないとダメ?」

「当たり前だろ。行くぞ」

「はーい……」


 そして俺達は、ダンジョンに入った。



 ダンジョンの中は真っ暗で、奥に入って太陽の光が入らなくなると、壁や地面が全く見えない。


 時々、ダンジョンの壁が少しだけ光る素材で出来ていることがあるが、すごく稀だ。


 普通はこんな風に、完全な暗闇なことが多い。


「アダリナ、光魔法」

「はーい」


 アダリナが指を軽く振ると、俺達の上に光の球が十個ほど出現して、辺りを照らしてくれる。

 ダンジョン探索には、光魔法が使える者がいないと話にならない。


 俺も一応使えるが、アダリナの方が魔法の練度は高いので、そこは任せた方がいいだろう。


「なんかジメジメしてて気持ちわるーい。ダンジョンってこんななの?」

「まあこんなもんだな。これでもまだいい方だぞ」

「帰りたくなってきた……ベッドでゴロゴロしたい」

「愚痴を言ってないで先に進むぞ」


 まだ魔物には遭遇してないが、ここの時点ですでに魔物の種類が絞られる。


 ダンジョンはなぜか、出る魔物の種類がほとんど決まっているのだ。

 獣系の魔物が出るダンジョンだったり、魚系の魔物、蛇系の魔物など……種類は多くあるが、出る魔物は種類が決まっている。


 俺が一番嫌いなのは、アンデッド系の魔物が出るダンジョンだ。

 別にそこまで強くないのだが……とにかく臭いのだ。


 腐臭の匂いが洞窟内に充満しているので、マジであれはキツかった。


 だから今回はそういう匂いがしないので、アンデッド系のダンジョンではないから安心だ。


 次に面倒なのが……。


「はぁ、ドラゴン系の魔物が出ることなんだが……まさかこのダンジョンがそうだったとは」

「ワイバーンだ。へー、久しぶりに見たなぁ」


 小さいドラゴンの容姿をしていて、二本足で立つ魔物、ワイバーン。

 翼と腕が一体化していて、爪がなかなか鋭く力も強いので、普通の奴があれを喰らったら一瞬で八つ裂きだ。


 多くのダンジョンがあるが、ドラゴン系のダンジョンは単純に難度が高い。

 ワイバーンなんて下手したら一匹で村一つ滅ぼせるぐらいの力を持っているのだ。


 それが、今俺たちの目の前には五匹はいる。

 ダンジョンなので、まだまだ奥にはたくさんいるだろう。


「なかなか面倒なダンジョンだな」

「そうなの? うちは初めてのダンジョンだから、どれくらい面倒なのか比較出来ないけど」

「二番目くらいに面倒なダンジョンだ」

「うへぇ、それは嫌だなぁ」


 俺とアダリナが適当に会話をしているが、後ろにいるアダリナの部下達は武器を構えて、緊張した面持ちだ。


 多分アダリナの部下だけでここに来ていたら、ワイバーン相手に全滅していたかもしれない。


 部下達が弱いわけじゃないが、さすがにワイバーンを相手に数人で勝てるかと言われたら、キツイと言わざるを得ないだろう。


 まあ……アダリナは余裕だろうな。


「アダリナ、一人でいけるよな?」

「えっ、うちがやるの? シモンちゃんでいいじゃん」

「お前がやった方が早いだろ」


 俺も四天王最弱といっても、さすがにワイバーンくらいは勝てる。

 だけどアダリナの方が強いし、ここは本来ならアダリナの領地で、アダリナがやる仕事なのだ。


 俺は補佐に徹した方がいいだろう。


「お前の手伝いをしてるんだから、お前がやってくれ」

「はーい。じゃあ……『炎烈球』」


 アダリナが指を上に向けてそう唱えると、炎の球が五つ出てきた。

 指を前に向けて振るうと、炎の球が前に打ち出される。


 それぞれ一つずつ、ワイバーン五体に当たると、ワイバーンは断末魔を上げながら燃え尽きた。


 鱗も骨も残らない、完全に燃え尽きている。

 一匹で村一つを滅ぼせるほどのワイバーンが、軽く出した魔法一つで燃やし尽くす。


 さすがは四天王の一人、アダリナだ。


 これで魔法じゃなくて、肉弾戦の方が得意というのだから驚きだな。


 後ろの部下達の何人かが、今の魔法を見て驚いている。


 どうやら最近アダリナの下についた者で、まだその実力をしっかり見たことがなかったのだろう。

 確かにいつものアダリナを見ている限り、こんなヤバい魔法を使えるとは思わないもんな。


 気持ちはわかるが、これでも四天王の一人だ。


 実力はやはり、人並外れている。


「終わったよ、シモンちゃん」

「ああ、お疲れ……まあ全く疲れてはないと思うけど」

「むしろ久しぶりに魔法を使ったから、調子がいいくらいだよ」

「そうか。多分これからもっとワイバーンとか出てくるから、その時はよろしく」

「はーい」

「後ろの奴らは、間違っても俺らの前に出ないようにな。ワイバーンに勝てる自信がある奴ならいいけどさ」

「は、はい、かしこまりました」


 この反応を見る限り、誰も前に出る奴はいなさそうだな。


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