アダリナとの仕事

第4話 アダリナとの仕事


「ダンジョンが、出現した?」


 俺は部下の知らせを聞いて、同じ言葉を繰り返して問い返した。


「はい、その通りです」

「はぁ、マジか……面倒だな」


 ダンジョンとは、『洞窟迷宮』のことだ。

 いつ、どこで出現するかなどは全くわからない。


 ほとんどが山の中に出てくるのだが、たまに村の近くに現れることもあり、非常に厄介だ。


 ダンジョンの中には魔物が多く出現し、その強さや量も決まってない。

 だからダンジョンが出現したら、まずはそのダンジョンがどれくらい厄介か調べないといけない。


「難度の段階は?」

「まだわかっていないみたいです」

「えっ? そうなの? ダンジョンが出てからまだ時間が経ってないの?」

「いえ、一週間以上は経っているようです」

「いや何やってるの?」


 それだけの時間があれば、どのくらいの難度のダンジョンなのかは調べられるだろ。

 なんで俺の部下サボってるの?


 まさか部下にすら、「こいつの言うことは聞きたくない、追放して欲しい」と思われてる?


「なんでまだ調査してないの?」

「さあ、わかりません」

「いや、どういうこと?」

「私達の領地の話ではなく、アダリナ様の領地の話だからです」

「あー……なるほど」


 そうか、あのアダリナの領地の話か。


 確かにあいつなら、一週間経ってもまだダンジョンを調査していなくても、不思議ではない。


「それなら、なんで俺にその話を報告したんだ? 俺の領地じゃないなら、関係なくないか?」

「……アダリナ様からのお手紙です」


 部下が俺に手紙を渡してくる。


 ……とても、とても嫌な予感しかしない。


 それを受け取って中身を読んだのだが……要約すると、こう書いてあった。


『ダンジョンの調査って初めてやるから、やり方わかんなーい! シモンちゃん、手伝ってー!』


 要約するというか、本当にこのまんま書いてあったわ。


「……これ、無視出来ないかな?」

「前に無視して、アダリナ様がこちらまで来たことを覚えておられないのですか?」

「そうだよなぁ……」


 あいつ、仕事はしない癖に、そういう時に限って行動力あるからな。

 仕事をさせるために俺を迎えに来るって、その行動力があるなら普通に仕事をすればいいのに。


「はぁ、とりあえず行くしかないか」

「頑張ってください、シモン様」

「他人事だと思って……適当な応援だな」

「そりゃ他人事ですので。こちらのお仕事はお任せください」

「ああ、任せたぞ」


 ということで、俺はアダリナの領地に行くことになった。



「で……アダリナ、なんでお前は寝てるんだ?」


 アダリナの領地に着き、アダリナがいる屋敷に来たのだが……。


 こいつ、昼間っから布団に包まってやがる。

 本来、四天王の仕事は結構忙しく、休む暇などあまりない。


 休憩時間が一時間もあればいい方で、俺はいつも五分程度しかない。


 その時間はただただ俺はボーッとしているが、他の四天王、例えばディーサとかは修行の時間に当てているらしい。


 イネスはお茶会が好きなので、いつも部下達と優雅に休んでいるようだ……俺も呼ばれたい。


 いや、呼んでくれているんだけど、毎回忙しくて泣く泣く断っているのだ。


 話が逸れた。

 つまり、四天王は……昼間っから寝てられるほど、暇じゃないということだ。


「おい、アダリナ! 起きろ!」

「んぅ……あー、シモンちゃん」


 布団を剥ぐと、ほぼ裸の姿をしたアダリナが、目を擦りながら上体を起こす。

 褐色の肌が健康的に見え、とても男を誘うような格好をしているのだろうが……俺は気持ちよさそうに伸びをするアダリナを、目を細めて見下す。


「お前、昨日は何時に寝たんだ?」

「んー、十時ぐらい?」

「ほー、ちなみに俺は一時に寝たぞ、寝る五分前まで仕事をしててな」

「わー、すごい偉いね」

「それで、今お前は、十二時過ぎに起きたわけだが……」

「本当は十時ぐらいに起きたんだけど、布団がうちを離してくれなくてね?」

「二時間も離してくれないなんて、布団は相当お前のことが好きみたいだな。そのまま同化すれば、俺が燃やしてやったのだが」

「うち、炎系の魔法、一切効かないよ? 知ってるでしょ?」

「じゃあ水をぶっかけて風邪を引かせる」

「あははー、うち生まれてこの方、風邪を引いたことないから、むしろ引いてみたいかも」

「ダメだこいつ、全然嫌味がきかねえ」


 この会話をしていたら、精神的にダメージを食らうのは俺の方だ。

 無駄にイラついてしまう。


「お前に言われて来たんだぞ、早く仕事するぞ」

「えー、シモンちゃんが一人で出来るでしょ? ダンジョンの調査なんて」

「出来るが、今回はお前が初めてだから付き合ってやるだけだ。今度またお前の領地でダンジョンが出来たら、お前が一人で対処するんだぞ」

「めんどくさいなぁ……」

「早く着替えろ、アダリナ。その格好じゃ外出られないだろう」

「あっ……いやーん、シモンちゃんのえっちー」


 今自分の格好に気づいたのか、ほぼ見えている両腕で抱えるように隠しながら、冷やかすようにそう言ったアダリナ。


 今さらすぎて、全く笑えない。


「頭をベッドに埋めるぞ」

「えっ、もう一回寝させてくれるの?」

「頭ごとベッドを壊す」

「ベッドは壊しちゃダメ! わかったから、今起きて着替えて準備するから」


 ようやくベッドからおりて、準備を始めたアダリナ。


 着替えて準備をするのはいいんだが……俺が部屋を出てから着替えろよ。


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