第3話 魔王、四天王の声
四天王達が魔王の間を出て行った後……魔王のリューディアは、玉座に座り昔のことを思い出していた。
自分がまだ小さく、力など全くなかった時のこと。
今と容姿がほとんど変わらないシモンが、リディの親に会いにきて、自分とも初めて顔を合わせた。
それから十数年と時は経ったが……シモンは今もなお、四天王の座に就いている。
強さは昔と比べてだいぶ落ちたが、それも理由があってのことだ。
シモンは数年前の人族との戦闘で……片腕を失っているのだから。
今は魔法で作った腕があるが、それでも力は格段に下がってしまっている。
だが、シモンの優れているところは、戦闘力だけじゃない。
戦闘力だけだったら、それこそ片腕を失った時に四天王を降りているだろう。
「くくっ……シモンよ、お前は四天王から降りたいらしいがな」
先程の会議で、そんなことを言っていたのを思い出す。
四天王から追放など、ありえない。
それに……先程、約束してくれたように。
『リディ、お前は死なない。絶対に俺が守る』
前からずっとそう思われていたのはわかっていたが、口に出されたのは初めてだ。
リディの父親……前の魔王が死んでから、シモンはリディのことを娘のように扱って、守ってくれていた。
ただ……リディとしては少し不満だ。
「ふふ、次期魔王がそんなに嫌ならば……私と結婚し子をなせば、次期魔王から外れる。まあ、まだシモンに言うつもりはないがな」
一人でそんなことを呟いて、少し恥ずかしくなって咳払いをするリディだった。
ディーサは、すでに魔王城を離れ、自分が統治している領地に戻ってきていた。
自分の屋敷の訓練場で、いつも通り一人で鍛錬をする。
彼女は四天王になるほどに強いのだが、彼女自身がその強さに全く満足していない。
ディーサが目指すべき強さは、昔に見たあの背中だ。
まだ四天王ではなく、ただただ獣魔族の長をやっていたあの頃。
自分の強さに酔い、人族に喧嘩を吹っかけてはボコボコにしていた。
その報復で、ディーサだけじゃなく、長をやっている領地にまで戦争を仕掛けられ、負けそうになっていた。
その時……あの男が来たのだ。
『生きてるか? もう大丈夫だ、絶対に助けてやるから』
あの背中に、ディーサは憧れた。
あれに追いつこうとして、ディーサはその後努力し続けた。
しかし……その男、シモンは前の戦いで、腕を失い力が落ちてしまった。
すでにディーサは、今のシモンよりも強い。
それに落胆したが、シモンは今の力でも十分四天王として仕事を果たし、四天王の頭脳として活躍している。
(だがそうではない、そうじゃないんだ。あの男は、私よりも強いのだ……!)
今でもディーサは、あの時のシモンを超えていないと確信している。
もうあの時のシモンはいないから、超えられないかもしれない。
だがそれでも、ディーサは努力し強くなり続ける。
「いつか、いつか超えてやる……! 逃げられると思うな、シモン。お前は私の、生涯のライバルだ」
イネスはシモンが仕事があると言って去った後も、テラスに残り一人で魔王城から眺める景色を楽しんでいた。
一人で楽しむのも好きだったが、やはりシモンと一緒にいた方が楽しかったと思ってしまう。
イネスは、シモンが好きだ、大好きだ。
四天王の先輩としても尊敬しているし、シモンと一緒にいると心が高鳴って楽しい。
他の人にはとても口下手なイネスだが、シモンとは自然に話せるのだ。
それはかつて……シモンに、命を救ってもらったからだろう。
壊滅した村で一人残っていたイネスを、シモンが拾ってくれた。
『一人でここにいたら寂しいだろ? 俺と一緒に来ないか?』
最初は話せなかったイネスだが、シモンは根気よく話しかけてくれて、一緒にいてくれた。
シモンがいなかったら、イネスは壊滅した村で一人、餓死していただろう。
シモンが話しかけてくれたから、イネスは心を開くことが出来た。
イネスは本当に、シモンに全てを助けられたのだ。
「……また一緒に暮らしたいなぁ」
助けられた当初は、シモンの屋敷で一緒に暮らしていた。
しかし今となっては、イネスも強くなり四天王となったので、イネスの領地がありそこに自分の屋敷がある。
さすがに四天王同士が、一緒に暮らすことは出来ない。
――結婚をすれば、話は別だが。
「ふふっ……シモンさん、驚くかなぁ。ボクが、女の子になったら……」
現在、イネスはある魔法を研究中だ。
それは、性転換の魔法。
つまり……そういうことだ。
「絶対に、誰にも渡さない。シモンさんは、ボクのものだから」
魔王城から見える光景を、動向が開き切った目で眺めているイネスだった。
「ふぁぁ……最近は会議で忙しかったから、今日は久しぶりにゆっくり寝れるなぁ」
四天王の一人、アダリナは自分の領地の屋敷に戻り、欠伸をしながらそう呟いた。
彼女はシモンとは仲が良くもなく、悪くもない。
普通の同僚という感じだ。
ただシモンが四天王としてずっとやってきたのを見ているし、仕事ぶりはとても評価している。
アダリナは四天王の仕事がめんどくさくて、よく部下やシモンにやってもらっていた。
シモンは嫌々ながらも手伝ってくれるから、アダリナにとってシモンはとても優しい同僚という感じだ。
「あー、だけどシモンちゃんが魔王になっちゃったら、仕事任せられなくなっちゃうかも」
魔王に仕事を任せる四天王なんて、絶対にいないだろう。
「やっぱりシモンちゃんが次期魔王になるの、反対すればよかったかなぁ?」
そう思うも、すぐに自分が反対しても意味なかったと気づく。
「うちが反対しても、魔王様含めてみんな賛成してたもんなぁ。まさかディーサちゃんも賛成するとは思わなかったけど」
ディーサがシモンを嫌っているのは、二人が会話しているところを見れば誰でも気づくだろう。
だがなぜ嫌っているのかは、誰も知らない。
しかも嫌っているはずなのに、次期魔王になるのは認めるというのは、シモンの実力や人柄を認めているということだろう。
「ふふっ、もしかしたら、嫌よ嫌よも好きの内、みたいな感じなのかなぁ」
そういう話が好きなアダリナは、ちょっと妄想して楽しくなってしまう。
そこにアダリナの部下の男が一人近づく。
「アダリナ様、今回の会議はどうなりましたか?」
「んー? 会議は今回で終わって、やっぱりシモンちゃんが次期魔王に決定したみたいだよ」
「っ、そうですか。おめでたいことですね」
「シモンちゃんは嫌がってたけどね。ふぁぁ……私はそろそろ寝るね。あの仕事やっといてねー」
「かしこまりました」
そしてアダリナは、自室へと戻ってふかふかのベッドで眠りに落ちた。
「クソッ、なんであんな雑魚がずっと四天王を勤めてるんだ……! 俺の方が、四天王に相応しいというのに……! 絶対に、絶対に俺が、四天王になってやる……!」
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