第7話 絶望は希望になることはなかった

  二宮の作戦が成功することを信じ俺はこのラスト2週間で最善を尽くす作戦を考えた。しかし1日がたった今、まったく浮かんでこない。2週間で間に合うのか。それに、まだ、範囲が違うところがあるかもしれん。そういうことを考えるとどのやり方にしても補えないくらいギリギリになる。さすがに一徹となるとつらいもんだな。

「どうした良太。お前が徹夜とか」

 珍しく父さんと顔合わせをした。父さんは夜仕事をして昼間寝ているから。俺とはまったく時間が合わない。

「俺ではないんだが、俺が教えている奴がちょいとまずくてな」

「なるほど妹が」

 母さん聞いたのだろうか。

「知ってたんかよ」

「え、まじなの?」

「は?」

「いやそういう感じならアニメっぽくていいなと思ってただけだ」

 忘れていた。俺のアニオタは父親譲りだったってことを。

「妹と付き合ってる」

 この人には嘘は付けない。ギャンブル漫画にあこがれて勉強したせいで、いかさまを見破る天才だからだ。

「なるほどな。それで最近土日いなかったのか。事情は知ってる。お前のことを覚えてないんだろ。それで、付き合い始めた。お前だって何年もたって見覚えがあっても確信にはもてなかった。けど何かをきっかけに気づいてしまったってところか?」

 マジでこの人エスパーかよ。

「ほとんどあってる」

「だったら詳しくは母さんに聞けばいいんだろ」

「なんで母さんがでてきたんだ。この話で」

「今日デートだから」

 なるほど。こいつら離婚しても仲良いんだった。

「ここ最近会ってなかったんだろ」

 とはいえ、最近会ってなかったしもう終わったのかと思っていた。

「予定合わなくてな。ちょうど互いに休みの日かぶったから再婚の話しようといっていたが、この状況になってりゃさすがに無理だな」

「てかそんなに仲いいのに離婚したんだよ」

 流れ的に今まで疑問だった部分を聞いた。

「2人の意見の食い違いだ。詳しく聞くな。失望するから」

 意見の食い違いか。その程度で離婚するような2人でない気がしていたが。再婚となると兄妹だったってこともばれてこの関係ではいられないのか。

「再婚する気なのか?」

「安心しろお前らがこの関係を続けたいならする気はない」

「いやだけどよ」

 母さんにも知らない人と仲良くすることを学ばせれるべきだから隠してほしいといっていたのもわかる。だけど、2人がまた一緒にいたいと思う気持ちよりこれを優先するべきなのか考えてしまう。なんせあっちは本当の恋だが、こっちは嘘の恋なんだから。

「この事態にしたのは俺たちだ。本来ならお前らは兄妹のままだったし、京香にも辛い思いをさせずに済んだ。だったらお前らの気持ちを優先するさ。あの日のように」

 この言葉は俺を複雑な気持ちにさせた。この事態があったから妹と付き合えている。けどなかったら、妹だった。当たり前なことのはずなのになんだろう。それがすごくつらい。

「っま俺はもう行く時間だからいくが、良太これだけは覚えておけよ。今は恋人で入れてもあいつが気付こうが気づくまいが関係なくいづれお前らは別れなきゃいけねーんだからな。その覚悟だけは持っておけ」

「あー」

 余計なことをいって父さんは出かけて行った。そんなの分かっているのに。


「先輩おはようございます」

 外に出ようとしたらインターホンが鳴って眠たそうな京香ちゃんがいた。京香ちゃんがいるだと。待てよ

「いろいろききたいことあるけど何で家知ってるの?」

「え、なんでだろう。なんかこの辺な気がしたんですよね」

 記憶が戻りつつあるのだろうか。俺が住んでいた家は家族で暮らしていた家だし。

「なるほどね。それで、朝早いのは?あと眠たそうだけど」

「先輩言ってたじゃないですか。間に合う気しないんですよね。だから」

 もしかして徹夜して勉強をしたのか。

「だから徹夜して勉強できるか試すためにずっと起きてました!!それで起きれたので徹夜で勉強できます!!」

「えーとその時間の間は?」

「ベットですよ。何回寝そうになったか」

 わかりやすくまとめると、京香ちゃんは自分が徹夜をできるのか実験をした。しかし、あくまで実験のため、勉強はしていない。そしてベットでずっと過ごしたことで徹夜ができることが立証された。冷静になれ。これは確実のおかしいと。

「その間に勉強してればよかったのでは?」

「!!そうですよね。勉強で寝るかもしれませんもんね」

 そっちじゃーなーい。できなくても少しでも覚えようとすることが大事なんだよな。でも、京香ちゃんは京香ちゃんなりに頑張ってそうだしここはやさしくしておかないとだよな。

「でも、これで徹夜行けそうだな。俺も頭のいい知り合いに頼んで打開策練ってもらってるから」

「ありがとうございます」

 彼女は頑張っているようだが、少し心配だな。授業中に寝てしまいだろうな。今日の様子を見たほうがいいかもな。

 心配なとこもあるが、それくらいしないと間に合わないのは事実だから止めることもできない。


 授業中も彼女のことが心配で集中できない。

「りょうちん大丈夫?」

 隣の櫂に声をかけられた。

「なんもねーよ。ただ京香ちゃんが」

「まーたそのこなんか。心配なのはわかったけどよ付き合ってからずっとだろ。たまには息抜きしたらどうだ?」

「出来たらしてるよ。できねほーどぎりぎりなんだよ」

「でもそれで高校合格したのすげーよな」

 考えたことなかったがうたしかにそうだな。小学校の問題すら解けないのに合格できることはおかしい。京香ちゃんがバカすぎてそんなことすら忘れていた。なわけないか。

「本人は頑張っていることだし、夏休みゆっくりさせる予定だよ」

「そしたら俺と遊んでくれよ。それまでは俺も我慢すっから」

「悪いな」

 京香ちゃんと出会う前まではほとんど櫂と遊んでたんだっけ。それすらも忘れていた。遊んだとき飯でもおごってやんないとだな。 

「そこ2人うるさいぞ」

 授業中だったの忘れてたー。普通に会話してしまった。


  そして昼休みを迎えた。京香ちゃんの様子を見に行くことにした。

あまり人がいる時に教室行ったことないからみんな驚くだろうな。こんな奴に彼氏がいるって。


そう思っていたが、教室には彼女の姿はなかった。御手洗にでも行ったのかな。あ、でも道具すらないな。

「ねぇ京香知らない?」

 とりあえず扉の近くにいた生徒に聞いてみた。

「あの子なら保健室行きましたよ。そのまま帰るかもって道具は先生が」

 やっぱり体調崩してしまったか。毎日勉強漬けで疲れているのに急に徹夜はやはり無理があるか。

「ありがとう」

 走って保健室に向かった。


「京香ちゃん!!」

 扉を開けると保健の先生と母さんと母さんと肩に横たわって寝ている京香ちゃんがいた。

「あ、もしかして噂の彼氏さん?」

 噂?俺そんな有名になってるのか?

「良太くんこんにちは。そうですこの子が私の娘の彼氏です」

 あんたが先生に話しただけかよ。

「それで大丈夫なのか?」

「ただの疲れ。テストが近くて頑張ってたからそれだろうね」

 先生はそう言っているが、母さんの顔を見るとこの程度のことで出せる顔でない。言葉には表現するのは難しいのだが、こう心配を通り越して絶望?いやなんか違う。戦意損失というのが一番近いのか。とにかく放心状態だった。

「ならよかった」

 多分隠そうとしているのは俺でもわかった。

「彼氏の様子見たことだし私は帰るとしますか。ほら京香もう帰るよ」

「う、うん。あれお兄ちゃんなんでいるの?」

 !!バレたのか。いやバレたのなら隠すことができないはず。しかし、今はっきりと先輩ではなくお兄ちゃんといっていた。

「何寝ぼけてるの」

「あれ、先輩だ。すいません」

 母さんの一言で目が覚めたのか。それとも正気に戻って知らないふりにしたのかははっきりとわからない。

「とりあえずゆっくり休んで。テストのほうはあまり無理しなくてもできるよう友達と考えるから」

 期末テストが終わるまではあまり考えないようにしないと。

「車で待ってる。少し話があるからきて」

 母さんが出ていくときに耳元で俺にささやいた。

「先輩またね」

「さっさと直せよ」

 話か。俺のことを兄と認識したことなのか。それともその他に今話しておかないといけないことがあるのだろうか。

 気持ちを落ち着かせ駐車場に向かった。


「悪いね」

 廊下を出てすぐのところに母さんだけがいた。

「京香は?」

「車で寝てる。あの子の前では話せないから待ってたの」

 つまり京香ちゃんが知らない新たな事実とかか。

「どういうことだ。あいつ俺のことを知っているのか?」

「それについては、私にもわからない。あの子隠せる人じゃないから多分戻ったというよりは感じた。まだ感覚なだけではっきりとしていない」

「それで、うちにきたってことか」

「家?どういうこと?」

 母さんはそのことを知らないのか。

「今日の朝俺の家まで来た」

「そうなんだ」

 またさっきと同じ顔をしている。

「何か隠してるのか?今回のただ疲れってわけではないんだろ」

「あの子、人より体が弱いのよ。一緒に暮らしてた時は気づかなかったから良太は知らなくて当然なんだけど」

 体が弱い。そして無理な徹夜が重なって起こったこと。それならなんとか理解することができる。

「ここまではあの子も理解している。そして、事故の後遺症でたまにめまいとかするようになったらしいの」

 体が弱いうえに後遺症でめまいがするようになった。つまり、無理をさせるとめまいが起こりやすい。

「なるほどな。ジャーあまりどころか無理はさせないほうがいいんだな」

「これくらいなら話せた。でも、これを知ったらいづれ気づいてしまうのが怖かった」

 どんどん顔色が悪くなっている。これ以上話すと母さんにも無理させそうだな。

「なるほど。こっから話はまた今度にしよ。すごくつらそうだし」

 そう言い残すとすぐに廊下に入った。そうすれば強制的に話を終わらせることができるから。

「待って。最後まで聞いて。お願い」

 俺の裾をつかんだ母さんは泣きそうになっていた。相当やべーことなのは分かっているんだけど妹のことはなるべく聞いておきたいのは事実だし

「わかったよ」


「話しちゃダメ!!」

 ふらふらの状態で京香ちゃんが歩いてきた。あんなでかい声出せたんだな。

「おかあさん今、先輩に私のことを話そうとしてたでしょ」

「うん。体弱いこと話さないといけないでしょ」 

 事実だが、うまくごまかそうとしている。

「それなら私に隠す必要ない。あのことも」

 京香ちゃんは焦っている様子。京香ちゃんは知られたくないんだろうな。

「いや事実だから。外に来たらたまたまいて」

 今は母さんをサポートしておかないと。

「先輩がいうなら信じますよ。うっ!!」

 無理したせいでまたうずくまってしまった。

「まったく。早く帰って休ませないと。良太君ごめんね」

「いえ」

 さすがにこれでは今日聞くことはできないだろうな。でも、無理をさせることはダメなのはわかったし。予定変更もしないといけないだろうな。これ以上予定をそいで大丈夫かよ。二宮に託した物はいいとして、ほかの教科もするしかないよな。

 もっと早くこの状態になることを気づいていればもっと休憩をはさんだりしていたのに。なんで気づかなかった。この事態は俺のせいでなったことだ。二宮のおかげで、希望が見えたが。まだ絶望のままのようだ。

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