第62話:回復術師は対峙する

 魔王の急所が人間と同じかどうかは分からないが、左胸を狙う。

 慎重に照準を合わせ、魔法を展開。


 一切手は抜かない。初めから全力の攻撃を叩き込むのみだ。

 六属性と無属性の合わせて七属性の魔力弾を練り込む。


 七色の魔力弾レインボー・バースト——これが最大火力だ。


 よし、準備オーケー。この一撃で何とか——

 と思った瞬間だった。


 魔族の右手が動き、サンヴィル村に突き出した。

 強烈な魔力量の黒色魔力弾を生成し、今まさに飛び出そうとしていた。


 ——アレはやばい。


 あの一撃でサンヴィル村どころか、この辺一帯が吹き飛んでしまう。

 俺は急遽進路を変更し、魔王の右腕を狙って発射した。万が一放たれてもこの場で魔力弾を起爆できるように——


 結果としてそれは正解だったのだが——


 ドゴオオオオンッッッッ!!!!


 強烈な爆風とともに、俺の存在を知らせることとなってしまった。

 しかし幸いというべきか、あの一撃で魔王の右腕を吹き飛ばすことに成功した。


 魔王の赤く鋭い眼光が、俺を照らす。


「——クク……まさか人間如きが我の腕を吹き飛ばそうとはな……痛みで目が覚めたではないか」


 ヒューっと下降してくる魔王。


「貴様、名を何という——?」


「ユージ。聞いてどうするつもりだ?」


「我の腕を吹き飛ばしたことに敬意を表し、ぶっ殺すのだ! 貴様だけは未来永劫忘れぬだろう……死ねい!」


 そう叫んで、地を蹴る魔王。

 速い……俺じゃなきゃ見逃してしてしまうほどの速さだ。


 だが、この速さが仇になってしまうことをこの魔王はまだ知らない。

 俺はサッとステップで左にジャンプした。


 そして次の瞬間——


「ぐほへっっっ……!?」


 さすがはリリアだな、タイミングがバッチリだ。

 正確には俺が魔弾の発射を確認して当たらないようサッと避けたのだが、このタイミングの発射という判断が正しかったという事実は変わらない。


 リリアの攻撃は破壊力・速度ともに魔王に敵うものではない。

 しかし、魔王自らの脚力で向かってくれるタイミングで迎え撃つのであれば話は別だ。


 アレでもとんでもない攻撃力になる。


「な、仲間がいよったか……しかし、我はこの程度では死なん!」


 魔王が怯んだタイミングで、リーナのデバフが次々とかかっていく——


「な、なに……力が抜けていく……なぜなのだ!」


 あれ……?

 なんか戦ってみたら意外と良い勝負になってないかこれ……。


 考えてみれば、魔王といえども神話時代に人類が勝利した相手なのだ。勝てない相手ではない。

 他にももしかすると、復活してすぐは能力の全てを使えないのかもしれない。

 だとすれば、このままの勢いで攻めれば勝てるかもしれないってことか——


「おいおい、魔王も大したことないんだな。名前だけかよ」


「我は……我は魔王なのだ! 全ての魔物を従える王なる存在! 数千年の長い眠りから覚め、完全には力が戻っていないだけなのだ——!」


「知るかよ、それなら俺たちにとってはチャンスだ。悪いが、手加減なしでさっさと片付けさせてもらうぜ」


 俺はデバフとダメージの蓄積で動きにキレのなくなった魔王に向けて、次々と『七色の魔力弾』を打ち込んでいく。

 俺が持つ単発最高火力の技はどうやら魔王にも有効だったらしく、ガリガリと生命力を削れているという実感があった。


 だんだんと魔王が後退し、非常に良い形勢が出来上がっている。

 しかし、


「クソォ……クソォ……こんなものではないのだ! 本来! 魔王というのは! ウオオオオオオ……こ、これだ……この力漲る感覚……!」


 魔王の叫びとともに、どんどん魔力の膨張が観測できた。

 自然界の魔力を吸収し、どんどん膨張しているらしい。これは一種の技術——魔法だな。

 これまでの常識では自然界の魔力を吸収することは不可能だとされていたが、こうして間近で見るとなかなか勉強になるな。


 ——なんてこと悠長に考えている場合じゃないか。


 魔王は俺に向けて右腕を突き出し、さっきよりも何倍も強力な魔力弾の準備を始め、コンマ一秒後には——


「さらば、ユージよ。死ねい!」


「なにを勘違いしているのか知らんが——」


 俺は『七色の魔力弾』を遅れて発射し、魔王の魔力弾にぶつけた。俺の攻撃は魔王にも打ち負けることなく均衡しつつの爆散。


「な、なぜなのだ……!」


 種明かしをしてしまうと、俺は魔王と同じことをしていた。

 魔王が自然界の魔力を吸収する様子を観察し、そのまま真似することで再現する。


 人知を超えた破壊力を可能にする魔法——超越ヒールとでも名付けようか。


「く、くそ……どうすれば……よもや魔王である我が人間なんぞに負けるなどあってはならんのだァ!」


 打つ手なしと考えたのか、ヤケクソになって突進してくる魔王。


「命をかけた死闘ってのはさ、ヤケになった方が負けだって知ってるか?」


「知らぬ!」


「じゃあ、教えてやるよ」


 もうこの瞬間に、俺の勝利プランは確定していた。


「リリア、魔王を全力で狙ってくれ!」


「わ、わかったわ!」


 俺が叫ぶと同時に、飛んでくる魔力弾。


「ふん、そんなもの効かぬ! 止まればどうということはない!」


「本当にそうかな?」


 俺には、もう一つとっておきの秘技がある。……と言っても、この前開発したばかりのものなのだが。


 風魔法で強力な電撃を発生させる魔法——『深黄の雷撃インフェクション・スパーク』。これはコウモリのような雑魚敵向けの魔法だったのだが、リリアの攻撃と組み合わせれば超高火力の化け物魔法として使えるポテンシャルがある。


 この魔法は、一定範囲内の物体に連鎖的に電流が流れるという仕組みになっている。

 実は、連鎖する対象が多ければ多いほど攻撃力は増していく。


 リーナのデバフで弱った状態で、リリアの放つ一万発の魔弾全てに連鎖した電撃。


「これで終わりだ」


 俺が魔法を放った瞬間、魔王を超高電流・高電圧の電撃が襲った——


「ウガアアアアアアアアァァァァ…………」


 次の瞬間には、炭となり、変わり果てた姿の魔王がドサっと倒れた。

 俺は念のため、『探知』で本当に死亡しているのか確認する。


 その結果、魔力反応なし——


 魔王は完全に息絶えていた。


「や、やったの……?」


「やりましたか!?」


 様子を確認しにこちらへやってくるリリアとリーナ。


「ああ、やったよ」

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